勘違いの雨
五月下旬、その日は雨が酷かった。
梅雨入りし始めたこの頃雨に悩まされていた。
傘を差しても多少は濡れてしまう。傘を忘れた日なんてもう最悪だ。
雨なんて消えてしまえばいい、そう思ってしまう。
そんな思いが届くこともなく、一歩雨の中を歩き始めた。
いつもと変わらない風景、どこか変わってほしいと願ってしまう。
前から来た人が運命の人だったり、何かのきっかけで特殊能力を手に入れたり。
漫画のような非日常を味わってみたいと。
そんなことが起きることもなく、足がじめじめと濡れ始めた。
服も重く感じ始めた頃、バスの停留所で縮こまっている女の子がいた。
見た感じ濡れるのが嫌で誰かを待っているのだろうか。
こういう時、どうするべきだろうか。助けたいと思う反面、濡れたくない気持ちがある。
きっと、主人公とかなら必ず助けるのだろう。
変わりたい自分を変えたいようと雨の中近づいた。
「これ、どうぞ」
傘を渡した後、雨の中走り始めた。
「……あ、ありがとうございます」
彼女の声が後ろから微かに聞こえ、右手を挙げてその場を後にした。
誰かを助けた優越感に浸りながら、重くなった服とびしょびしょの靴を脱いだ。
「この前、傘かしてくれた人がいてめっちゃ助かったんだよね」
そんな声が二人の女子学生から聞こえてきた。正面から楽しそうにしている彼女らは学校に行く途中だろう。
すれ違えば気づいてくれるだろうか。そんな期待をしながらも歩き続けた。
「あっ……」
気づかれた、そう確信した。
「昨日の〇〇ドラマ見た?」
淡い期待だった。何か変わると思っていた日常は変わることなく時間が動くままに時は進み始めた。
人を助けた優越感だけが残りいつもの日常へと時が戻った。
ありがとうございました。




