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第2話:覚醒と始まりのゴング

本日は2話投稿です。


ざわり、と会場がざわめき出す。


当然である。


各々の家は学園へ通う子息令嬢から報告を受けているし、第一王子やその側近達の婚約者に対する対応や、件の男爵令嬢への溺愛っぷりはとても容認できるものではない。

後者は、婚約者がいる多数を恋愛対象とした「破廉恥」を超えた理解不能な事態である。やり口が売れっ子娼婦と同じなのであるから余計に質が悪い。

子など出来ようものなら、お家騒動待った無しの修羅場と家格に傷がつくのは確実だ。


上位貴族ほど『血統』を重視する。

下位貴族であっても、その血筋は古ければ古い程、上位貴族であっても重視すべきものであるこの国では、その『血統』を乱す事はしてはならない事である。

マトモな貴族ならば忌避すべき事なのだ。


そんな貴族達の思惑と疑念、心配などどこ吹く風と言うように


「きゃあ!ナサニエル様ぁ、ロレッタは…ロレッタは嬉しいですぅ♪」


「あぁ、ロレッタ。君がこの国の一番尊き女性になるのだ。」


場違いな程はしゃぐロレッタ。


次代の国王になると目される第一王子と、その側近達の正気を疑う愚行に、彼等は行方を注視する。


***************************

○○令嬢side


「すみませんっ!道を開けて…」


「お願いしますっ!通して下さいっ…」


後ろから家族が名前を呼び、追いかけてくるのがわかるが、足を止める訳にはいかない。

蚊の鳴くような声で人垣を掻き分けながら、私はようやく最前列まで到着した。

ピリピリした、この光景を目にするだけで気を失いそうになる。


あぁ、ガブリエラ様…今、お側に参ります…。


でも、怖い…


ガブリエラ様の側に行ったとしても、それからどうすれば…


誰か…誰か、助けて!!


視界のチカチカが激しさを増し、思わずギュッと目を瞑った私の奥から、


“任せろ。タッチ交代だ!”


私じゃない声がして。


私の意識は中に吸い込まれていった。


***************************


ナサニエルはダメ押しとばかりに


「貴様のような悪女は身分剥奪の上に、国外追放をーーーーーーーー」


と言いかけた時


ガブリエラに走り寄る令嬢がひとり。


その令嬢はガブリエラを背に庇い、くるりとこちらを向き、息を吸い込むと




「何してくれてんだ、この、○○○○(ピーーー)野郎共がっっっ!!!」




と割れんばかりの声量で一喝した。


魔力を込めた一喝は、空気をビリビリと震わせ、周囲に覇気を叩きつける。


見た目は小柄で可憐な容貌の令嬢は、その見た目にそぐわない、歴戦の猛者の如き覇気を纏い、表情はそのままに視線だけが射抜くように対面の王子一派を見ている。


覇気からの硬直を一番先に解いた、騎士団総長子息であるジェイデンが令嬢に向かって


「何だ、お前は!そこの悪女の仲間か?」


と叫ぶ。


令嬢は極めて淑やかに、穏やかに


「アンブロジア伯爵家が一女、アルラ・エールーと申します。このクッソつまらなく噴飯ものの茶番劇を終わらせ、畏れ多くも友人でございますガブリエラ・カンバネリス公爵令嬢をお救いします為に御前に参上仕りました次第です。」


頭を下げ、カーテシーの姿勢をとりながら傲岸不遜とも取れる返答をする。


周りは更に


「え?今、クッソつまらないって言った??」


「いや、その前の○○○○(ピーーー)野郎共って…」


「茶番劇…確かに茶番劇だよなぁ。庶民でも知ってる事を王族が横紙破りとか無いわぁ。」


「ヤバい、笑いが止まらん…腹筋割れる…」


「あの子、普段臆病でこんな事しそうにないのに…ガブリエラ様の事を慕っていらしたものね…」


ざわざわと声が増し、ガブリエラとアルラ・エールーの友情に心打たれる声と、令嬢らしからぬ言葉遣いに困惑する声、茶番劇を嘲笑する声と様々な声が更に新たな声を生む。


全てを()い交ぜにした、会場の視線が。


声が。


ガブリエラではなく、自分達に向いている。

劣勢になった事を何となく感じとった王子一派は少したじろぐも、この茶番劇が己等の崇高な目的達成の為の断罪だと疑わない。


それを、この目の前の令嬢は“クッソつまらない噴飯ものの茶番劇”と言ってのけた。


馬鹿にされたらしい事を理解した一番の脳筋(ジェイデン)が激怒し、叫ぶ。


「貴様っ!割り込んで邪魔をし、更に我等の正義を馬鹿にするなど不敬にも程があるっ!命を以て償え!!」


言うが早いが腰にある剣を抜いてアルラ・エールーに斬りかかった。


「きゃあぁ!」


「危ないっ!」


会場中に貴族達の悲鳴が響き渡る。


カーテシーを解き、姿勢を戻したアルラ・エールーは半歩だけ足を動かして、腰を少し落としつつ体勢を半身にした後屈立の構えを取る。


眼前に迫る剣を裏拳で弾くと、そのまま手首を掴み


「正当防衛ぃぃーーー!!」


気合と共にジェイデンの下腹部に蹴りを叩き込む。


「ぐべぇ!!」


冗談のように吹っ飛んでいくジェイデンに、呆然と、または顎が外れんばかりに口を開けてポカーンとする王子一派と貴族達。


「不敬?不敬だと?手前(テメェ)の何処を敬えってーの?赤点野郎が。」


ふぅ、と息を吐き、残心からまた姿勢を後屈立に戻したアルラ・エールーは、ジェイデンが落とした剣を片手で拾い上げるとそのまま振りかぶり、ジェイデンが吹っ飛んでいった方向へとぶん投げた。

そして王子一派に向けて左腕を差し出すと、指をクイクイッと手招きするように動かして挑発すると


「よぅし。お前等全員、ストロングスタイルでお仕置き決定な?



剣まで抜いて斬りかかってきたんだ、言い訳は無しだ!」



花の(かんばせ)に凄みを乗せた微笑を浮かべると、広間の何処からか


カーーーン!!


と、ゴングが鳴り響いた。




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