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インセクタム  作者: 初来月
59/112

059 俺と金田

 機体のダメージ検証、早速とばかりに始まった討論に耳を傾ける――



 だがまあ、その討論の内容が自身の行為……軽率という事は決して無いが、乱雑な行為によって生まれたダメージというだけに少しばかり心が痛んでしまう。


 そんな少し肩身の狭い俺の眼前で残念な事に長々と討論が続く。


「しかしまあ、改めて整備士泣かせな使い方だな……こりゃあ」

「完全に想定していなかった使い方ですからね……」

「こちらは脚部は歩く為のモノと決めつけてましたからね」

「むしろ、よくバランスを崩さずにやってのけたものですな」



 呆れ、驚き……様々な想いを多分に含んだ溜息の数々――



 だが、今の俺には全て呆れの溜息に聞こえてくるようだ。


 せめて、せめて今、少しでも整備士の負担を減らせれば良いのだが……そう、必死に考え続ける俺……その脳裏に一つの名案らしきモノが浮かび上がる。


「つ、使い捨ての『サブアーム』みたいなモノはどうだろうか?」


 争うように話し合っていた皆がピタリと静まり、視線が俺へと一気に集まる。その視線にプレッシャーを感じ、ゴクリと息を飲むも俺は更に話を続ける。


「強度のある腰部の何処かにでも取り付けて使用時に伸ばして接地の補助として使えば衝撃を分散できるのでは……と考えたのだが、如何なものだろうか?」


 想定したのはスキーのストックのようなモノ……


 今回の議題となってしまったような俺の宜しくない使用方法……緊急時のブレーキ代わりという使用をすると一発で駄目になるという問題はあるが、滅多に使うものではないし、他の用途を持たせる事もできるので中々のモノではと考えたのだ。


「それ一本で全て問題解決とはいかないが、脚部の負担を軽減できるのではないだろうか……ああ、隠し腕のような感じだと見た目にも尚良いと思うのだが……」


 一通りの考えを全て話して静まったままの皆の返答を静かに待つ。すると……


「ううむ、強度が全く足りないのではないだろうか?」

「邪魔にならんように畳んでおく? イザというときに展開が間に合うか?」

「可動式……戦闘機動の激しい動きの中でちゃんと動きますかね?」

「いや、それは兎も角、補助という意味では有りかもしれないな……」

「メンテナンスの方は楽そうだな……最悪、取り付けずに出撃もできるのでは?」

「しかし、サブアームの根元の金属疲労が尋常でないのでは?」

「疲労部位は表層になるし、何よりも脚部に負荷が掛かるよりはマシだろ?」

「隠し腕と言うが、裏に隠す意味はないな……空間も足りないな」

「むしろ、他の用途を持たせるという所が面白そうだ」


 賛否は半々といった所だろうか……少し残念な意見もあったが……


 ともあれ、少しは役に立てたようだ。全員が黙り込み、それぞれがそれぞれのやり方でガリガリと勢いよく記録していく姿を眺めて俺も少しホッとする。


 オマケで……また一歩、機体が自身の気に入ったフォルムに近づいた事を喜ぶ。



 ともあれ、そんな感じのやり取りを夜まで繰り返す事となる――





 さて、意見は十分に聞き取る事ができたと判断されたようだ。雑に追い払われた我々を他所に研究員たちがこれからとばかりに井戸端会議を始める。


 その少し楽しそうな様子を背に俺は冷め切った珈琲を一気に飲み干す。そして同じように結構な質問攻め、確認攻めの繰り返しにあった金田へと声を掛ける。


「流石に今日は疲れたな……」


 この独り言にもなる様にとした姑息な俺の言葉……であったのだが、意外に愛想が良いとばかり、すぐに金田によって返事がなされたようだ。


「そうだな……出撃の方がマシと思える日が来るとはな……」


 本当に疲れ切ってしまったのか、低い背もたれに寄り掛かりきった金田……上を向いたまま茫然となった彼がこちらも見ずに答えを返してくる。


 その答えに同意して良いものかと悩んだ俺は小さく鼻で笑うようにして応える。



 そんな中、『懇談会があったわ』と叫ぶ川島の声を合図に研究員たちが慌てて部屋を出ていく。その所為もあって高く無駄に広い研究室に妙な静けさが広がる――



 俺は上を向いたままの金田へとまた声を掛ける。


「アリスの事を許してやってくれ……彼女はまだ子供のようなモノなんだ」


 この言い訳じみた言葉で先ほどのアリスとのやり取りを思い出し、少しばかり『ばつが悪く』なったのか、金田が自身のザンバラ髪をグシャグシャと掻き毟る。


 そして……


「悪かったのは俺だ……お前らじゃない……まあ、さっきのは俺への罰って事だ」


 言葉選び、声色は優しくないが、その心優しい答えに俺は感謝の意を示す。


「そう言ってくれて助かる……またアリスと話してくれ」


 残念ながら、こちらの言葉の方に明確な答えは無かったようだ。


 小さく溜息を吐き出した金田が勢いよく立ち上がり、後ろ向きのまま軽く手を上げるや否や、ここからサッサと立ち去ってしまったのだ。


 『了解した』と言う事なのか、はたまた『勘弁してくれ』と言う事なのか……判断に迷いながら俺も宛がわれた自室へと戻る事とする。





 さて、その宛がわれた自室に戻った俺だったが……そこに居たマイキーとモニターに映し出されたアリスとアスカの姿に頭を抱える事となる。


「マイキー、アスカ……なんで君たちが俺の部屋に居るんだ?」


 呆れを大いに籠めた俺の言葉にすぐに答えが返る。


「みんなでゲームをしていたんだ! セイジもやるか?」


「君の部屋でやれば良いじゃないか……と言いたいが……まあ、良い。それよりもとてもじゃないが頭が回らん……懇談会もあるんだ……また今度にしてくれ」


 あしらう様に言った俺だが、ほんの少しだけ興味を覚えてしまう。


 彼が高性能AIアリスと自身のサポートAIであるアスカと一体、何のゲームをしたのか……どのようにして遊んだのかが少し気になってしまったのだ。



 その疑問を軽く口にしてみると、すぐに明確な答えが返る――



「何か知らないが、最新型のゲーム機があったからパーティーゲームをしたんだ! たくさんミニゲームが入っている奴だ! もちろん全敗したよっ!」


 『HAHAHA』と聞こえてくるような高笑いを見せるマイキー……その少し涙目となった表情が余りにおかしく、思わず小さな含み笑いが零れてしまう。


「た、楽しそうで何よりだ」


 その言葉とは裏腹な俺の笑えると言わんばかりの表情に流石のマイキーも気づいたようだ。すぐにおふざけと抗議を半々にしたような言葉を投げつけてくる。


「二人とも全然手加減してくれないデース! そんな傷心気味のボクを見てもセイジは慰めてくれないっ! ここにはミーの味方は誰もいないデース!」


<ボクかミーかどっちかにしなさいよっ!>


「じゃあ、ミーにしまーす!」


<なんで、そっちを選ぶのよ!?>


 この彼の胡散臭い喋り方に早速とばかりにアリスが反応し、嬉しそうになったマイキーが更に反応を示す。この定番となった二人の掛け合い……この騒ぎに隠れるようにして今度は彼のサポートAIであるアスカがコッソリと口を開いたようだ


<ふふ、ゲームに負けて涙目……また新たな情報の提供ができそうですね……>


 続く二人の掛け合いに隠れた言葉ではあるが、室内に思った以上に響き渡る。


「新たな……情報……?」


 まあ……コッソリと言ったが、間違いなく聞こえるように言ったのだろう。当然、それに気付いたマイキーが戸惑いつつも抗議の声を上げる。


「まさか……誰に? まさか、ミス川島が戸惑っていたのは……な、何故?」


<戸惑いではなく、あれは怒りです。何故なら貴方のナンパ癖を事細かに伝えたからですね。伝えたのは無論、私です。これからもガンガン伝えていきます>


 思った以上に素早く、そして力強く、鼻息荒くアスカが口を開く。そこからは何でなのかは全く分からんが明らかに強い意志が感じられる。


 そんな彼女の強い意志は当然、マイキーにも確かに伝わったようだ。



 彼の動きがピタリと止まり、明らかに狼狽え始める――



「What for!? な……!? き、キミは俺の事を嫌っているのかい!?」


 だが、この悲痛な言葉に返答はなく、妙な無言が続く事となる。そして……


「え? アスカ……? 本当に俺のこと嫌いなのかい……?」


<私もアリスさん同様に貴方との相性で選ばれました……なので当然、貴方に一定以上の好意を持っております…………まあ、たぶん>


 一瞬の間はあったものの、この言葉を受けたマイキーがホッとした表情を見せる。だが、すぐに『たぶん』という言葉があった事に気付いたようだ。


「『たぶん』って……どういう事なんだ!?」


 この言葉に……何故か、アスカからの返事は無いようだ。


「な、何故、何も言わないんだい?」


 フリーズしてしまったかのように押し黙るアスカ……彼を揶揄っているのだろうか……そんな彼女が無表情のまま映るスマホを前にマイキーが固まる。



 そんな二人を前に俺とアリスもただただ言葉を失くす――

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