サンシンとの対面
「え、あれが?」
シマダは半ば強引に、ジンをサンシンに引き合わせた。
「そうそう。だいたい見た目、人間と同じなんだよ」
鎖で繋がれていたサンシンは、ジンよりも幼そうなただの少女にしか見えなかった。
体中の無数のあざと、刃物で切られたような切り傷が痛々しい。生きてるのか死んでるのか分からなかった。
少女は顔をあげ、二人を睨んだ。ジンは、そんな目を初めて見た。この世の全てを恨んでいるような目だった。
「何してんだ」
振り返ると、タツキについているヒグマだ。
「ああ、ちょっと…見学に」
シマダが誤魔化す。ヒグマは、ちらりとジンを見た。
「見るだけならいいが、余計なことすんじゃねぇぞ」
コトン。ししおどしの音がした。池の鯉が跳ねる。三人は目を合わせたまま。
「ええ、見てるだけです。な、ジン。サンシンなんて滅多に見れるもんじゃないでしょう」
シマダが笑って答えたので、ジンもヘラヘラして頷いた。
「シマダ、出世したいなら、味方につける人間を考えろよ。ヤマダじゃねぇんだから」
「どういう意味です?」
前のめりになったシマダの肩を、ジンが掴んだ。
「いいから」
ジンは、笑顔でシマダを制した。シマダは何か言いかけて、やめた。ヒグマは少し目をそらした。
ヒグマが立ち去って、二人は無言だった。
「そろそろ風呂入って寝るよ」
「あ、ああ。そうだな」
「おやすみ」
ジンは自覚していた。
自分が組長の息子として、扱われていない、組員よりも下の存在として扱われていること。
なにか自分がしでかせば、この生活でさえ壊されてしまうこと。
ジンは、風呂場の鏡を見た。ヘラヘラと笑っている。いつも通り、愛想のいい美少年がいた。
少女の、あの瞳を思い出した。真似したかったが、やり方が分からなかった。