第9話:囲み取材と言う名の事情聴取その3
第9話です。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
猫に全消しされました…( ゜д゜)
お前、ショートカットキー使えんの??
言われた半刻が過ぎ、向かった先である伯爵家の居間は団欒の間に相応しく、煌々と照明に照らされた品の良い家具や調度品、そして絵画や壁紙に至るまで緻密に計算された配置、配色でありながらもアクセントに異国のデザインを壁装飾に取り入れる事で小さな庭園にいるかの様な居心地の良さを感じさせる。
パッと見、地球で言えば18世紀後半から19世紀の流行っぽいんだよなぁ。
暖炉の前のファイヤースクリーンの形状もこの時代の流行だし壁紙の模様、よく見たらシノワズリだもの。
お母上のセンスの良さが遺憾無く発揮されている。さす母。
いや、今はそっちを気にしていられない。
何せ相手にするのはさっきの犬軍団よりも手強い『アルラの家族』だ。
気を抜いたら食われかねない。
現実世界のヤバいクライアントと同列に油断ならないと、私のリスクセンサーがビリビリと皮膚を刺激する。
うあぁぁ、最悪、命のやり取りも有り得る、かな?
貴族、怖ぇよ。ヤバいクライアントと一緒だよ。
ん〜…ま、今更か。
椅子に着席すると、家令が紅茶を持ってきて私の前に音を立てずに給仕する。
それを合図に伯爵が口を開く寸前。
「ねぇ、アリーちゃん。
…あなたは、だぁれ?」
まさかのお母上がカットインしてきた。
顔を上げ、思わずお母上を凝視する私。
私とお母上を除く、家族達と家令がバッとこちらを見る。
背筋がざわり、と粟立つ。
今、何つった?お母上は。
私とアルラが入れ替わったのをいつ知った?
バレる要素が無かったと言えば嘘になる。
だって入れ替わってから全くの別人だもの。
それは流石に自覚してるけども、先手を取られるとやはりきっついわ。
してやられたなぁぁぁぁ!!
組み立てていた段取りが崩れていく。
「…ご存知、だったのですか。
失礼ながら、いつから判っておられたのでしょう?」
「あらぁ、最初からよ?だって、魔力が違ったもの。」
ころころと笑いながらお母上が言う。
「アリーちゃんの魔力は、生まれる前から知っているから、その性質が違えば、母親なら判って当然よ?
私達は、一人ひとり持っている魔力の性質と言うのかしら?波が違うのよね。それが分かっているからこそ判別出来たの。
アリーちゃんの穏やかで円い魔力が、いきなり嵐のような、荒々しい魔力に変わればそう思うわ。
あ、もちろん旦那様やエル、ジェシーの魔力も判っているからね。」
だから嘘はつけないのよ?と言うと、男性陣はほんの少しバツの悪そうな顔をした。
…ふははっ、母親ってすげぇなぁ。
魔力感知に優れているからこその芸当だとしても、侮れない策士だ。このお母上。
仕方無ぇ、こっちも腹割って話すしかねぇじゃん。
下手な誤魔化しは無しだ。直球でいく。
髪をクシャッとかき上げ、「ふーっ。」と息を吐き出す。
居住まいを正してから私は、意を決して語り始めた。
「ならば、何も隠し立ては致しますまい。
おっしゃる通り、貴方方のご息女、アルラ・エールーに今宿りて話しているのは違う世界の精神、魂でございます。
馬鹿げている、と思われるかも知れませんが、実際、貴方方も思っている筈です。
アルラは今まで、あんな大立ち回りや荒っぽい言葉遣い、威圧や覇気など飛ばしたりしないし、ましてや魔法しか使えない筈だと。」
私を除く全員が、重々しく頷き、確認する。
魔法は恐らくこの世界では一般的に使われている事はアルラの知識から理解出来た。
しかしアイザックの魔法を打ち消した抗魔法陣や性女のネックレスを封印した結界といった魔術はほぼ使われていない。
使われているとしたら、お母上の故郷である魔導国アヴァロンか錬金術師くらいのもの。
嫁入り道具と一緒に持ってきていた魔導書をアルラが熱心に読んでいた。その記憶、知識があったからこそ使えたのだ。
今回はそれが現実世界の知識、経験と合わさって功を奏した形になったが、あの状況なら下手しなくても確実に人死には出ていた。
いや、マジ後味悪い結果になるとこだったわ。
巻き添えってか、私が原因で誰か死んだら悔やむに悔やめ無い。
おのれアイザック!あのまま頭の天辺を丸く、ツルッツルにぶち抜くか剃り上げてやれば良かった。
毛根死滅の魔法陣て無いかな?
そんな事を思い返しながら、私は話を続ける。
「そして、これから話す事は荒唐無稽で、とても信じられないかも知れません。
私がアルラと入れ替わってから今までの事を推測と想定から導き出した仮説ではありますが…」
と前置きし、この世界もしくは限られた国だけが私の世界に数多くある物語であるかも知れない事、主役である性女ロレッタ・マリラ男爵令嬢が学園に入学し、攻略対象者である第一王子、宰相子息、公爵子息、騎士団総長子息、商業ギルド長子息と恋愛をし、誰か一人と結ばれてエンディングを迎える事、そのエンディングは多岐に渡り、攻略対象者全員と結ばれるものも存在する事、また、その物語ではガブリエラは悪役令嬢と呼ばれるポジションでどのエンディングを迎えても結果死亡する事、アルラは物語には出てこないキャラクターだが、今回私が介入した事により物語そのものが破壊されたかも知れない事などを話していった。
最初は訝しげに聞いていた家族達も、徐々に顔色が赤くなったり青くなったり表情が歪んだり…最後は納得できたような表情になった。
「恐らく…ガブリエラ様は犬軍だ…ゲフン、第一王子が言うような虐めはしておられない筈です。公爵令嬢であり、王子の婚約者ともなれば常に人目につくでしょうし、影などもつけられていたと考えるのが普通ではないでしょうか?
仮にも王子妃、王妃教育を受けられているような方が言質を取られる発言をする事も考えにくいです。
また、公爵家の力を使えば男爵家如きは簡単に潰せますでしょうし、ガブリエラ様には虐めるメリットがありません。」
腕組みをしながら聞いていた伯爵は
「確かに。そういう意味なら、此度の婚約破棄は物語により仕組まれた事になるのだな…。全貴族を招くパーティーよりも些か規模は小さいが、実に狡猾に仕組んだものだ。
結果的には完全に避けられなかったが、以降の流れはどうなるのだ?」
苦虫を噛み潰したような顔で言う。
まぁ、そうなるよね。
婚約破棄は起きてしまった。
完全に潰せなかったから私はアルラとは入れ替われなかった可能性は大きい。
犬軍団も性女も痛い目には遭わせたが生きているし、これから報復があるかも知れない。
幸いだったのは、ガブリエラがそこまで王子に入れ込んでなかった事だろう。寧ろ、あんな馬鹿野郎は「どうぞどうぞ。」と熨斗つけて叩き返してやればいい。
目を瞑り、暫し考えた後に
「想定される事は多々ありますが、先ずは問題の解決と共にアルラを元に戻す事を最優先事項で行います。
私が介入出来た事で物語を完遂しようとする『世界の強制力』は無くなったものと見て良いと思いますので、前よりも動きやすくなるでしょう。残っていたとしても、アルラの存在はあちらの想定外ですし、中身が私であり、物語を作った世界の住人ですから、動きを阻害される事は無さそうです。
性女に言われましたが、攻略対象者はあの5人以外にもまだいるそうですから、その対象者がどの身分の者でありどう関わってくるのか、その行動も気になります。
攻略に関係のある、魅了を増幅させるネックレスはあの時引き千切って、念の為に封印して手元に持ってきてはおりますが、「神に貰った」と言っていた性女の発言も個人的には気になっています。」
そう言いながら、ポケットから四重封印を施した性女のネックレスをコトリ、とテーブルに置いた。
封印を施されても尚、禍々しさを漂わせているソレを、皆が顔を顰めながら見ている。
「魔導具…ではないわね。魔法陣が見当たらないわ。
神から授かったと言っていたけれど、あながち嘘でもなさそうね…有り難みは無いけど。
呪いの神具と言ったところかしら。
貴方達は触っては駄目よ?ばっちいからね。」
触ろうとしていた兄弟達は慌てて指を引っ込めた。
さす母。
詳しいな。
んで、まさかの神具を「ばっちい」てw
神に対する私の認識も家族の認識も同じようで助かる。
神って普通は善神を指すからまかり間違ってもこんな物騒なモンは作らない。
本当に呪いレベルでヤバいブツだよ、マジで。
どんな神なんだ。堕ちた神とか昔のV系か厨二真っ盛りなん?
これは精神防御系の魔導具を着けていても防げないだろうなぁ。
本当に神が作りし神具なら、人を闇落ちさせないだろうし、条件を満たしてない人間如きには使えないよ。
…もしかして魔王とかいたりするんだろうか?
神曲だっけか?確か「悪魔は天使の如き姿と美貌を以て何ちゃら〜」みたいな一文があった気がするし、あいつら、神々しさを演出する位なら訳なさそうだし。
おぅふ。
思った以上に厄介になった件。
どうすんだよ、私チートも持って無ぇんだけど?
初見で縛りゲーとか難易度ナイトメアとか御免被りたいわー。そこはベタでえぇのよ?
封印したネックレスを再びポケットに仕舞い、私は家族達の顔を順繰りに見てから本題を告げる。
「もし、物語が継続中であれば、私の知識とアルラの知識を掛け合わせて対抗策を練りたいと考えています。私の世界には魔術や魔法はありませんが、ごく僅かながらも使える人間はおりましたし、有効打になるならば使わない手はありません。
また、先程のように対人戦闘があるとしたら、アルラは長時間の戦闘にはとてもではないが耐えられません。体力増強は必須事項です。
私はアルラを無傷であなた方ご家族にお返ししたい…厚かましい願いとは存じておりますが、ご尊父様、ご母堂様、兄君様、弟君様、許されるのでしたら、ご協力をお願い致しますっ…!」
椅子から立ち上がり、武術の礼をするように絨毯に正座をし、両手をついて頭を下げて助力を乞う。
その行動に皆はガタリと立ち上がり、驚き慌て出すもお母上は私の側へ来ると膝をつき、そっと肩に手を添える。
「ねぇ、アルラの中の異世界の方。
貴方のお名前は何て仰るの?」
不意に問われ、私は思わず目をぱちくりさせる。
名前…私の、名前…。
苗字は思い出せないけど、名前はわかる。
何故か懐かしく思う、自分の名。
「わ、たしの、名は…“星”、と申します。
星と書いて、星と読む、私の国の読み方です。」
アルラと入れ替わり、この世界に顕現してから初めて、自分の名を口にする。
お母上は私の手を取り、にこやかに微笑みながら
「星、と仰るのね?
ねぇ、星。切欠は私の言葉だったかも知れないけれど、アルラを守りたい気持ちは私も一緒だし、言い難い事を貴方は誤魔化し無く話をしてくれた。
何より貴方はアルラを大事に、守ろうとしてくれているのが嬉しいの。
このまま行っても、アルラに何か起きるかも知れない事はわかりますし、アルラの願いに応えた貴方を…私も守りたいの。
だから、私からもお願い。
貴方を守らせて?」
あぁ、この人は…
私の中の、アルラが反応している。
アルラだけでなく、私の事も丸ごと守るつもりなんだ。
貴族らしい損得を考える事も何も無く、子を守る母ってのはこういうもんだと、有り難みを強く感じる。
気付けば伯爵や兄、弟にも囲まれ、お母上が取った私の手に其々重ねられる。
下からも、上からも温かな体温と思いに包まれて不意に、ぽろり、と左目から涙が零れた。
アルラの気持ちか、それとも私の気持ちか。
思っていた以上にキリッキリに張り詰めていた気持ちが溶かされていく。
本ッッッ当に良い家族だな、アルラ。
こんな素敵な家族は悲しませられないだろうがっ!ちくしょう。
最終目的はアルラとガブリエラの無事な生存だけど、そこに『対象の完全沈黙』なんて達成条件も付け足してやらぁ!
ブックは既に破られた。
新たにブッカーが書き直しても、書き直した端からビリッビリに破り捨ててやるし既定路線のケツすら潰す。
何ならプロモーターを引き摺り出してやるわ。
こんなベリーな物語なんざ、全部不穏試合で終わらしたるぁボケェ!
手前等が嫌がる事は喜々として、マシマシでやったんぞ。
この世界もアルラ達も壊してたまるか。
恐怖のフッカーを覚醒させたんだ、代償は払えよ?
ブックマーク増えてましたぁぁぁぁ!
ありがとうございます(´;ω;`)
星と同じく、礼を送らせていただきますm(_ _)m
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