表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インセクタム  作者: 初来月
114/133

114 救援の報せ

「ソ、ソナー完了、距離が遠く、正確には分かりませんが……かなり大型のインセクタムがいるようです。その……この位置からハッキリと歩行音が聞こえている所から考えると相当に……今、情報を送ります。それと中隊長からの通信です」


 明らかに動揺を隠せない……そんな高梨からの手短な報告に俺は静かに回せとだけ答える。そして言い終わるや否や、アリスが待ってましたと声を上げる。


<罠ね! 間違いないわっ!>


「そう……だな……」


 確かめるまでもなくといった状況……そんなあからさまな状況を前に憂鬱な気分となった俺の溜息が響く前に赤城の怒声のような大声が飛び込んでくる。


「誠二か、話は聞いたぞ!」


 当然、これは怒声ではない。彼の普段通りの声……だが、そんな大声に耳を塞いだ振りをしたアリスがすぐに僅かにボリュームを下げてくれたようだ。


「避難所からの救難要請かっ! 相変わらず、お前は巻き込まれ屋だな!」


 その対応の所為で下がった音量に一安心した俺は赤城改めて現況を報告する。


「川口避難所周辺に大型の敵も確認しました……緊急性が高いと考えて我々だけで先行します。ですが、前回と同じような状況であり、罠かもしれません」


 この出来れば、そんな所に行きたくないという思いを少しだけ籠めた報告……それを受けた赤城が、にべもなし、冷静に大声で答えを返してくる。


「そうだな……だが当然、様子見には行ってもらう。まあ、安心しろ! 周りには偶然、金田とマイキーの部隊が展開していた。すぐにフォローに行かせる」


 このちょっとしたサプライズ情報に俺は思わず片眉を上げる。


<エース部隊が隣り合って……そんな都合のいい事ってある?>

「ないな……どう考えても無理やりだろうな……」


 さて、彼らの前後のスケジュールは知らない。だが、今回の件で何か起こる事を想定して前澤連隊長が、かなり強引に彼らを手配したのだろうと推察する。


<強権発動って感じ……? 大丈夫なの?>

「大丈夫な訳ない。強引な手を使えば、その反動はデカいに決まっている」


 今後を考えると不安しかない……といった所である。


 だが……そうは言っても、ほんの少しだけ心が落ち着く。ホッと小さく溜息を吐き出した俺は閉じた無線を開かせて出来る限り、冷静を装って口を開く。


「それは頼もしい……安心して前進させて頂きます」


 半ば、自暴自棄ではあるが、そう答えた俺に更に赤城が話し掛けてくる。


「もう一つ朗報だ……天候は中々に悪いが、『JV-28』が一機、飛んでくれるそうだ。貴様らより、先行して索敵させるから、心から安心して向かってくれ」


 さて、見上げた空は未だに真っ黒、それどころか、上下左右に雷と風雨が奔るのが見えている。そんな最悪な空を再確認した俺は呆れたように口を開く。


「こんな天候で? 許可が……というか、パイロットが飛ぶ気に?」

「出撃を志願してきたそうだ」

「本当に?」

「本当だ! こんな事で俺が嘘をついてどうする?」

「それはそうですが……」


 ただの英雄的行為、それとも出世目的なのか、はたまた我が部隊の誰かへのアピールなのか、もしくは前澤連隊長の秘蔵っ子……だがまあ、それは兎も角、この信じられない程に酷い悪天候の中の出撃など本当に大丈夫なのかと訝しんでしまう。


<誠二と同じくらい変人ね>

「いや、俺は普通だ」


 ともあれ、『JV-28(ハミングバード)』の索敵、フォローがあるとないでは状況の良し悪しが桁違いなのは間違いないのだ。そう言う訳で俺はすぐに無線を繋ぎ直す。


「その命知らずに……心からの感謝の言葉を伝えてください」


 だが、その言葉にもうすぐ、そいつが上空を抜けるから自分で声を掛けろとつっけんどんに答えが返される。そして……改めて赤城から我々に前進命令が下る。





 さて、少し先の高台で忙しなく周囲を見渡す田沼機が見える。直進性が高く、先まで見通す事の出来る正面のレーダーをあちらこちらへと向けているのだ。


 そんな彼女の機体を目視した後、今度は上空の遥か向こうへと目を向ける。命知らずの『JV-28』の姿を探したのだ。だが、その姿はまだ見えないようだ。そんな中、ソナーの収納を終えたホバーを通し、俺は新たに下った命令を伝えていく。


「今から救難信号の発信された場所へ向かう。既に近隣の部隊が、こちらのフォローへと動いている。『JV-28(ハミングバード)』も一機、動いてくれたようだ。この三部隊と一機で強行偵察……その後、囮となって避難所から敵を引き剥がす役目を負う事になるという事だ。無理をするつもりはないが、一定の覚悟を持って挑んでくれ」


 この突如として起こったアクシデント、これに対する緊急作戦の概要は既に全機に送ってある。その甲斐あってか、皆からの直接的な抗議は一切ないようだ。



 ただやはり、全員が強い不安を覚えているようだ――



 自分の息を飲む音も思った以上となって機体の中に響いてしまう。


<誠二、大丈夫?>


 やはり、気にしない訳にはいかないとアリスが声を掛けてくる。だが……


「大丈夫な訳はないが……行かん訳にはいかないからな……」


 諦めたように、そう口にした俺は改めて皆に前進を指示する。





「『JV-28(ハミングバード)』はまだか?」

<信号無し……まだみたいね>


 目的地の川口避難所まで後僅かとなり、俺の緊張も高まる。


 そんな緊張を少しでも解そうとアリスが何度も声を掛けてくる。その言葉に御座なりに答えを返していた俺だが、続いた彼女の疑問の言葉に少し考え込む。



 生き残りは居るのだろうか……という彼女の些細な疑問の言葉――



 さて、普通であれば、答えは『生き残りの存在を信じている』となるだろう。だが、俺とアリスはここに罠があるだろう事を既に知っているのだ。そう、敵の支配下にある可能性が高いとなると、川口避難所は高確率で既に……という事だ。


 そう考えた俺が渋い表情を見せるとアリスが慌てて謝罪の言葉を投げてくる。


<ご、ごめんなさい……>


 俺をリラックスさせる事だけに注力し、ポンポンと話題を変える事で深く考え込まない様にしてくれていたのだろう。そんな彼女に俺は気にするなと答える。


 だが、答えの方は真剣に答える。


「俺は……もう覚悟している」


<覚悟って……そういう事だよね……>


 その言葉を受け、画面のアリスが悲壮な表情となる。


「それでも全力は尽くす……今は……目の前の事だけに集中しよう」


 気落ちしてしまったアリスを宥める為、俺は出来る限り優しく声を掛ける。



 そんな中、『JV-28(ハミングバード)』をレーダーに感知したという無線が機内に響き渡る――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ