表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インセクタム  作者: 初来月
106/112

106 ビームサーベル

 地下駐車場まで出迎えてくれた川島……輸送トレイラーの後部座席から降りるなり、小走りに駆け寄ってきた彼女に俺たちは早速とばかりに声を掛ける。


<梓っ! ただいまっ!>

「久しぶりだな」


 そんな我々の被さるような言葉に川島も笑顔で答える。


「ふふ、お帰り、アリスちゃん……橘さんもお元気そうで何よりです」


 どうやら、彼女は随分と忙しかったようだ。


 大いに慌ててきたのか、息も上がり、頬は紅潮、少しばかり髪の毛が跳ね上がったまま……そう、直す暇も余裕も全くなかったのではという事だ。


 そんな状況の中、我々を出迎えてくれた彼女に改めて感謝を告げる。


「その様子、相当に忙しそうなのに……わざわざ、済まないな」


 視線で気付いたのか、川島が少し照れくさそうに慌てて髪を直す。


<ふふ、髪の毛が乱れるなんて大変ね!>


「あら、貴女だって最初の頃は髪の毛が大暴れしてたじゃない?」


<あれはモデリングが手抜きだったの! 私の所為じゃないわ!>



 二人の仲良さげなやり取りを見ながら我々は応接室へと向かう――





<ただいまっ!>


 さて、応接室の扉が開かれるか否や、まだ姿も見えぬ彼に向け、アリスが嬉しそうに声を掛けたようだ。そんな彼女の言葉に又、彼も嬉しそうに声を返す。


「アリスっ! 元気にしてたかい?」


 本当に心から嬉しそうな声を発し、扉にぶつかりながら姿を現したのは研究開発陣のトップであり、アリスの育ての親と言うべき西田博士であったようだ。


 だが……


<当然、元気よっ! 西田は……少し……瘦せたかしら?>


 確かに今、扉に弾かれた彼は以前より更に痩せて見えるようだ。それだけでない、目の下の隈も酷く、明らかに寝不足、体力不足となっているようなのだ。


 そんな彼を流石にこれは心配だと思った俺も少し慌てて声を掛ける。


「いや、本当に……再開を喜びたいのだが……大丈夫なのか?」


 この言葉を受け、目の合った西田が少し申し訳なさそうに答える。


「今日、お披露目の新武器の件もあってね……最近は寝不足なんだ」


 そう答え、僅かにズレていた眼鏡を直す西田……よく見ると確かに髪はボサボサ、羽織った白衣以外は着た切り、明らかに寝る間を惜しんだといった姿である。


「いや、ゴメンね……こんな汚い格好で……」


 そこら中に痒みを感じるのか、頭、首、腕と定期的に短く掻き毟る……そんな彼の様子に心から感謝を覚えた俺は少ない語彙の中から言葉を探し出す。


「汚いだなんて思わない……本当にありがとう……博士のその頑張りのおかげで我々の……いや、日本中の皆の命が救われているのだから……本当にありがとう」


 やはり、大した言葉は出ない。しかし、想いはしっかりと籠めて伝える。



 だが、そんな俺の言葉に何故だが、博士の表情は一瞬だけ暗くなる――



 その余りの変化にソファへ座ろうとしていた俺は思わず立ち上がってしまう。


「博士……!?」


 想像しているより、もっと体調が悪いのか、それとも何か重大な病気が……しかし、そう考えた俺の支えようとした動きに気づいた博士に表情が戻る。


 そして慌てて手を振り、問題ないという事をアピールしてくる。


「ご、ごめん、本当に疲れているみたいでね……さっきから意識が飛ぶんだ」


<ええ、意識って……ヤバいじゃない! 休みなよぉ!>


 そう言ったアリスが応接室のモニターへと移る。今度はそのモニターから博士の事を覗き込むようにして見つめる。そんな彼女の言葉にもすぐに答えが返る。


「これが終わったら休むよ……本当だ……二人とも心配かけてゴメンね」


 ハッキリとした口調で、そう言った西田……そのはにかむような小さな笑顔に少しだけ安心した俺はようやく応接室の柔らかなソファへと腰掛ける。





「友人として言わせてもらうが、本当に疲れた時の休暇は大事だぞ」

<誠二も他人のこと言えないけどね!>


「友人かぁ……い、いやぁ、これが終わったら休むよ! 本当だよ!」


「そうしてくれ……その姿は流石に心配でしょうがないからな」

<そうだそうだ! 誠二も休みを要求しましょう!>


 さて、どうにか落ち着いた我々は雑談も僅かに本題へと移る。


「あまり時間が無くて……本当はゆっくりして貰いたかったんだけどね」


 そんな申し訳なさそうな彼に俺はすぐに答えを返す。


「安心してくれ……俺は新武器に興味津々だからな……ふふ」


<もう、ビームサーベルは忘れなよ……って、また笑ってるし……>


 そう言ったアリスにワザとらしく、揶揄う様に笑顔見せた俺はすぐに西田へと視線を戻す。そして嬉しそうな表情となっていた彼に続きを促す。


「うん、流石にあのビームサーベルではないよ。でも、今回のも中々に凄いよ!」



 西田が持っていた資料を机の上へと雑に並べていく――



 それを早速とばかりにカメラから確認したアリスがすぐに感嘆の声を発する。


「これって……さっき言ってた奴に近いかも……」


 その声色に思わず反応した俺は慌てて資料を覗き込む。だが……


「全く分からん……これが完成図? ただの手持ちの実体剣に見えるが……」


 ほぼ全てが何が何やらな数字と記号の羅列、幾つか見覚えのある日本語にしても大半は横文字……思わず、眉をしかめた俺に見えたのは絵だけだったのだ。どうやら、これはよく見る広報用の物ではなく、研究者用の物……であったようだ。


 いつものブレードと変わらぬ長さの実体剣の絵面を眺めた俺は説明を求める。


 すぐに明らかに長々とした説明をしだしそうな雰囲気を醸し出した西田……俺はそんなウキウキとした西田からサッと目を逸らし、アリスへと説明を求める。


 そんな俺の視線に応じたアリスがふふんと鼻を鳴らす。そして……


<簡単に言うと、単発式のビームサーベルね!>


 説明を取られたショックで口が開きっぱなしになった西田の前で説明が続く。





 どうやら……磁場発生器となるブレードを覆う様にプラズマを発生させて一瞬だけ閉じ込める。そのプラズマが放電する前に切り裂く武器という事らしい。


<切り裂くというか、蒸発……さっき言った通り、相手に干渉した瞬間、その方位の磁場が消失……そこから膨大な熱エネルギーが一気に放出されるって感じ?>


 基本的には何でも一瞬で真っ二つにする程の威力があるそうだ。どんなものなのかといった程度に聞いていた俺だが、二枚目の幾つもの絵に釘付けとなる。


「この絵が放出する瞬間の見た目か……まるでビーム状の巨大な刀だな……」


<磁場発生は実体剣から離れると弱まる。片刃の刃先から出て剣から近ければ近い程に濃い色になるのね……それで大きな刀に近い見た目になるのね>


「いや、これは……何と言うか……うん……か、格好良いな……」


 この俺のポツリと呟いてしまった小さな小さな一言に西田が喰いつく。


「だろ? 僕も当然、ビームサーベルに憧れてたからね! これを思い付いた瞬間は歓喜したよ! まあ、残念ながら維持する事はまだ出来ないけどね!」


 満面の笑顔……そんな彼の説明の続きをアリスが素早く要約する。


<超々高温を発生させて切るというより蒸発させる。そのエネルギーに耐えきれなくて刃が一発で融解……そんなんじゃ、実戦じゃ使いようが無いわ!>


 どうやら、このビームサーベルもどき、まだ大いに未完成であり、実用に耐えうる使用は一回、その一回だけで磁場発生器がほぼ焼き付いてしまうのだそうだ。


「この一回の機会を作り出すのに、どんだけ苦労するか……」


 これじゃあねぇと呟くアリス……だが、俺の方は少しばかり興奮してしまう。


「正に一撃必殺……これは……所謂、必殺技という奴なんじゃないか……!」


 この俺の一言でアリスが茫然とし、代わりに西田が息を吹き返したようだ。


<せ、誠二……ひ、必殺って……>

「そう! そうなんだよ! 絶対に格好良いに決まっているよね?」

「うむ、使用可能数が一回のみ……実に漢らしいじゃないか……」

<そんな無茶な装備……ってか、私はレディーよ! 私もいるのよっ!>

「これを使って逆転するのが良いんだよ! やっぱ、君は分かってくれたかぁ」



 大喜びする西田、そんな彼との会話を俺は少しばかり楽しむ――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ