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インセクタム  作者: 初来月
17/112

017 アリス、初出撃

 シミュレーター用の旧型のバイオ・アクチュエーターから完全オーダーメイドとなった個人専用の新型スーツへと着替えていく。


 その信じられないようなフィット感に俺は少しだけ驚いてしまう。


「素材も少し変わったのか? 伸縮性が素晴らしいな……」


 バイオ・アクチュエーターは以前から稼働率の割に故障率が低くかった事もあり、今後は完全に合わせた専用のモノへと順次に切り替えていくのだそうだ。


 こんな酷い戦況下でも日々進化していく事に少し感動を覚えた俺……そんな俺に先に着替えを終えた大崎からやけに感情の籠った声が掛けられる。


「何と言うか……最近、色々なモノに振り回されている気がするんですよね……このままで良いのかとは言いませんが……何となく……何となくですね」


 このまま何処までも流されてしまうような……そんな不安な想い、フワフワとした奇妙な非現実的な感覚を肌で感じとってしまったのだろう。


 少しだけ考えた俺はすぐに答えを返す。


「ふむ、振り回されるか……確かに……まあ、いつの世でも自分の道を真っ当に真っ直ぐに歩ける事の方が難しいとは思うが……それは兎も角、転属したと思ったらトンボ返りで前線へ復帰だからな……そりゃあ、何が何やらだ。俺もそう思う」


 ここまで口には出さなかったが、自分もそのような想いを強く持っていたという事を伝える。その上で自分なりの考え、一つの答えを伝えていく。


「まあ、それでも……俺たちはやれる事をやるしか無いんだ……」


 余りに分かり切っていた答えに大崎が萎れる。だが……


「さて、やれる事の内に除隊もあるが……どうする?」


 この言葉を聞いた大崎……一瞬だけ目を大きく開いたが、すぐに目を瞑る。


「死に掛かった時の恐怖をまだ覚えています……でも、何でだか逃げたくは無いというか、ワクワクするというか……何処か、おかしくなったのかもしれません」


 その心境の変化も少し分かるだけにすぐに言葉を返す。


「一種の中毒症状……アドレナリンが出過ぎたと言う奴だろうな……」



 戦場から離れるなら今の内だ――



 だが、その大切な続きとなる言葉を伝える前に部屋のスピーカーからピーピーと甲高い音が鳴り響く。我々の注意が強制的にそこへと引きつけられる事となる。


「機体の準備が完了しました。そちらへ迎えを送ったので同行してください」


 変わらぬ聞き心地の良さを誇る川島女史の声に俺は了解の答えを返す。





 アリスとリサが搭載された改良型の『AA-PE』……この二体の機体は飾られていた円形の台座から後方の搬出用のエレベーターへと既に移されていたようだ。


(やはり、ノア搭載機は出撃しない……か……まあ、搭乗者も決まってないしな)


 そんな事を考える俺に向けてアリスが機体の手を振ってくる。


<誠二、急いで医師団の車の移動速度……意外と速いみたいなの!>


「済まなかった! すぐに搭乗するぞ!」


 この俺の返事を合図にするかのように改良型の『AA-PE』の搭乗口となるハッチが開いていく。以前の外部スイッチ式から変わったメリットを十分に味わう。


 走り寄った俺はすぐさまコックピットと言うべき空間に身を投げ出す。


<電磁ハーネス起動!>


 アリスの幼さが抜けないような少し高い声が響くと同時に眼前のハッチが閉じられていく。次に全身が浮かび上がるような感覚が伝わってくる。


<頭部HMD・装着開始!>


 又もや響くアリスの声……上から降りてきたHMDによって視界が一瞬だけ塞がれる。だが、次の瞬間……眼前に最先端のゲーム画面のような世界が広がる。そして全ての接合部の状態がチェックされ、赤から緑の表示へと順に変わっていく。


「メインカメラ起動……頭部の可動確認っ! そっちはどうだ?」


<機体状況オールグリーンよっ! そのまま武装確認に入るわ>


「川島です……EVを起動します。それと私も新型のホバーで追随します」


「どちらも了解だ」


 その川島の声掛けを合図にするようにHDMモニターの真ん中に機体の簡易表示と全身に施された武装の簡易表示を合わせたモノが拡大して映し出される。


<ハンド・レールガン、アクティブカノン、腰部・小型誘導ミサイル、両腕部・高周波電熱振動ブレード、盾部・テイザー・ショックウェーブの起動を確認!>


 こちらも正しく全てにエネルギーが通った事が『縁取りの赤い表示』が『緑の表示』へと変化する事によって俺へと正しく伝えられる。


「よし、レーダー起動と同時にサブカメラ起動!」


 この俺の確認の声と同時に先ほどの機体状況の表示が最小化される。そして小さなマップが右上に表示されて左上に時刻と天候がズラズラと表示されていく。


「外は何時もと変わらぬ暴風だが……()()()よりも上々な天候だな……」


 あのシミュレーションを思い出した俺は少し笑いながらアリスへと声を掛ける。


<あんな酷いシチュエーションなんてって思ってたけど……やっといて良かったみたいね。あ……でも、産総研からの情報だと更に天候は良くなるみたいね>


 アリスの少し嬉しそうな声が響くと同時に今度は『産総研』の方から連絡が入る。相手はアリスたちと同じ試作型AIであるノアであったようだ。


 まだ距離も近い為か、映像付きの通信が送られてくる。


<橘一等陸尉……ノアです。貴方の戦闘データを後ほどに共有させて頂く事を改めてお伝えしておきます。以上です。皆のご武運をお祈りしています>


 嫌味にならない程度に小さく笑顔を見せたノア……彼の気遣いに感謝する。


「恥ずかしい戦闘は見せられないという事か……頑張らせて貰うよ」


 この返事を合図にするように搬出入用のエレベーターの扉が開いていく。音もなく分厚い一枚目が開く。続いて二枚目の扉が開ていき、一気に風雨が流れ込む。


 外では既に新型と思われるホバーが待機中であったようだ。


「このホバーと二機は別のルートで向かいます。付いてきてください。暫くはテストを踏まえた上での移動となります。決して無理はしないで下さい!」


 強めの風が吹き、少しばかり揺れを見せたホバーが素早く反転して移動を開始する。その位置を知らせる為の赤や緑の点滅を目標に定める。そして……


「どうやら我々のコードネームは元のままのようだ! だが、大崎……貴様の機体は暫くはファング2だ。分かったな? 大崎機(ファング2)、俺にしっかりと付いて来い!」



 何時も通りの風雨の中、俺はゆっくりと歩みを進める――





 さて、盛大に気合を入れて出撃した俺と大崎……だが、そんな我々のやる事は最初の十分ほどの歩行テストくらいしか無かったようだ。


「本当に疲労感のようなモノはないんだな?」


<無いって言ってるでしょ? 任せっきりな事に気を使ってくれている事は分かるけど……これ以上、しつこいと私も怒るわよ! リラックスしてて!>


 今、我々は目白通りを抜けて練馬駅を通り抜けた所……そう、我々はアリスたちによってオートで運ばれている最中なのである。


「うーむ……君たちを機械扱いするのはなんだが……パソコンだって連続使用すれば熱を持ってダウンする事もあるだろ? そういう事を……」


<それも踏まえて大丈夫って言ってるの! もうっ!>


 少し短気な所があるアリスが叫ぶように答えてくる。だが、少し言い過ぎたと思ったのだろうか、すぐに別の言葉を紡いでくる。


<ちゃ、ちゃんと対策はされてるから安心し……私を信じて!>


 この心からの言葉を聞いた俺は……その言葉を信じると同時に嬉しくなる。昔、夢想していたアニメのように人工知能とパートナーになれた事に感激したのだ。


「ふふ、了解した……『任せるぞ』!」


<ふふん、『任されたわ』!>


 だが、そんな小さなやり取りも含めて大いに感激している我々を他所に……必死に追随する大崎は少しばかりとは言えない苦労をしているようだ。


<ああもうっ! また高く上がり過ぎてるじゃない! 少し天気が良くなったから大丈夫だったけど、普段ならアウトだわ! 帰ったら筋トレを追加ね!>


「な、なんで僕だけ訓練しながら……オートで……良いじゃないか……ですか!」


<生意気なこと言わないっ! あんたは一にも二にも訓練よ! 私の望む様に動けるまでビシバシ鍛えて上げる事にしたから覚悟しなさい!>


 開きっ放しの無線から大崎の悲痛な声と嬉しそうなリサの声が響く。何はともあれ、改良型となった『AA-PE』の新しい無線の調子も天気同様に良好のようだ。


<あっちは大変そう……嬉しそうと言うべきかしら?>


「大崎のその気は無いと思うが……ん? あれは……なんだ?」



 何時もより通る視界の中、我々の視線の先に一筋の煙が見えてくる――

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