第32話:それはまるで祈りの様に
第32話になります!
今回もよろしくお願い致しますm(_ _)m
伯爵夫人side
「あらあら、あなた様もエルもだらしないわねぇ。
仕方無いわ、ウォルター。何人か連れてきてちょうだいな?ここにいては片付けが出来ないもの」
テキパキと指示を出し、夫とエルを運び出した。
「後は私に任せて、貴女は今やるべき事をなさい、星」
「すみません、重ね重ねお手数をお掛けいたします」
ペコリと頭を下げて謝罪し、シエナと退室していく星を見送ってから私は夫の執務室へと向かった。
星、アルラに宿ったのが貴女で本当に良かったわ。アルラだけでなく、周りにも齎される影響力は半端無く大きい。
正体不明の、異世界の精神は顕現して僅か三日であちらこちらに影響を及ぼし、嵐を巻き起こしている。
物語として、ガチガチに固められていた世界すら吹き飛ばしてしまった。
野生の獣のように用心深いくせに、大胆不敵で好戦的、しかし己の懐に受け入れてしまえばどこまでも面倒を見るお人好し。
貴女のその気質は要らぬ苦労を背負い込み、時には裏切られ傷を負う事もあったでしょう。けれど、それは貴女の魂を輝かせ更に煌めきを増す為の、工程。
貴女は気付いてはいないかも知れないけれど、存じていて?貴女の魂の有り様に焦がれている者もいるのですよ?
…多少、性別がわからなくなる事があるのも影響しているかも知れないけれど。
私は、約束しましたね。貴女を守らせて、と。
貴女に立ち塞がる厄介事は、私が払いましょう。
差し当たっては届けられた釣書の山ね。
名前をチェックしてから全て劫火で焼き払うのが良いですわね。
さ、あなた様、エル?そろそろ正気に戻りなさいな。
私はとびきり苦い薬草茶を淹れ、二人の目の前に置いた。
執務室のティーテーブルだけでは収まらず、カートにまでうず高く積まれた釣書と肖像画に呆れると同時に情報の速さに疑問が浮かぶ。
「…何故、突然こんなに釣書が届いたのであろうな。これまでも届いていたが、全て我が家との縁を露骨に結びたがる家しか無かったのに」
まだ半分意識を飛ばした夫が、遠い目で釣書の山を眺めてながら呟く。
「そうですよ、幾ら何でも情報が早過ぎます。アルラは学園では目立つ子ではなかったですし、寧ろ地味を装っていたので令息どころか令嬢達ですらわからないと聞いた事がありますよ」
エルが夫の呟きに補足を加える。
アルラは私からアヴァロンの血を多く引いたが故に、この国ではかなり目を引く整った容姿をしている。だから用心の為にも魔道具で気配を薄くする様にしている。
何処にでも愚かな者は存在しているから。また、本人も目立つのは好きではなく、顔を隠すような髪型と眼鏡をしていた。
しかし、それと情報の速さはまた別物。
転移の魔道具で送ったとしても、アルラの姿はわからないはずなのに。
鈍く光るカードが視界の端に映る。それは星が顕現し、大立ち回りをしたその日に何処からか出現した金色の――――――
あぁ、成程ね。
「お気付きになられましたか。恐らく、あのカードを手紙や報告書と一緒に転移の魔道具で皆が其々送ったのでしょう」
ウォルターが告げたソレが、正解なのだ。
あのカードには、アルラの顔が肖像画よりも正確に写し出されているのだから。
「お嬢様の、アルラ様の方は今まで目立つ様な事はなさらずひっそりと過ごされていた為に出回っている情報は少ないのですが、それでも既存の情報に奥様のお姿に良く似たお美しいお姿です…。それだけでも縁を結びたがる家は多いかと」
「家柄や地位の高い者はどのくらいいるのかしら?」
厄介者がどれだけ集まったのかまずは聞かないと。
「それですと…我が国では王弟殿下、チェンバレン公爵家、キングゲイナー公爵家、ドレイパー公爵家、マービン候爵家、レイヤング候爵家、アホメス候爵家、ブラクロワ候爵家、イェーガー候爵家でございますね。
他にも帝国やマニフィーク王国、フォーアライター皇国、ブリッラーレ国、オリソンテ国、サピエンティア、北のイディアール帝国など近隣どころか遠方の国までございます」
愚か者の多い事。
星もアルラも、血統や見てくれで選ぶ事は無いと言うに。
事実、星は血統、家柄、能力、見てくれが優れており、令嬢達の人気も高いあの魔法師団副長である変態を真っ向から拒否していたではないの。
あの子は性質が気に入らねば、王であっても拒否して叩きのめすでしょうね。
そんなふうに思いを巡らせていると、夫は苦々しい顔をし、エルも眉間にシワを寄せながら目を眇めている。
あらあら、親子で仕草がそっくりだわ、ふふふ。
「なぁ…聞き間違いかな?馬鹿が混ざっていやしないか?そして王弟だと?彼奴の子供はジェシーと同じ年だろう。」
「いえ、父上。混ざっているのではなく、全て馬鹿で良いかと。見事に厚顔無恥な連中ばかり揃いましたね。当主は性格、能力共に優秀ですが、嫡男は問題児ばかりですよ。
王弟殿下は正室がいらっしゃるにも関わらず、本人が申し込んできているので馬鹿で構わないかと」
そんな馬鹿にアルラは嫁がせる訳がありませんわね。
アンブロジア伯爵家はエクサルファ国でも一、二を争う武門の家。でも、その裏を知る者は少ない。他国ならば皆無でしょう。
そして、未知の国であり魔道具を生み出す技術を持つ、多民族国家アヴァロン出身の私。
子供達には苦労させるのを承知で厳しく躾け、また勉強を叩き込んだ。勿論、厳しくした分だけ夫と共に褒め、時には叱り愛情もたっぷりと注いだ。
馬鹿を娶る訳にも、馬鹿に嫁がせる訳にもいかない。また、騙される訳にもいかないのよ。
夫に一目惚れして嫁いできたけれど、血統と家格にしか拘れない貴族は本当に面倒ね。
星に魔法を教えるついでに、何かプロレス技でも教えてくれないかしら。
…あら。私とした事が。
人の事は言えないわね…私も影響されているなんて。
思わず漏れた苦笑に夫が「ブリジットよ、楽しそうだな」と話しかける。
「ええ、あなた様。これからの展開を考えるとワクワクしてしまって」
これは私の本音。
私達や国を巻き込み、あの子と星がどう変えて行くのか。アヴァロンの叔父様が興味を示したのも何か導きがあったとしか思えない。
星は「全てをあるべき姿に戻す」と言っていたけれど、私は貴女が関わった何かが変わる事を期待しているの。
どこまで関わるのか、変化するのかはわからないけれど。それでも貴女が関わるのならそれはそれは面白く、語り継がれる物語となるでしょう。
楽しそうに微笑む私の手をそっと握り「我が女神よ、其方の望みが叶うよう力を尽くそうではないか」少し強面だけれど、シャイで愛情深い夫が言う。
「セバスチャン、それは違うわ?一緒に叶えるのよ。私達に子供達、使用人達、皆一緒にね」
エルやウォルターもうんうんと頷いて同意を示す。
「あぁ、ブリジット!勿論だ。断りの文言はひとつだけ。それだけで馬鹿共は何も出来はしない」
泣く子が更に泣くような笑顔を浮かべ、夫が言う。
さぁ、忙しくなるわよ!
気合を入れるべく、冷めてしまった茶をグイッと飲んだ夫とエルが勢いよく「バフアァァ!!」と噴出した。
あら、とびきり苦い薬草茶を淹れたのを忘れていたわ!
今回は姐さん視点でお送りしてみました。
マ神…伯爵様の名前が「セバスチャン」と判明です(^_^;)
ポイントとブックマーク登録を押して下さった皆様、ありがとうございます!!
残業中の身に沁みるほどありがたいです(T_T)
また、もしよろしければ下にあります☆☆☆☆☆やブックマーク登録、いいね!をポチッと押していだだけますと大変励みになります♪
今回もお読みくださいましてありがとうございましたm(_ _)m
 




