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インセクタム  作者: 初来月
117/133

117 仕組まれた罠、巨大な敵

「交戦エリアに入ります!」



 速度を落とさず、戦闘態勢へと入っていた我々の機体に高梨の声が響く――



 その一段、高くなった声を聞き終えるや否や、俺は改めて命令を下す。


「扉まで一キロ……一気に突入して俺はアンノウンと交戦する。各機は減速、周囲の敵を駆逐しながら扉へと向かえ! 到着後は外部からの侵入を阻止、中には指示なく入るな! アンノウン撃破後は全機、室内で援軍を待つ……以上だ!」


 一気に言い終わると同時に上空を『JV-28』が通過したようだ。暴風暴雨の激しい轟音に紛れて『JV-28』のローター音が僅かに聞こえ、そのまま去っていく。


「天候が悪化しました。申し訳ありませんが、これ以上は……兎に角、搭載武装は全て巻き散らした! 多少は数を減らしたと思います! ご武運を!」


 この叫ぶような宍戸の声に合わせてホバーへと情報が送り込まれたようだ。次の瞬間、我々の機体にも最新の天候、地形、敵の配置が次々と表示されていく。


「本当に助かった! 次の再開を楽しみにしている!」



 この言葉に返答はない。果たして姿見えぬ彼へと届いただろうか――



 そんな事を一瞬だけ考えた俺の耳にアリスの声が響く。


<敵の予想行動エリア確定……各機の目標・予想進路確定……自機の進路・到達点確定……全機に作戦の開始を通達…………初弾着弾まで三、二、一、今!>


 俺は機体の姿勢を更に前傾させ、少しでも空気抵抗を減らす。自機の後方へと向けられたスラスターがアッという間に全開にされて速度が一気に上がっていく。


<環境情報再確認、各部スラスター再調整>


 この声と共に各部の小型三軸姿勢制御モジュールの甲高い音が聞こえてくる。


 次の瞬間、そんな自機の遥か左右をアクティブカノンの閃光が抜けていく。そして一歩遅れて三島機の放ったミサイルが機体の頭上高く飛び越えていく。


<田沼機、大崎機のアクティブカノンの着弾確認、アシッド二体と思われる敵の撃破を確認、三島機のミサイルの着弾も確認、誤差は想定の範囲よ!>


 前方二百メートル先に着弾したであろう三島機のミサイル……俺は赤外線モードの併用で可視化された爆発の閃光とその周囲の様子をジッと見つめる。


 その次の瞬間、その中に二つの敵影を見つける。影の様子から問題なしと判断した俺は更に予備の補助スラスターまで使用させて機体の速度を上げさせる。


<前方のシックル二体、体勢が崩れてるわね>


 完全に突出した我々はそのシックルたちの合間を風のように抜けていく。



 そして――



<到達点まで残り、六百! 敵の位置を再確認……アンノウンの反応も確認! 続いて後方の三島機からミサイル発射を確認……着弾まで三、二、一、今!>


 そのアリスの叫ぶような声に合わせて俺は敵を見定める。マップ上に映る幾つかの敵影、目標はこっちの進路の妨害となりそうな気配を感じたシックルである。


 強い前傾姿勢のまま、速さを保ったまま俺は攻撃行動へと移る。


「俺がやる」

<了解、近くなるから気を付けて!>


 機体の細かいバランスを任せた俺、その視界にすぐシックルの姿が入り込む。


 偶々なのか、勘が良かったのか……爆発の中、明らかに進路上に割り込んできたシックルの胴体に左手のレールガンで素早く狙いを付ける。距離は近く、射撃管制装置は当然なし、僅かに揺れ動くサイトが敵と重なると同時に俺は引き金を絞る。


 モニターが一瞬だけ、パッと白むと同時に一筋の閃光が奔り、その閃光の先で大鎌を振り上げたシックルが胴体を撃ち抜かれて大きく弾け飛んでいく。


<命中確認>


 発射の衝撃で僅かに揺らめいた機体の体勢が戻る中、アリスの冷静な声が響く。



 扉までの進路を完全に確保した我々は全力のまま直進する――



<前方、扉の破損を確認! 何これ? 馬鹿みたいに大きな穴が!?>

「出入りしやすくて結構だ!」

<この穴を造ったサイズの奴がいるのよ!?>

「その為のこいつだ!」

<気軽に……もうっ!?>


 俺はこの悲鳴のようなアリスの声に返事はせずに田沼へと声を掛ける。


田沼機(ファング2)、後ろを任せるぞ」

「了解です……ご武運を……」


 ここまで余り喋る事のなかった田沼の感情の籠った反応を背に我々は内へと侵入する。そして搬入用と思われる広い、緩やかな下り坂を飛び抜けていく。



 だが、同時に我々の無線に大きな異変が起こる――



 強烈なノイズ、聞き覚えのあるノイズに反射的に顔を背ける。


<……っ!? ジャミングよ!>


 やはりか……そう考えた俺の耳に更にアリスの声が聞こえてくる。


<無線もレーダーもアウト、発信源はたぶん避難所よ!>


 近距離レーザー通信が不能な距離になった途端のジャミング……その目的は間違いなく、我々と小隊の連携阻止を狙ったモノである。まあ、罠があると判断された以上、当然のように想定されていた事ではあるので、それほどの驚きはない。


 だが、それは兎も角、敵は今、我々が見えているという事にはなるだろう。


「監視カメラか? 敵が下にいるとは思えん……ハッキングか?」

<たぶんね! 外の何処かにいるんじゃない?>

「外……やはり、そちらはどうにもならんか……」


 何にせよ、敵の罠の狙いは間違いなく、俺とアリスという事だ。


<それより、機体は平気だけど、レーダーは完全にアウトよ>

「このまま奇襲と行きたかったが……そうもいかんか……」


 そう言うや否や、俺は後方向けのスラスターを切り、前方のスラスターを全力で吹かす。一気に減速した我々の機体が後方へと倒れ込む。速度が限りなくゼロとなると同時に各部の補助スラスターが吹かされて機体が真っすぐ正常に着地する。


 そして我々はエアロックの役目を果たす空間、その中央から周囲を見渡す。


「どちらの扉も内向きに大きく歪んでるな……」

<アシッドじゃないわね……って何か、扉の残骸……おかしくない?>


 だが今、その事を考え込む時間は無い。


「この作戦は速さが重要だ……行くぞ」

<早く倒さないと皆が中に入れないもんね!>


 軽くスラスターを吹かしながらも慎重に歩を進める。


 そしてド真ん中に『AA-PE』六機くらい纏めて通れそうな大穴の開いた二枚目の扉を抜けて我々は物資搬入エリアと言うべき場所へと入り込む。


<良かった! 中は思ったよりも広いわ! 高さもある!>

「光源は無し、吹き込む風で埃と土が舞ってるな……敵影はどうか?」

<ジャミング寸前のデータだと一番奥……姿はほとんど見えないけど……って、あれだわ! あれっ! デカっ! 何よあれ! ちょっとデカすぎないっ!?>

「こちらを向いているのか?」

<そうみたいね……っていうか、天井に頭を擦ってるじゃない!>

「貫通力の高いレールガンでは致命傷が難しいのも納得か……」


 そんな中、赤外線や熱感知などを駆使したアリスが奴の姿を立体化していく。すぐにモニターの端に映し出された敵の大雑把な3Dデータへと俺は目をやる。


 直下から見るとしたら、見上げても頭が見えないのではないだろうか……そんな小さなビルほどのサイズはあろうアンノウンの3Dモデルをマジマジと眺める。


「ザリガニ? それともエビ? しかし、デカいのはも驚きだが……あの手は?」

<先端の塊を見る限り、破壊に適したデザインに見える……畳まれた腕部の方はやけに太いし……この部分だけは早い動きができそう。扉を壊したのはこいつね>

「脚部は数は多いが小さい……瞬発力は無さそうだが、動き出すと速そうだな」


 次の瞬間、俺は空いた右手を腰部右側のアタッチメントへと回す。迷うことなく、ビームブラストに手を添えた俺はそのまま握り、アタッチメントから取り外す。


 この僅かな物音に今度はアンノウンも明確に反応を示したようだ。


「こちらに完全に気付いたが……まだ動かんか……」


 そう口にした俺だが、すぐに別の異変へと気を取られる事となる。


「ん? ここは窓口か何か……ん? 何か、妙だな……何だ……」


 この言葉に反応したアリスがすぐにドローンは射出する。ランドセルに隠された二機のドローンが唸りを上げて飛び立ち、アッという間に左右へと散開する。


<ジャミングの影響でほんのちょっとの距離しか飛ばせないけど……>


 二秒も経たずに室内の前方の情報が送り込まれてくる。


<パッと見た感じ、金属……精密機器の類が一切ない。それと……ここ何か残骸が古い気がする。今、作られたモノと前からのモノが混在しているような……>



 一体、何故――



 そう言えば最近……と思った次の瞬間、正面のアンノウンが動きを見せる。だが、このアンノウン、俺の思っていた動きとは全く異なった動きをし始めたようだ。


 その妙な様子を察知したアリスが叫ぶように声を上げる。


<アンノウンが反転っ!? お、奥の搬入用エレベーターが起動してるわ!>


 レーダー上に併せて表示された避難所の当時の室内図、正面奥に見えた赤い回転灯の輝き、それらから推測したアリスの言葉を受け、俺は機体を走らせる。


「何故? いや、それよりエレベータのサイズは!?」

<分かんない! 流石にあんなデカいの入んないと思うけどっ!>


 起動したのは誰か、何の理由で、我々を更に誘い込む為か……様々な考えが浮かんでは消えていくが、搬入用エレベーターの扉が開くのは兎にも角にも不味い。


「下に行かれるのは不味いぞ……立場上、追わない訳にはいかなくなる」


 そう、国民を守る使命を帯びている以上、追わない訳にはいかないのだ。


「だが、あの中には……入りたくない!」


 あいつが乗れなくとも他のインセクタムなら乗り込むことは出来る。奴との戦いの最中、隙を突かれてシックルにでも乗り込まれると手が打ちづらくなるのだ。


<狭い中じゃ、『AA-PE』の機動力も高火力も生かせないもんね>



 それを理解したアリスと力を合わせ、アンノウンへと一直線で向かう――


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