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インセクタム  作者: 初来月
43/112

043 在日米軍

 性格に難あり、それでも俺と変わらぬほどの技量を持つと言われた金田一等陸尉……荒川沿い『江東区、墨田区、荒川区』を護る第一旅団のエースだそうだ。


 今回、我々の支援小隊の一つに選ばれた男であり、正しくエースの一人であった男に最大限の暴言を吐いてしまったアリスも流石に絶句してしまったようだ。


<私……やっちゃった……>


 思っていたのとは違う言葉である。


 先ほどの『自身の流れる様な数々の悪口』でも思い出したのだろうか……明らかに青ざめた表情となったアリス、スマホに映った彼女を俺は一瞥する。


「まあ、結果としてエースである男にエースは何たるモノかと語ってしまったという事になるな……だが、共に出撃するなど知らなかったのだから仕方ないだろ?」


 雑に慰め、サッサと次の要件をこなそうと思った俺に更に言葉が続けられる。


<私、知ってたみたい……今、自分のデータベースを調べてたら……知ってた事を今、思い出したというか……朝、マザーから情報が送られてたの忘れてたというか、何と言うか……私、どうしよう……やっちゃったかも……>


 アリスが明後日の方を見ながら奥歯に物が挟まったような物言いをみせる。


 どうやら……今回の極秘作戦の為に我々をフォローする為にエースが揃えられる。その中に金田という男がいる。それらをアリスは既に知っていたらしい。そして知っていた上で感情的になり、我を忘れて暴言を吐いた……という事らしい。


 そんなアリスに今度は俺の方が絶句する事となる。


 それ程までに金田への反論という名の悪口の優先順位が高かったという事である。全くもって冷静さが売りのAIの所業ではないという事でもある。


 この俺の冷めた視線に気付いたのか、アリスが慌てて弁解の言葉を口にする。


<ち、違うのっ! 普通だったら、そんな事しないもん! あ、あいつがいけないの! だって……あいつ、誠二の悪口を……まあ、言い過ぎたとは思うけど……>


 赤城中隊長の楽しそうな大笑いの声が響く中、しどろもどろとなったアリスの必死な言葉、謝罪と言い訳の混じり合った言葉が乱れ飛ぶ。



 さて――



 優秀な彼女の事である。本当に優先すべきは何かを既に自身の中では切り替えた事だろうとは思う。だが、それでも……俺の為に怒ったというのだから余り強くは言えないが、注意をせず、このまま放っておくという訳にはいかないだろう。


 俺は仕方なく、本当に最低限の苦言を呈する事とする。


「君は少し感情的になり過ぎる……それ自体は決して悪い事では無いのだがな……まあ、俺に対して感情を発するのは良いが、他人にはまず良く考えなさい」


 さて、彼女の感情の表れなのだろうか……彼女の御免なさいという短い謝罪の言葉と連動するようにスマートフォンに映る彼女の存在が小さくなっていく。


 自動で行われているのか、それとも意識して演出しているのか……どちらにせよ、彼女に反省の意志は大いに見られると判断した俺は話を戻していく。





<もう少し、ゆっくり歩けばよいのに……>


「程々の早歩きは時間も節約できる。何よりも健康に良いんだぞ?」


 赤城から表向きの作戦概要を伝えられた我々……今度はその足で連隊長の元へと急ぐ。だが、そんな我々に突如として陽気な声が掛けられる。


「ヘーイ、セイジ! オツカレサーン!」


 この『漫画やアニメの出演者が使いそうな如何にも胡散臭い英語的な日本語』は我々が既に通り抜けた一室、小会議室の一つから聞こえてきたようだ。


 ともあれ、その胡散臭い発音のおかげで俺は姿を見ずとも相手を判別する。


「やあ、マイキー! 相も変わらず、元気そうで何よりだ!」


「ハッハー、ゲンキなのは違いないデース!」


 振り向いた俺の眼前、小部屋から現れた『俺と同じほどの体格をした男』が両手の親指をグッと立てながら最高の笑顔を見せてくれる。


 彼の名は『マイケル・ヴィクトール・ダグラス』……明らかに日本人ではない、やや白よりの金髪、そして数の少なくなった碧眼をしたアメリカ人の男である。


 この見知った男にアリスも早速とばかりに声を掛ける。


<もうっ! また胡散臭い喋り方してるっ!>


「ダーメデースカー? うーん、ザ・アメリカンって感じで良いと思うんだけどね? まあ、アリスちゃんが好まないなら止めておこうと思いますヨ!」


 まるで兄妹のようにアリスと流暢な日本語で仲良く話すマイキー……そんな陽気な彼に続くようにして更に二人が連なるようにして姿を現す。


 一人はスタイル抜群な金髪碧眼の美女、背格好は田沼に近い女性……名前は『アビゲイル・プラド・ダグラス』、ダグラス家の最も末の妹である。


 もう一人はネイティブアメリカン……北米インディアンの血を色濃く残す男、細身だが俺やマイキーよりも更に背の高い男、『アカンド・ホーク』であった。


「アビー、アカンドも一週間ぶりか……」


 だが、この俺の挨拶に言葉による答えは無い。


 残念なことに二人は揃って中々の無口……アビーは派手な外見に似合わず、兄のマイキーの陽気さを反面教師にしたかのような照れ屋、僅かに吃る癖もあって喋るのが苦手……打って変わってアカンドは無駄口を叩かない職業軍人的ならではの無口なのだ。その上、二人の日本語は堪能なマイキーのモノに比べると今一なのだ。


 それもあり、二人がそれぞれの性格に沿った軽い会釈で応えてくる。


 そして……そんな二人の代弁をするかのように又もや俺の眼前のマイキーが喋り出す。今度は信じられない程に流暢な日本語……であった。


「相も変わらずに事情が複雑だが、今日付で東京方面軍・第二旅団所属の在日米軍になる。現場での指揮権は君にあるが、こちらも一定の拒否権を持つという感じになるらしい……まあ、キミの支援部隊に抜擢されたって事だ! 宜しくな!」



 さて、彼らは実戦部隊・第3海兵遠征軍に所属していた米軍の一員――



 彼ら米軍は巨大隕石落下後、急激な気候変動の所為もあり、我が国に残る事となった。そして渋々ながらに様々な技術や戦力も提供してくれる事となった。


 彼らが独自に開発した機動兵器の技術、更にパイロットと機体そのものである。


 特に『AA-PE』を手足のように動かす事ができるパイロット、脳の反応速度を含めた反射神経に優れたパイロットは貴重で彼ら在日米軍五万の中からですら僅かに百名しかいなかった。言わずもがな、彼らは飛んでもなく貴重な人材という事だ。


 しかも、彼らは長らく俺と田沼と訓練を共にした仲でもあるのだ。その確かな実力も踏まえて、これほどに頼りになる『支援部隊』はないという事だ。


「ふふ、こちらこそ宜しく頼む」


 思わず、小さく笑みを浮かべた俺……だが、そんな俺の小さな喜びは続くマイキーの真剣な物言いで止められる事となってしまう。


「なあ、セイジ……米軍ではなく、個人として少しばかり情報交換をしないか?」


 俺はこの突然の交渉という言葉に少し面食らう事となる。





 先ほど彼らが居た部屋へと入り、二人きりとなったマイキーの言葉を待つ。そんな俺の気配を察したのか、少し大げさな身振りを見せたマイキーが口を開く。


「オーケー! まずは提案した俺から情報を出そう!」


 そう言うと同時に彼が手に持ったスマートフォンをおもむろに机の上に置く。そして次の瞬間、俺の眼前へと押し出すようにして正確に滑らせてくる。


 その小さなモニターに映し出されていたのはアリスたちと似た気配を持つ『赤茶色の髪をした碧眼の見目麗しい女性』の姿であった。


「彼女は……?」


 この俺の言葉を合図にするように映し出された彼女の視線が僅かに動く。俺の存在を認識し、俺へと正確に素早く視線を移してきたのだ。つまり……


「わざわざ、仰々しく見せてきたという事は……人格搭載型AIという事か!?」


 視線を戻し、小さく声を発した俺に改めてマイキーが答える。


「その通りだ。彼女は在日米軍が独自に開発した新型サポートAIだ……アリスちゃんよりも『エルザ』に近い……自己判断を少しばかり強化したモデルという事だ」



 この突然のマイキーからの情報に俺は驚き、思わず口を噤む事となる――

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