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インセクタム  作者: 初来月
109/112

109 ビームブラスト

 架空のシックルと思わず視線が合う。その次の瞬間、その巨大な禍々しい眼を寸断するべく接触したビームサーベルから爆発的な輝きが広がる――



 装甲越しにも関わらず、アッという間に伝わってきた莫大な熱量……それと同時に何かが激しく爆ぜたような聞いた事もない大きな音が響き渡る。


「アリスっ!」


 この盛大な音に負けじと上げた声、これを後にするような勢いで機体が離脱していく。予想された俺の行動、その動きに合わせるように事前に準備されていたスラスターが一斉に火を噴き、まだ見えないシックルから一気に距離を取っていく。


<離脱完了、安全圏よ>


 その離脱の残りのエネルギーを一回転する事で消費し、ピタリと止まった俺の機体、その中の未だ興奮冷めやらぬ俺の目に何とも奇妙な光景が飛び込んでくる。


「あれは……シックル……シックルの残骸……なのか?」


 少し震えるような俺の声にアリスが素早く冷静に答える。


<そうよ……思ってた以上の威力ね! こっちの刀身は使用不能……でもまあ、衝撃の方向のコントロールは上手くいってるみたいね。手首には全く影響なし、本体も一切のダメージなし……で、接続は自動解除、刀身は捨てていくって感じね>


 この言葉を受けた俺は溶けかかった刀身とシックルの残骸を交互に眺める。


「しかしな……」


<何の問題はないじゃないって言いたいけど……気持ちは……分かるわ>


 そう、真っ二つどころではない……最初に直撃した頭部どころか、腹部の全て、僅かな腰部と脚部を残して大半が言葉通りに消失してしまったのだ。


 巨大だったシックルの少量の残骸を改めて二人揃って茫然と眺めてしまう。


<一応、映像で確認してたけど……>


「シミュレーターとはいえ、目の前にすると……驚きどころではないな……」


 明らかに過剰すぎる程に過剰な攻撃力である。一体、何と対峙する事を想定したのだろうか、同時にそう考えた二人が今度は思わず目を合わせてしまう。


<……ってか、これってビームサーベルというか……ビームブラストね>


「ブラスト? どういう意味だ?」


<ビームの爆発ね>

「嫌だ」

<ああそう……>





 さて、二時間ほどシミュレーションを繰り返した俺は休憩室へと下がる。


 バイオ・アクチュエーターの一部を外し、ようやく内部の換気を行う事ができるという事だ。プシュッという音と同時に放出し切れなかった汗が蒸気となって溢れ出る。やや冷たい澄んだ空気に触れる事ができた俺の溜息が室内に小さく響く。


 だが、休む間もなくアリスが早速とばかりに声を掛けてくる。


<ねえ、どう思う?>


 こちらを窺うような短い質問に俺は少し考えてから答えを返す。


「正直、明らかに過剰だ……普通に考えれば、もう少し威力を落として安定性を上げた方が良いだろうな……二度、三度と使えた方が当然、使いやすいからな」


 浪漫を求めただけではない、別の何かを感じたという答え……この俺の答えにならない答えを受けたアリスが少しだけ考えてから、ようやくと口を開く。


<何も言ってくれない……って言うか、今は言えないって事なんだろうけど……でも、西田が考えたんだから……どっかで使う当てがある……って事かな?>


 そう、彼の所には俺が知り得ない情報が入ってきているはずなのである。


 そんな彼が自身の体調を鑑みず、我々のスケジュールを押してでも早急にこの武装が必要だと判断したと考えると流石に背筋に冷たいモノが走ってしまう。


<学者や研究者って現実的な見積もりをする方が多いんだけど……まあ、考え過ぎね! きっと、何もなかったってなって後で笑い話になるだけよ!>


 またフラグとなりそうな一言を放ったアリス……そんな彼女の言葉を意識的に無視した俺は静かに目を閉じ、無理やりに脳と体を休める事を優先する。





 一泊二日となった新武器の訓練は特に問題なく終わりを告げた。


 我々の機体に搭載された、このビームブラストは共に安全に帰還する事が最後の実施試験となるようだ。その旨を伝える川島の声がトレーラーに響き渡る。


「これが最後のテスト……と言うより、実践です! 機体を緊急起動して輸送トレーラーから降車、そのまま光ヶ丘基地まで先に帰還してください」


 この声を合図に同行していた整備員たちの声もザワザワとひときわ大きくなる。



 そんな中、俺は疲労の溜息交じりに機体の緊急起動の許可を伝える――



「緊急……起動……脚部とブースターの稼働確認以外は全てスキップだ」


 この明らかに意気消沈した俺の声に元気な了解の声が返る。そして……


<起動シークエンス開始、頭部HMD・装着開始!>


 自分の身体が僅かに浮き上がる気配と共に眼前のモニターが起動される。順を追って開かれていく様々なウィンドウ、その一つに映り込んだアリスへと目をやる。


<地形、天候……再確認! 機体各部、通電確認! 脚部稼働テスト開始……クリア! 各部ブースター稼働テスト開始……オールクリアよ!>


 少し勝ち誇ったような笑みを見せてきたアリス……そんな彼女のフフンという小さな鼻息を聞き終えた俺は渋々ながらに次の指示を伝える。


「ビームサ……ブラストの……くっ、接続チェックだ!」

()()()()()()()接続チェック完了、オールクリア! いつでも使用可能よ!>


 少し強調されたようなアリスの言葉を受けた俺だが、すぐに気を取り直す。輸送トレイラーの天井部と側面のゆっくりとしたパネル開放を目視で確認していく。


 いくつもの赤色灯が回り始める。


 注意を促すサイレンがけたたましく響く中、五面で構築された天井が前面へとスライドして重なり、一度立ち上がってから、あるべき場所へと収納されていく。


 続いて側面が二つに折れてタイヤを隠すような位置へと移動していく。



 防ぐものが無くなった大量の雨粒が勢いよく四方八方から飛び込んでくる――



 やや荒天の中、トレイラーの変形が完了すると同時に川島の声が響く。


「ハッチ開放確認……橘機、出撃どうぞ」


 この声を受けた俺は無言でアリスへと指示を送る。


<了解、『AA-PE』緊急起動!>


 すぐにアリスによるコントロールで『AA-PE』の上半身が立ち上がる。その滑らかな挙動をモニター越しに確認した俺は機体のコントロールを自身へと戻す。


 そして……


「よし、橘機……出撃する」


 車体に負荷を掛けぬよう、まず静かに左脚部を下す。設置と同時に腰を回し、右脚部を素早く動かす。そちらの脚が設置すると同時に二歩、三歩と進みだす。


<各部の負荷確認……オールクリア>


 この情報を受けた俺は最終試験を開始する。





 さて、単純な全力疾走からの抜刀、僅かにブースターを吹かしながらの全力疾走からの抜刀、様々な負荷をかける試験を繰り返しながら我々は基地へと向かう。


「この状態での機体への負荷は問題なさそうだが……」


<ちゃんと磁場を広げた時の影響も疑似的に再現してるから大丈夫よ!>


 そう言ったアリスの言葉に俺はそうかと小さく頷いてみせる。


 ……が正直なところ、不安は大いに残る。何せ、試験機体での情報の収集はされているが、俺の機体での実試験はコストの問題でおいそれと出来ないのだ。


「別エリアの実戦で既に使われたというが……俺の機体では挙動が……まあ、それは何時もの事ではあるが……まあ良い……良くはないが……」


<もうっ、ブツブツと! 使いたかったんでしょ!>


 ホント、根っからの心配性ねと言うアリスを宥め、俺は周囲へと目を向ける。



 さて、今は道半分といった所か……そんな中、俺は残りの試験は行っていく――

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