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インセクタム  作者: 初来月
107/112

107 疲労困憊

 思った以上に盛り上がった架空兵器の話は無理やりに止められる事となる――



<ねえ! ちょっと! 時間、大丈夫なの?>


 アリスの不満そうな言葉で現実に戻された我々は思わず顔を見合わす。


「あ、本当だ……うわ、もっと話したかったんだけど……流石に今日はここまでかな? 本当を言うとビームライフルの話もしたくなった所だけど……」


「そうだな……残念だが……まあ、次の機会を楽しみにしよう」

<ビームライフルっ!? 次は別の話題が良いわっ! 私の好きな話っ!>


 本当に残念といった表情を見せてくれた西田に我々もすぐに応える。だが、そんな我々の言葉を受けた西田の表情は何故か、少しばかり曇ってしまったようだ。


「次かぁ……」


 小さくポツリと呟く西田、その物悲しい表情に俺は何だか妙な不安を覚える。



 だが――



<なぁに、その顔? 休みが取れないのは分かるけど大袈裟すぎ……っていうか、ぜんぜん休んでないから、そうなるのよ!  ほんと、休みなさいよね!>


 同じように彼の様子の変化に気付いたのだろう。そんなアリスも思ったより心配になってしまったのか、少し慌てたような勢いで更に西田に声を掛けていく。


<うーん、やっぱり心配になってきた……普段から痩せすぎなのに……>


 そんな彼女の雰囲気に呑まれた俺も少し考えてから口を開く。


「アリスの言う通り……まあ、余り休まない俺が言う事でもないのだが……決して無理はしないでくれよ。俺のように無駄に頑丈という訳ではないんだから……」


 実は本当に何か大きな病気でも抱えているのではないだろうかと思わず考えてしまった俺……そんな俺の表情にも気付いたのか、西田が小さく苦笑する。


「先日にあった健康診断はまあまあの結果だったから大丈夫なんだけど……まあ、本当に無理はしないよ……これが終わったら必ず休む……約束するよ」


 そう言った西田がそれじゃあとばかりに席を立つ。



 どうやら、ようやく今日の本題という訳のようだ――





 さて、西田によって先日に大崎と共に通されたフロアへと案内される。この久しぶりとなるフロアの余りの広さと天井の高さに俺は改めて驚かされる事となる。


 だが……


<ただいまっ! ん、あれ?>


 スマートフォンのスピーカーを揺らしたアリスの声に疑問の気配が含まれる。



 そんなアリスの声を受けて俺も疑問の声を上げる。


「ほとんど誰もいない……それに機器も大半が動いてない?」


<予備電源? ん? 回線も不通……?>


 一体全体、どういう事だと考えた我々に西田の声が掛かる。


「今日は全ての機器と皆の休みの日だったんだ。機器の方は外部から遮断する日、色々と問題がないかチェックする日……ともあれ、そこに無理やりに日程を組み込んだんだ。大丈夫、最後の調整は僕と梓くんと数人の整備員で十分だからね!」


「最後の調整? もうそこまで……」


 もう実用段階なのかと驚く俺に更に声が掛かる。


「今回の量産は予算的に止められていてね……これは今の所、君専用……あ、一本は今からの実験用、もう一本は実戦用、この二本しかないんだ。ごめんね!」


 そう言った西田が整備員が群がる我々の『AA-PE』へと向かって行く。そんな少し足早な西田を俺とアリスは何だか少しばかり腑に落ちないなと眺める。


<無理やりな日程……なんか、話の切り上げ方がおかしいし……やっぱ、秘密が多そうな感じ? しかも、量産も止められてるって……使い切りなのに? これ一本だけ? 全ての工程はほぼ終えてるはずなのに実戦で最終実験ってこと?>


「上層部を通って命令が来た訳だし……その辺は問題ないとは思う。現状、実験扱いはよくあるしな……まあやはり、とんでも兵器なんだ。どうやっても機密だらけという事なんだろう……だが、それにしても彼の様子は何というか……」



 何やら、妙な話の嚙み合わなさを感じてしまう――



 スマホに映ったままのアリスと思わず目を合わせる。


「うーむ、まさかとは思うが、設計的な問題はどうだ?」


<まだ先の技術かと思ってたけど、一回のみって使い方なら問題ないように思えるわ。まあ、私はこの手のプロって訳じゃないけど……誠二はどう思う?>


「もやもやするが、悪い予感という意味では特にない……と思う」


 じゃあ、大丈夫かというアリスの言葉を受けた俺も同意とばかりに頷く。そう、何より彼はアリスたちが信頼する人物であり、俺も気に入っている人物なのだ。



 これ以上の詮索はいくらなんでも無粋と感じてしまったのだ――



 まあ……何よりも早くビームサーベルを……もどきではあるが、その最新武器を見てみたい、使ってみたいという欲求が強まったという事でもある。





 実験場でのビームサーベルのみの稼働試験、試験機体で実際に使用した動画、様々な大量の動画を六時間近く見続けた俺はようやくシミュレーターへと移る。


 装備を整え、既に筐体の中で待機となった俺の溜息が響く。


「後少し……ではないだろうな……」


 流石に疲労感が高まった俺の呟きにアリスが申し訳なさそうに答える。


<シミュレーター試験ってしか書いてなかったけど……最低でも六時間以上は予定してるってさ……ええと、架空のインセクタムを相手するみたいね>


 この彼女の言葉に俺は思わず目をギュッと瞑ってしまう。


「六……聞きたくなかった……ちゃんと見てなかったが、もう少しくらい余裕があるスケジュールだと……基地への帰還は明日だというのに終わるのか?」


<一応、日を跨ぐ前に終わるみたい……あ、夕飯の時間は取ってもらえてるみたいね! で、本試験は明日の午前中だから午後には帰れるんじゃないかしら?>


 そう言ったアリスの言葉を受けて俺は開きかけた目を軽く閉じる。


 そう、明日の深夜には既に我々の小隊の哨戒任務が決められているのである。分かりやすく言えば、明日の夜、日を跨ぐまで俺の無休が決定したという事だ。


 西田博士に休みがどうこう言っている場合ではないという事だ。


「明日の哨戒任務は……新たなエリアだったな……マップは帰還中に再確認か……」


<ご愁傷様……>


 アップグレードされたシミュレーターの端、我々の『AA-PE』同様に表示されたアリスの姿……その憐憫に満ちた表情を受けた俺はここで気合を入れ直す。


「いや、博士も川島くんも頑張っているんだ……やるしかない」


 そんな俺の気合を感じたように、ようやく西田から通信が入る。


「さて、シミュレーションを開始するけど……ええと、まずは既存のインセクタム、現状で考えられる最大となったシックルなどの相手をしてもらうよ!」



 今日、最初のシミュレーションが開始される――

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