第18話 隠す必要は無い
コウは古得の経歴と知識を得た後、少し考えさせられる点はあったが【種族統合】を生み出した神を恨んで貰おうと開き直り眠りについた。
そして朝となりコウは床から身を起こす、リタが先に起きていたのなら起こしてくれるのだが、今日は起こされる事なく目が覚めた。
ベッドの方に目を向けると、そこには綺麗で可愛い寝顔のリタの姿があった。
黒くて長いまつ毛に、背中まで伸びる黒くて宝石の様な髪の毛は寝返りをしたのか多少乱れてはいたが、毛の一本一本が輝いてる様だった。
コウがリタの寝顔を観察していると、リタと目が合った。
「コウ?おはよう」
「おはよう」
「早起きだね」
「自然と目が覚めてしまってね」
「外も明るくなってるしギルド館に行こうか」
「今日は技能審査だから気を引き締めて行こうと思う」
「審査結果を見届けてから依頼が探ししようかな」
リタはその様な会話をしながらも家を出る準備を進める。
いつも通りの準備が終わると、リタと共にギルド館に向かう。
「技能審査は学校入学時にするから、来年のためにを見ておく必要がありそうね」
「どんな事をするのかわからないけども、生活の為にも討伐依頼を受けれる評価は欲しい所だよ」
コウは昨日までと少し言葉遣いが柔らかくなっていた、これも古得の知識のお陰である。
「もし良い評価を得られたら、そのまま討伐依頼を受けようと思うのだけど大丈夫かな?」
「その時は、昨日の稼ぎで今日は余裕あるから、ギルド館でコウの帰りを待とうかな」
リタが待ってくれると言う事なので、依頼をする時は簡単そうなやつを探そうと思った。
「さてギルド館に着いたけど、心の準備はできてる?」
「大丈夫だよ、全力で頑張るさ」
そう言うとリタが扉を開けて一緒に中に入ると、コウの姿を確認したキーリスが近寄ってきた。
「リタちゃんコウくんおはよう」
「おはようございます」
リタとコウは同時に同じ言葉を発し返事した。
「コウくんは準備は大丈夫?」
「いつでも大丈夫です」
「では審査会場に案内するから着いてきて、リタちゃんも見学するならおいでね」
「はい」
キーリスがギルド館の奥に歩いていくのを着いていくと、人気のない通路に向かうと大きな扉の部屋の前で足を止める。
「この先が会場でギルドマスターが審査員となります」
「はい」
「緊張しなくても気軽にして大丈夫よ」
その様に言いながらキーリスは扉を開けると、大きな部屋の真ん中に両腕を組んで立つ30代程の男性が居た、長身で服の上からでも筋肉がわかるほどの体付きをしている。
「君がコウくんだね、私がギルドマスターのガルフ・レンダーだ」
「今日はよろしくお願いします」
「早速審査を始めようか」
ガルフの横にある机の上を指差す、そこには大きめの水晶が置かれていた。
「まずはこれで魔力量を見るから、手を触れてくれるか?」
「触れるだけでいいのですか?」
コウは水晶に近寄りガルフの顔を伺いながら問いかける。
「触れるだけで体内の魔力を探る水晶だから何もしなくても大丈夫よ」
コウは少し嫌な予感がする、調べるまでもなくコウの魔力はこの世界の吸血能力がを持つ個体の寄せ集めで、魔力も統合されている、その中には古得の魔力も含まれている事から世界一の魔力量なのは確実だった。
魔法軍人学校でも調べられる事だし、今探られようが結局わかる事だろうし諦めた。
「わかりました、では触れます」
コウが水晶に触れた瞬間、水晶が黄金に輝いた。
この輝きは【種族統合】を発動した時と同じく輝きであった。
少しすると輝きが消えて水晶に何かが浮かび上がる。
「これは異常だぞ•••人が到達するレベルを遥かに凌駕している」
ガルフが真っ青な顔をして水晶を見る。
「君は何者だ?」
「説明すると長くなりますが良いんですか?」
コウは今後の生活を考えると隠しながら生活は不可能と考え、古得の事は伏せて吸血鬼に進化したコウモリだと説明した。
「リタに興味を持ち、固有スキルを使い吸血鬼に進化した魔物です、人に危害を与える気はありません」
「吸血鬼なんて伝説にしか聞かない、魔族の王と同じ種族だぞ•••」
ガルフの言葉を聞いてコウは、古得は伝説の存在となっている事がわかった。
「人とは違うので術式での魔法は必要ありません」
まだリタにも説明していなかった事を、ここで話してどの様な反応してるのか気になり、恐る恐るリタの方を振り向いて顔を伺うと、真っ黒な瞳がパッと開いて驚いてる様だった。
改めてリタには説明しないとと思い、ガルフの方に目を向ける。
「もうこれ以上審査の必要は無いな、遥か昔に人間の住む大陸と魔族が住む大陸は結界で遮られている為、我々は魔族に出会う事はないが、言い伝えで魔王1人で人類が滅ぼせる程の力を持つと言われている」
「では合格って事でよろしいのですね」
「合格だが無闇な力を使うのは控えてくれ•••国が滅びる事だけは避けてくれよ」
「リタが悲しむ事はしないつもりなので大丈夫です」
「審査の評価でランク付けされるが、コウくんは最高ランクとさせてもらうよ」
「ありがとうございます」
コウの思ってた通りの結果になったが、リタに不自由ない生活を提供する為に力を使う気だ。
「では早速何か討伐依頼受けても大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、依頼から帰る頃にはギルドカードを作っておくよ」
「では失礼します」
コウはお辞儀をしてリタに近寄る。
「リタごめんね、説明する事が多くてこんな形で伝える事になるとは」
「大丈夫よ、驚いたけどもコウモリから人になった時に多少覚悟は出来てたから」
そう言うとリタは笑った。
コウはこんな事で笑顔になってくれたリタに笑顔を返す、リタは思ってた以上に笑顔を見せてくれてコウも自然と笑顔になる。
「では依頼を探して受ける事にするよ」
「初めての討伐依頼だし無理のない様にね」
「そうするよ」
会話をした後2人で部屋を出ていき、討伐依頼受付に向かう、2人が受付に立つと同時にガルフが受付嬢にこの子には好きな依頼を受けさせてやれと伝える。
「かしこまりました」
「このコウくんは今技能審査してギルドカード作成前だから、依頼終わった後にカードを渡すから」
「わかりました」
そう言うとガルフがその場を去る。
受付に並ぶ依頼の中からコウは食料調達依頼を選ぶ、凶暴で大きな猪討伐一体金貨10枚。
「この依頼でお願いします、猪1匹で金貨10枚はお得だ」
「キングワイルドボア討伐を受け付けました、生息地は街から西方向にある森ですのでお気をつけて」
「はい、では早速向かいます」
「コウ•••キングワイルドボアはとてつもなく大きいから、危ないと感じたら逃げてね」
リタが心配してくれてる様なので無理はしないと誓う。
「無理そうなら小さい動物でも狩って、晩御飯持って帰ってくるよ」
「心配なのでここで待ってるからね」
「出来るだけ早く帰ってくるさ」
そう言うとコウはギルド館を出て、街の西方向を向かう。
コウは初めて攻撃魔法をどの様に使おうか考えながら歩くのだった。