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インセクタム  作者: 初来月
98/112

098 独断専行

 通称・スバル基地、群馬県太田市スバル町に在った自動車会社の広大な敷地を接収した急造基地であり、同時に今回の我々の目的地となる場所である。

 ここは国道407号沿いに続く長大な防壁、そこから突出した出城となっており、長らくインセクタムを引き付けるという役目を果たしてきた場所である。



 ここが耐え抜いたからこそ、首都が堕ちなかったという話をフッと思い出す――



 さて、近隣の背の高いマンションや陸橋などの建物は既に崩れているだけに少し遠いにも関わらず、その目的のスバル基地が見えてきたようだ。


 だが、既に基地を確認していたマイキーから早速と嬉しくない無線が入る。


「セイジ、おかしいぞ」


 この聞きたくもなかった新たな異常を伝えるマイキーの一言を無言で受けた俺はそのまま彼の言葉の続きを待つ。そんな俺のもう何も聞きたくないのだがという気持ちを察したのか、マイキーが残りの情報を出来り限り手短に素早く伝えてくる。


 だが、どうやら手短にした意味は俺の想いを察したからではないようだ。こちらではどうしようもないから、そちらで考えてくれ……という意味であったようだ。


「ここから基地の外壁が見えるんだが、そこに傷一つ付いてないんだ……というか、壁周りに配備されていたはずのアクティブカノンも見えない……それ以外にも異常は沢山あるが……まあ、あれだ。絶対に何かおかしい……みたいだゾ?」


 以上だと言った彼の言葉を合図にモニターに情報が映し出される。それを改めて画像としてハッキリと見せられた俺の足取りは明らかに重くなる。


<アスカが補正を掛けて見やすくしているみたいだけど……>


「何にせよ、確かに傷一つないように見える……迎撃装置の類も……無いな」


 この又もやといった異常な情報を前に俺は諦めたように大きく溜息をつく。そして遂に我々の視界にも入ってきた、その堅牢そうな外壁へと改めて視線を送る。


「407の防壁の方には古い傷だが、確かに戦闘の傷があった。こっちは防壁の建造後に造られたとは聞いているが……それにしたって綺麗すぎる……か……?」


<一回も戦闘してない……みたいな……?>


「汚れも酷い……まるで人が住んでいないような……って、そんな事ないよな?」


<し、知らないわよ!?>


 この俺の逆質問にアリスの真っ当な答えはないようだ。



 さて、やや歩みの遅くなった機体だが、俺は前へと進む。そうして無理やりに足を動かしながらも、俺は眼前の意味の分からない状況の真の意味を探る――



 だが……やはり、こんな一瞬では明確な答えなど出せなかったようだ。遂に旧太田駅の跡地を越えてしまった俺の眼前に明らかに無傷な外壁が無情にも聳え立つ。


「やはり、どう見ても傷一つないな……」


 無論、暴風雨によって飛び交った小石のぶつかったような小さな跡なら幾つも在る。だが、インセクタムを相手に戦ったと思われような傷跡は一切ない。


<……って言うか、ここまでインセクタムの足音一つ聞こえないんですけど>



 どうやら、この基地に侵入する前にやる事があるようだ――



「ホバー、中隊長への現状の報せを頼む。それから機体を固定して情報収集を開始……やはり、ここはどう考えてもキナ臭いからな……徹底して調べろ」


 金田小隊とマイキー小隊に新たな配置図を送った俺は高梨へと指示を送る。内部の音をより正確に聞き取る事で何か起こっていないかを確認しようとしたのだ。


「隊長、中隊長からの返信がありません。通信の感度がやけに悪いようです……どんどんとノイズが増えているような……少し場所を変えた方が?」


「天候は……悪くない……この場での情報収集を優先、通信は繰り返せ」


「了解、機体の固定を開始します」



 だが、ここに来て更なる問題が起こる――


 我々のホバーがその為の変形するよりも早く、ここまで一言も話す事の無かった特殊部隊のリーダ、『須藤 隆宏』が勝手な行動へと移ったのだ。


「橘一等陸尉、ここからは我々の仕事だ」


 少し冷めたような……いや、それどころではない。明らかに冷徹となった須藤の声が響く。それと同時に後方に停止していた彼らのホバーが走り出したようだ。急加速し、トップを上げながら基地の南側にある通用扉の前へと向かっていく。


 この突然の余りに身勝手な動きに思わずオープン回線のまま喋ってしまう。


「須藤一等陸尉、こちらはまだ命令は出していない! 配置に戻れっ!」


 そう言った俺にオープン回線ですぐに反論が戻る。


「基地に辿り着いた以上、ここからは潜入偵察任務……指揮権は俺にある」


 先ほど同様の酷く冷徹な声……だが、流石に少し言い過ぎたと思ったのか、少しばかり間を置いてほんの僅かに柔らかくなった声が聞こえてくる。


「我々も……やるべき事をやらねばならないんだ」


 この言葉を受けた俺はフッと少し前の自分たちの立場を思い出す。頼りにならない『AA-PE』の代わりにミサイルの飽和攻撃だ。そう言われた時の事である。


 僅かな同情からだろうか、俺は続くべき言葉を咄嗟に言いあぐねてしまう。


 だが、その一瞬の間を肯定と受けてしまったかのように目的のポイントに到達したホバーから特殊部隊員たちが素早く軽やかに次々と飛び出してくる。


 総勢五名、新装備と思われる小型のレールガンと背部の大型バッテリーと思われるユニットを背負った三人と無線ユニットを積んだ軽装の一人、最後に須藤と思われる人物が現れ、散開すると同時に在るべきポジションへと付いてしまう。


 そして早くも開き始めた基地の通用扉の隙間を順に抜けていってしまう。


<はやっ! もうパスの解析を? せ、誠二っ! どうするのよっ!?>


 さて、色々な想いが重なり、茫然としてしまった俺だったが、画面のアリスが怒鳴るように問い掛けてくれたおかげで、すぐに正気を取り戻す事ができたようだ。


「こんな状況だ……彼らの突然の行動も想定内という事にしておく」


<ええっ!? そんなんで良いのぉ!?>


「もう既に問題だらけだ。更に一つ増えた所で問題ない」


 そう、実際の所、今のやり取りにおける大きな問題は命令系統がどのタイミングでどちらなのかを明確にしていなかった事くらいである。


 これはこれで当然、後に()()()を残しそうな大きな問題ではあるのだが……


 ともあれ、潜入偵察の強行に関してはむしろ利害が一致、こちらとしては多少の厳しい状況でも基地の中の確認は絶対にして貰うつもりであったという事だ。


 俺の表層の思考を読んだアリスが小さく溜息を吐き出す。


<ホント、細かそうで大雑把なんだから……>


 何だか、少しだけ不満そうでありながら何処となく嬉しそうなアリス……そんな複雑な表情を見せた彼女を横に俺は無線を聞いていた皆へと新たな指示を送る。


「全機、今のやり取りを聞いていたな……彼らは彼らの責任を持って潜入を開始した。我々は我々の責任を全うするまでここで防衛を行う……以上だ!」



 だが、この俺の言葉が皆に伝わると同時にまた新たな大問題が起こる――

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