第10話:取材終わりのフリートーク
第10話になります!
今回もよろしくお願い致しますm(_ _)m
私の素性やこの世界の事、これからの事など懸念していた事を全て話した私は幾分スッキリしていた。
冷めてしまった紅茶を淹れ直してもらい、カラッカラだった口内と喉が徐々に潤いを取り戻し、鼻腔を通る芳しい香りが脳の緊張を解してくれる。
アッサムに似た香りと味の紅茶のお茶請けに選んだのは、クリームパフ。
今は空腹を満たすよりも糖分が欲しかった。切実に。
あの人みたいに金○が爆発するほどの糖分はいらないけど、疲れたのか身体が欲するんだ。
欲を言えばショコラやオランジェット、スミレの砂糖漬けが食べたかったなー。
っつーか、この世界の文化も制作の設定なのかね?
現代人にとってはありがたいけど、結構ちぐはぐなんだよ。
食事は適当なのに、スイーツは流行モノがあったり、酒に関してはパッと見ワインとシャンパン、甘めのカクテルしか無いとかさ。
何となく制作の趣味嗜好がわかるわ。
もっふもっふとマナーを忘れてクリームパフに齧りついていると、伯爵とエルネストが突然「あっ!!」と叫び出し、頭を抱えてテーブルに突っ伏して唸り始めた。
あ~…明日の公爵家への報告、あるもんねぇ。
筆頭公爵まで務めるあのご当主も馬鹿じゃないから、何だかんだで納得すると思うんだよね一。
飲み込んでもらうしかないってーのもあるけどさ。
アンブロジア伯爵家と一緒で、家族仲良さそうだし。
格下の伯爵家に頭下げて礼を述べるくらいには娘の事を大事に思ってるし、ましてや娘の命が掛かってんだ。納得しなけりゃデッドエンド待った無しな状況をスルーするとはとても思えないし、元凶を叩き潰しておきたいだろうね。
何個目かのクリームパフをもふ食いした所で、弟のジョシュアが遠慮がちに「星様、ひとつよろしいですか?」と寄ってきた。
「星、で構いませんよ、ジョシュア様。
如何いたしました?」
ジョシュアへと体ごと向け、微笑みながら
ナプキンで手を拭く。
「えっとですね…王宮で見せたあの体術なのですが…あれは星の世界の技なのですか?
あと、僕の事はジョシュアかジェシーって呼んで下さい。」
ひぇ。可愛い。
おん?弟君、格闘技に興味あるの?
ってか、この世界には無いのかしら?
影がいる位だし、ありそうなもんだと思うけど…でも、プロレスって心燃えるよね!
「ぅえ〜っと…わ、わかりました、ジョシュア。
そうですね。私の世界には様々な格闘技…体術がありまして、あれもそのひとつになります。」
「では…殿下達を制圧した、あの体術は貴方の持っているスキルなんですね?」
目をキラッキラと輝かせながらジョシュアが言う。
うっわ、めっちゃ可愛い!
頭撫でくりたい、めっちゃ撫でくりたい…。
「はい、そうです。私は別な格闘技を取得しておりましたが、あの場で披露したのはプロレス…『プロフェッショナルレスリング』と言う、観客へ見せることを目的とした攻防を展開している格闘技を基本としたスポーツ、エンターテインメントです。
やはり、犬軍だ…ゲフン、愚かな行為を諌めるにはあのようにわかりやすく、派手に、見た目にも熱く楽しめるのが一番だと思いまして。」
ジョシュアに向けてにこり、と微笑みながら私は答える。
そこなのよね。
私が習っていた古武術や空手でブチのめすのもアリっちゃアリなんだけど、見た目のアピールが…地味なんだよ。
かと言って剣道を使おうとすると、西洋剣じゃ上手く出来ないし、ぶっちゃけ手加減出来ないから殺してしまう可能性もある。
刀は使い慣れてるから良いけど、剣は全く無いからなー。
まぁ、性女の治癒魔法で治せるんじゃね?とは思ったものの、あのショボい結界を見ちゃうとねぇ…効果はめっちゃ薄そう。
アイツ、間違いなく修行サボってるだろ。
あれで聖女でーす☆なんて言われたら、しょっぱ過ぎてふざけんな!って石投げる自信しかない。
縫合が必要なケガに、絆創膏貼るだけで治療を終わらすようなもんだ。
空手で使う人形のサンドバッグで、遊びにプロレス技かけたりしてたけど何でか上手くいったんだよねぇ。
これも後で要検証だな。
頭のメモに確認事項を記載していると、エルネスト兄がガバリ!と起き上がると同時に手を上げた。
「今思い出したんだが、アレ!あの始まりと終わりに鳴った鐘…鐘?とにかくあの鐘?の音は何だったんだ?
あと、あの眩しい沢山の照明や、天井から突然降ってきた紙やらキラキラした長いの!それと聞いたことの無い耳触りな騒音!あれも星の世界のものなのか?!」
どうどう。落ち着け、兄。
流石にアレは私にも信じられなかったわ。
もしかしたら、次は実況や解説がつくかも知れないなー。フフフ…。
若干遠い目をしながらも、この疑問には答えねばなるまい。
「あれは…私も正直驚いております。
鐘は“ゴング”と言いまして、試合が始まる時と終わった時に鳴らすものです。
照明やキラキラの銀テープですが、あれは選手が入場した時、勝利した時に行われる演出のひとつですね。
あと、騒音ではなく音楽です。選手毎にテーマ曲が決まっておりまして、選手の識別とボルテージを上げる為に会場中に響き渡る音量で流すのが通例です。
演出は選手に依って違いますが、私があの時とったポーズの選手の演出が…今回、そのまま反映されたようです。」
「選手に依って違う、と言う事は、其々に演出も異なると言う事か…。」
「そうなります。
火や花火が吹き上がったり、スモーク…煙が激しく吹き上がったり、映像が流されたり、上からゴンドラが降りてきての入場や派手な乗り物に乗っての入場など、様々ありますね。」
そこまで聞くとエルネスト兄は再び机に突っ伏し、伯爵は「えぇ〜」って言いたそうな顔になった。
ご理解いただけたようで助かります。
これ以上派手になったら、アルラが赤鬼になる!
それだけは絶対に回避せねば!!
毎回ガチバトルの度にあの演出されると思うと心中複雑やわ。
ある意味、相手には混乱をもたらせるから良いとは思うんだけどもね。
紅茶を飲みながらもビミョーな表情を浮かべた私に、さらなる爆弾がブチ込まれた。
「あ!
そういえば公爵様達と別れる時に従僕の方からこっそりいただきました。
僕も拾ってきたんですけど、少ししか拾えなくて…流石、公爵家の使用人ですね♪
ほら、こんなに!」
ドサリとテーブルに置かれたスカーフから出てきたのは…
あの時、天井から雨のように降ってきた金色の紙幣と金色の銀テープ。
視認した瞬間、“バフォッ!!”と勢いよく飲んでいた紅茶を噴出。
飛沫で虹が出来たよ。わー、キレイ…じゃなくて!
ぅおおぉぉぉぉぉぉいっ!!
…ちょっと待て。ホント待て。
何で紙幣の人物画がアルラになってんだ?!
銀テープも「アルラ・エールー・アンブロジア」って何さ?!
ご丁寧に伯爵家の家紋と…はぁ?コレ、実家の家紋に私の女紋?!何で??
そんな小細工、要らねぇぇぇぇぇぇぇ!!
頼んじゃいねぇよ、こんなん!
選挙並みの名前の売り方してどうすんだ!
デウスエクスマキナよ、何考えて…いや、何を悪ノリしてんだコルァァァァァァァァ!!
ジョシュアとお母上が、キャッキャウフフとはしゃぎながらそれらを手に取り話に花を咲かせ、家令は矯めつ眇めつして興味深そうに検分しながら「ふむ、アルラ様の容姿を十全に表現されてますね」なんて言ってるし。
んでジョシュア、「家宝にします?それとも額に入れて飾りましょうか?」とか言うな。
ちょっと黙っとこうか、な?
お母上も「状態保存の魔法陣があったわね〜。綺麗なままとっておきたいから、それ掛けてからにしましょ♪」じゃないでしょ。ノらなくて良いから。やんなくて良いから。魔力と技術の無駄遣いしなくていいから。
飾るな、家宝にすんな、御先祖様が泣くぞ。
末代まで面白おかしく語られたら化けて出るぞ?
まさかの身内にゴリゴリとメンタルを削られるとは思わんかったよ…
エルネスト兄、伯爵同様に、メンタルを削れ切った私はバタン!と机に突っ伏した。
プロレス用語
●赤鬼→婚期の遅さをイジられる事。
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多謝!




