ボスへの挑戦
ボロボロになった構成員達がメシを食らう。
「皆、サンシンにやられたの?」
一緒に食事しているジンは聞いてみた。
「ああ、あれはヤバい」
昨年組入りしたキツネ系の若い組員が答える。なにかとジンの相手をしてくれるシマダという。
その言葉を皮切りに、あちらこちらでサンシンの話題に。
「手足は鎖で繋がれてる状態なんだけど」
「手伸ばしたら噛まれて指千切られた、なんとかくっついたけど」
「腹に蹴り入れようとしたら、固くて跳ね飛ばされた…なんだあれ」
出てきた話は、にわかに信じ難い。
「もうほぼ全組員が挑戦したが、全滅だ」
「え、じゃあ、駄目じゃん。どうすんの」
「組長がお帰りになったら、どうにかされるよ。勝算があるからお買いになったんだろう」
ジンの心配に、ヤマダが気楽に答える。ジンの父親である組長は、不在だった。いつ戻るのか何をしてるのか、ここにいる下っ端達やジンは知らない。
食事が終わり、片付けをしていたところ。ジンは、シマダに手招きされた。
「何?」
「ジン、お前は挑戦しなくていいのか」
「え、何に」
「サンシンのボスだよ」
「いや、皆が無理なら無理でしょ。第一、俺は組員ていうか」
シマダはジンの肩を掴む。
「これから、食事抜いてサンシンを弱らせるんだ。じゃないと、太刀打ちできねぇからな、あんなん。俺らは勝てない状態で実験的に戦わされただけ」
「ええ、無駄骨じゃん…」
「そうだよ、そんで弱っていたとこに誰が挑戦すると思う?タツキ坊ちゃんだよ」
ジンの目が見開く。だが、すぐに戻る。
「シマダの憶測でしょ」
「ヒグマ野郎が話してるの聞いたんだよ」
「でも、そしたら、なおさら僕は挑戦しちゃ駄目でしょ?兄上の言うことをちゃんと聞けって、いつも父上から言われてるし」
「馬鹿、今言う事聞いてる状態でどうなってるよ。組員や姐さんやタツキ坊ちゃんの食卓と離れて、俺らみたいな下っ端と食事させられて、召使いみたいに雑用されて、八つ当たりで殴られて。なあ、組長の息子として扱われたことあんのか?」
熱く語るシマダと対象的に、ジンは静かに微笑んだ。諦めていた。
「いいか、だから、ボスになれ。サンシンは生涯ボスは変えねえ。組長も苦労して手にしたんだ。ボスになったお前を、今みたいに雑には扱わないさ」