第10話:戦慄少女と奮闘する大魔導士様
「そういえば、お主たちはどうして旅をしているんじゃ?」
「あれ? 話してなかったっけ?」
「吾輩はヴィリアンドを討つために旅をしているんだ」
「ふむ、復讐ってところじゃな。ということはお主たちも……いや、聞かないでおくとするかの」
しばらく朝焼けの照らす大地を歩きケミシラとネラルを隔てる川に出る。真ん中には橋が架かっており、その先へ進むのかと思いきやサリさんは橋の横を進んでいった。
「どうしたというんだ?」
「どうしたもなにも神殿はこの水の中じゃ。まさか泳げぬなど言わぬじゃろうな?」
「それは大丈夫だけど……」
「結構深そうですね」
「こういうところはお嬢様なんだな……まぁいい。サリ・ドラン、まずは吾輩を連れていけ」
「魔女遣いの荒いやつじゃの……まぁ分かったのじゃ」
私とお姉さまは共に川岸で2人の帰りを待っていると、数分もしないうちに2人は慌てた様子で戻ってきた。
「随分早かったね?」
「塞がってたのじゃ……」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だ。おそらく洞窟があったであろう場所を大岩が塞いでいたんだ……」
「またグレイアルムたちの仕業⁉」
「まぁそうだろうな。さて、どうしたものか……」
「儂の魔法が炎属性じゃなければの……」
「吾輩の魔法が呪われていなければ……」
「結局まだ使えないままなんですね」
「あぁ」
「ってことはリィの出番じゃん!」
「止めておくんじゃな」
「どうして?」
「おそらく最近魔法を連続で使ったばかりじゃろ?」
「どうして知って……」
「いくら膨大な魔力に耐えうる器の持ち主でも、もとより自分で魔力を生成できる量を超える魔力を受ければ器にひびが入るのも当然じゃ」
「それじゃあ……」
「ネラルに情報収集といこうかの」
「忘れたのか? 吾輩たちは」
「お尋ね者じゃろ? わかっておる、ネラルに向かうのは儂とコワグで十分じゃ。お主たちは図書館で追加の情報でも探しておくんじゃな」
「分かった!」
私たちは再び移動魔法でスムスドン国立図書館に戻ると、サリさんはコワグさんを連れてネラルに向かっていった。
「とは言っても何について調べる?」
「銀髪のランクの出どころは掴めたのか?」
「いえ、サリさんに相談しても全く分からないとのことでした」
「普通に考えるならさ。リィがヴィリアンドの血縁者って考えるのが妥当だよね?」
「まぁな。だが、お前たちのことをあいつは全く知らないんだよな?」
「そうですね。あくまで私たちはミレハイルお父様の娘という認識でしょう」
「だよね! 私はあの怒りに満ち満ちたヴィリアンドの顔見たけど……あれかな? 血縁者とか関係なく横暴なだけかな」
「まぁそれはあるだろうな」
「そういえば、どうしてルディリアは彼に襲われたのですか?」
「吾輩はラカルイアを囲うような形で領地を持っていた。ただ、それだけだ」
「本当に? 何か危ないことしようとしたんじゃないの?」
「するわけ……するわけないだろう‼」
突然ルディリアは何かを思い出したかのように声を荒げる。からかい調子だったお姉さまは半泣きになりその場にへたり込む。
その様子をみたルディリアは一瞬、ばつの悪そうな顔を見せたがすぐに顔を背けて隣の部屋に入っていこうとした。
「ル……ディ……?」
「悪い……ちょっと1人にしてくれ」
「分かりました」
ルディリアは私たちを残して部屋を去る。お姉さまは体を縮めて、時々発する声にならない息と嗚咽は震えていた。
「大丈夫ですか? お姉さま……」
「う、うん……ちょっとびっくりしちゃっただけ……」
「それにしてもどうしてあそこまで……」
「怒らせちゃったよね……どうしよう……」
「落ち着いたら後で謝りに行きましょう。理由も聞けたら良いのですが……」
「そうだね……」
* * *
「さて、何か情報がつかめるといいんじゃが……」
「よう、サリの姉貴! 今日はどうしたんだ?」
久々に冒険者協会にやってくるや否や酒場の店主、ボークァ・ギラにそう声を掛けられる。
「相変わらずお主に姉貴と言われるのは違和感があるの。身長差を考えてみるのじゃ、数十で済むのかの?」
「曾爺さんの時からここと付き合いあるんだからそう呼ぶのは当たり前だ! で、用は何なんだ?」
「あぁ、お主ケミラル河について何か知らんかの?」
「ケミラル河? いろいろあるぜ。先週は魚の大群の出現とか、その前はガキが遊んでいたところに船が突っ込んで危うく事故になるところだったとか、あとは……」
「そういうんじゃなくて、もっと大きな出来事無いですか⁉」
「コワグ、落ち着くんじゃ」
「おぉ、怖い怖い。大きな出来事ねぇ……あぁ、1つあるな。あんまり関係ないかもしれないがな」
「まぁ話してみるんじゃ」
「あぁ、それこそお前たちの図書館でボヤ騒ぎがあった日だったか翌日位に貨物がケミラル河に突っ込んで沈んでいったらしい。しかも貨物に爆薬が仕込まれてたのか分からないが水中で大爆発を起こしたんだとよ」
「貨物に爆薬……? 他に分かってることはないのかの?」
「そうだな……強いて言うならケミシラからラカルイアに運ばれる予定のものだったってことくらいか?」
「ふむ、関係があるかは分からぬが覚えておくとするかの」
「ってか、どうしてそんなことを調べているんだ?」
「儂にもいろいろあるんじゃよ。それじゃあの」
「あぁ! また来てくれよな!」
* * *
静かな部屋に柔らかな橙色の光が差し込んでくるころ、外行の格好をしたサリさんとコワグさんが図書館に戻ってきた。
「戻ったのじゃ……って、ルディリアはどうしたのじゃ? それにラッセムはどうしてそんなに縮こまっているんじゃ?」
「ちょっといろいろありまして……」
さっき起こった出来事を手短にサリさんに伝える。サリさんは腕を組んで少しだけ悩むような素振りを見せると、早々にルディリアのいる部屋に入っていった。
「なっ……サリ・ドランか。帰ってたのか」
「どうしていきなり怒鳴ったりしたんじゃよ」
「聞いたのか……悪いが言えない。だが、悪いとは思っている」
「ふむ……何があったのかは聞かぬが他の誰か、それも女子に当たるなど……」
「分かっている……」
「それじゃ、仲直りと行くかの。まぁ仲違いしたわけではなさそうじゃが。ほれ、ラッセムこっちに来るのじゃ」
サリさんにそう呼ばれて隣の部屋からお姉さまがちらりと顔をのぞかせる。顔を見せたお姉さまの体は震えており、ルディリアへの恐怖はまだ薄れていないようだった。
「ルディ……ごめん、ごめんなさい。私が気に障ること言っちゃったんだよね……」
「何も話せていない吾輩のせいだ。悪かった」
「もう怒ってないの?」
「別に怒っていたわけじゃない」
「そっか……よかった……」
お姉さまは恐る恐るルディリアを抱え上げるとそのまま抱きしめる。その様子を見てほっと胸をなでおろすと、サリさんは咳ばらいをしてみんなの注目を集める。
「悪いが話を戻させてほしいのじゃ」
「そうだ。ネラルで何か得られたのか?」
「それがの……何も得られなかったんじゃよ」
「そうでしたか……」
「お主たちはどうやって地の神殿を見つけたんじゃ? 似たようなルートから考えるしかないと思うんじゃが……」
「とある冒険者を助けるために森に入ったら地の神殿に続く遺跡があったってところだ」
「そこで神狼に会ったんだよね……」
「神狼……ヴィリアンドの四肢みたいな存在じゃったか」
「あぁ……あ? 水国に来てからあいつらを見かけてないな?」
「確かに。神狼どころかグレイアルムすら見かけて無くない?」
「グレイアルムなら、そろそろ現れるころじゃないのかの?」
「そうですね」
次回は4月27日です。
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地図を更新しました!
本当は前回から更新する予定だったのですが忘れていました……
(現在は水国の地図に更新済みです)




