第69話:閑話 闘魂を刻め
第69話になります!
今回もよろしくお願いしますm(_ _)m
アヴァロンへ発つ日の朝、私はエル兄やジェシー含むアンブロジア伯爵家の騎士達とガブリエラん家のカンバネリス公爵家の騎士達を相手に、各人の伸びを確認し今後の課題などを提示する為と更なる高みを目指す為に茶帯以上の連中と手合わせをしていた。
傍らにはシエナが個人別カルテに私が言う改善点をサラサラと淀みなく書き記してゆく。
ひととおり終わり小休止した所で、ノリの良いトーマスが「星様、ちょっと良いっすか?」と話しかけてきたので「大丈夫ですよ」と応じてみた。
「俺等って星様の世界の体術を習ってる訳ッスけど、剣術にも繋がる身体の動きと使い方は理解出来るんッスけど…プロレスって結局どんなモンなんすかね?」
「ん?どんなモンとはどういう意味で?」
「歴史的なモンとか発祥とかッスかね?」
あ〜、なるほど、そこからか。
「プロレスって言うのは、正式名称をプロフェッショナルレスリングと言って、見せる為のショー的要素が強いレスリングの事ね。私が犬軍団…元第一王子達を処したのがそれなんだけど、いかに派手に観客を魅了し盛り上げ、圧倒的な技を繰り出して相手を倒すかって言うのが本質かな?」
「確かにあの時、星様が仕掛けた技は見栄えがして派手でしたね。それにあの金テープや音楽?もその一環っすか」
「うん、あの時は派手にしたほうがインパクト強くて見てる人達が婚約破棄なんぞ忘れてくんないかな〜って考えもあってね~。
でも、あの馬鹿共には痛い目と屈辱を味わわせたい!と思ってたから、派手だけどクッソ痛い技を選んで仕掛けた(笑)」
そう言うとトーマスは思い出したのかニヤニヤしだす。
「ダブルのたんこぶにウ○コ漏らして失神とか、股おっ広げて失神は…ブフッ…再起不能ッスよね〜」
「受け身も知らないだろうしモロに食らったからまぁ、死んでもおかしくは無かったんだけどねぇ。馬鹿でも魔法使えるんだし、身体強化位はかけるかと思ったら掛けないからさぁ(笑)」
「あの性女サマに惚れる馬鹿ッスからねぇ〜。身体強化、知らなかったんじゃないすか?」
「それな!!」
トーマスと一緒にゲラゲラ笑い出す。
「そういや、プロレスの戦士の中で星様の一番っていらっしゃるんで?」
目尻の涙を拭いながらまだヒーヒー言ってる状態のトーマスがそれを聞いてくるのは当然と言える流れだ。
どこの世界、業界でも目標や目指すべき人はいる。残念ながらこの世界の住人であるトーマス達に、その雄姿やファイトを見る事は叶わないのだけれども“布教”する事は出来る!
「私がプロレスを知る切欠になり、その戦い方や言動に至るまで影響を受け、尊敬し、神と思う偉大な選手、いや、戦士がいる。
その戦士の名は―――アントニオ猪木と言う。」
トーマスやいつの間にか集まっている騎士達、エル兄やジェシーがこちらを注視し、耳を傾ける。
「彼は武者修行していた十七歳で才能を見込まれ、プロレスデビューを果たしてから次々と偉業を成し、国内最大のプロレス団体を立ち上げ、私の国で更なるプロレスの繁栄期を築き上げた。異国異教徒の地へ遠征し、そこの英雄を打ち倒しあわや殺される!と言う所を神懸かり的な強運で異教徒を平伏せさせたり、異種格闘技の世界王者と試合をして勝ってみせたり他国の王に気に入られて島を賜ったり、死にかけた人を死の淵から掬い上げたり、私の国に無かった料理や調味料を広める等次々と伝説を作った。
選手を引退してからは弟子を育てながら国民から選ばれて国政、政治の世界へと進出もしているよ。」
あちこちから「何だ、その破天荒…」や「すげぇ…プロレスの神が政治もやるのかよ」やら「アントニオ猪木…ただ者じゃねぇ…」「神、すげぇな」、「どんだけ熱い男なんだ、アントニオ猪木」とか聞こえてくるが、アントンはただ者じゃないのよ。
よし、ここで見本を見せるとしようか。
「トーマス、ちょっとここに立ってみて?」
「?うっす、わかりました」
尻に付いた土や草を払って立ち上がったトーマスに向かい、私はおもむろに技をかける。
もちろんアントンお得意の「卍固め」じゃい!
「あぎゃーー!!いででででででで!せっ、星様っ、痛いぃぃぃぃ!!」
トーマスが生まれて初めて喰らう、あっちの世界の関節技かつプロレス技に悲鳴を上げるも、逃げる事が出来ずにもはや泣きそうな顔をしている。
「この技はアントニオ猪木の代表技のひとつ、卍固めです。スタンドのサブミッション…関節技ですがトーマスが逃げようとしても今皆さんがやっている体幹やバランスが鍛えられていればほら!
私の足が床についていなくとも逃れられないのですよ」
皆が食い入るように見ているが、私の足は地面についていないしトーマスが逃げようと体を傾けたりするものの、バランスを取り、ロックを外すことが出来無い。
まぁ、可哀想なので外しますかね。
べしゃりとトーマスが地面に倒れる。
その時。
カンカンカン!とゴングが鳴り、赤いタオルが天から降り注ぎ、私達の首にかけられた。
赤いタオルを広げてみれば、タオルには“闘魂”の文字とアントンのバストアップ肖像、そして“道”が大陸共通語で書かれてある。
突然の事に騎士達はざわざわと騒ぎ始めるが、私の手にはいつの間にかマイクが握られていた。
すっくと立ち上がり、私はマイクのスイッチを入れ皆に語りかける。
「偉大なる戦士、プロレスラーであり“燃える闘魂”アントニオ猪木の闘魂が諸君にも伝わった!この赤いタオルがその証っ!!」
シエナが私の横で、自分の赤いタオルを広げて見せる。
おい、シエナにも闘魂伝承しちゃって良いん?!
「この字は私の国の文字で“闘魂”と書かれてあり、この詩はアントニオ猪木の一番有名な名言っ!
そしてっ!この御方がアントニオ猪木その人であるっ!!」
皆がそれぞれのタオルを広げ、眺める。
「“闘魂”とは闘う魂!闘う前から臆するような魂は戦士に非ず!怖くとも、逃げたくとも一歩を踏み出す事こそが体を、心を強くするのですっ!
この道をゆけばどうなるものか
危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし
踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる
迷わず行けよ 行けばわかるさ
“道”の詩にあるように、わからない不確定な事に悩むよりやって得るもののほうが数段価値があります。この猪木イズムをどうか皆さん、心に刻み、継承していってください。」
シエナが隣で号泣し、ジェシーとトーマスは目をキラッキラさせてタオルをガン見し、ツッコミ役のエル兄すらツッコミを忘れて「深い…」と読み耽っている。
まぁ、元ネタは哲学者だからね。
「私は今日、アヴァロンへ発ちますがどうか皆さん、闘魂を、猪木イズムを心に今までの努力を続けて下さい。
決してそれは裏切らない、あなた方の力に、勇気になります。」
「「「「「「せ、星(様ぁぁぁぁ)!」」」」」」
野太い啜り泣きの声や感極まった声で名前を呼ばれるも、何かしら心には伝わったらしく顔付きが少し厳つ…決意したように変わる。こころなしか、シャクレてる奴もおるな?
これで私も安心して旅立つ事が出来るかな。じゃあこの場をアレでシメるかよっ!
「いくぞぉぉぉぉぉぉぉ!いーち、にー、さーん」
「「「「「「ダァーーーー!!」」」」」」
「ありがとーぉ!」
皆が一斉にタオルを握った拳を突上げてコールする。
そしてどこからか流れる「イノキボンバイエ」のテーマに暫く猪木コールは止まず修練場に大音量で響き渡った。
何だよ、プロレスの神かデウス・エクス・マキナか知らんが粋な計らいをしてくれるじゃん♪評価上がったわ。
満足気な顔で屋敷に戻った私に「星!貴方は本当に!何をしてくれているのかしら!?」と姐さんの特大の雷が落ちた。
解せぬ。
そしてアヴァロンの船待ち時にはガブリエラとレオーネからも
「「いきなり赤いタオルが首にかけられたんだけども星の仕業よね?!」」
と詰められたけど、それは想定外よ?!
その後、アヴァロンで猪木語録とプロレスの歴史やベストバウトを纏めた私が、トーマスを先頭にしてカンバネリス公爵家とアンブロジア伯爵家の修練場にアントニオ猪木の銅像が建てられる事を知るのはまだ先の事。
一年振りの腰痛発症し苦しんでいた四日後、円楽さんが亡くなり、次の日アントニオ猪木氏が亡くなりました…(TдT)
死ぬまでこのお二方の命日は忘れない自信があります。
アントニオ猪木氏は私がプロレス好きになる切欠になったのと地元に縁の温泉があるので、どうにも身近に思ってしまいまして…涙しております。
お二方の御冥福を心よりお祈り申し上げます(´;ω;`)
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今回もお読みくださいましてありがとうございましたm(_ _)m




