最強の亜人サンシン
この辺りは、ハンダ組という暴力団のシマである。ジンは、ハンダ組組長と愛人との息子だった。物心ついた頃には今の家にいて、母親とは月に一回程度しか会わない。さみしくなったジンは、何故母親と住めないのか二人に聞いたことがあった。父は「愛人としては100点、母親としては0点」と言い、母は「子供の世話って向いてないなぁて思ってぇ、お化粧とかネイルとかできなくなるじゃない?」と言った。まだ十歳ながら、なんとなく悟った。
「ただいま戻りました」
ジンが帰ると、なんだか家が騒がしかった。
「あ、ヤマダさん、これ何事?」
「ああ、ジン。組長が、サンシンを買ったんよ」
サラマンダー混じりの構成員は答えた。ジンのオムツを取り替えていた下っ端のヤマダ、親代わりである。
「サンシン?」
「あれ、知らない?」
ヤマダの説明はこうだ。
サンシンは戦闘に長けた亜人である。サンシンに殴られれば全身骨折で即死、銃弾も効かない。山奥で群れを成して生活しているため、異種族が多く交わった今でも純血種を守っている。この国では、人間の血が入ってないものは生体販売の対象となっているが、サンシンは危険なため売買は法律で禁じられている。
「そんな危険なの大丈夫なの?」
「うん、まだ子供だから。なんかね、群れを成す性質上ボスて認めさせたらめっちゃ言う事聞くんだって」
「ボスて認めさせる?」
「そうそう。力の差を分らせればいいらしいよ。犬も家族に順位つけたりするって言うじゃん?多分そんな感じ。それで組長が「ボスになれたやつ出世させる」て言ってさ、構成員みんなで挑戦中よ。俺も今から行くとこ」
「ヤマダ弱いのに大丈夫?」
「言って子供じゃん?俺だって頑張れば…」
そのとき、広い家中に響き渡る叫び声と何かバキバキと破壊される音が聞こえた。
ヤマダは、ゆっくりジンを見てウインクした。
「やっぱ、やめとく。いつも通り一緒に雑用しよ」