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狐か稲かそれとも何か【終】

※こちらは本編、『月に咲く花』の物語をふまえたものになっています。



あれから私は大人になり、大切な人の夫となり、村長となり、遂には父親となった。



妻は私の大切な思い出を、共に大切にしてくれた。



彼女のよく読んでいる物語のひとつであるかのように、褪せない文字で私の幼い思い出を綴り、簡単にした言葉で「人魚のお話」として娘や村の子どもに優しく語っていた。


娘なんて、その話が好きだと、空で語って聴かせることができるまでになった。



当時から私を慕ってくれていたらしい妻は、一体どんな思いでこの不甲斐ない私の初恋を聴き綴ってくれたのだろう。



ただ魅了され知らない熱に浮かされていたひと時の夢は物語となり、悲しい別れの出来事ではなく素敵なひとと出会い過ごした忘れられない思い出として私の中に残ったのだ。




「人魚のお話」では、少年と人魚のその後は描かれない。どちらもきっと、それぞれの幸せを見つけられるだろう、と望みを込めて幕を閉じる。





それでも、見てたかい? 彩華(あやか)


君の綴ってくれたこの物語に、続きができてしまったんだよ。




まず、稲の言ってた可愛い家族がうちにやって来たんだ。最初はただの変わった子だと思っていた彼が、どうやら人魚らしく、稲のことまで知っているようだと分かったときは本当に驚いたけれど、確かにどこか放っておけない可愛い子だよ。



それからもっと驚いたことに、その彼がついこの間白百合と夫婦(めおと)になったんだ。彼もあの「人魚のお話」を白百合から聞いて知っていたけれど、二人は傷付くと分かっていても関わり続ける道を選んだんだよ。本当に強い子たちだ。



そしてその祝いの宴にね、なんと稲が来たんだ。まさか再び村へ来てもらうことが叶うとは思わなかった。名は「月夜(つきよ)」というんだって。今度はちゃんと、お互いの名を知り合えたよ。あれからどうしているかと気に掛かっていたけれど、彼女は自分の里では長で、娘婿の母代わりであったらしい。そんな目まぐるしい日々の中での私との出会いはほんの気晴らし程度であったのではないだろうか。



別れ際に言われたのはやはり彼のことだったよ。彼のことをよろしく、と。彼女は変わらず魅力的な女性だったけれど、幸せそうに家族を想う母の顔のほうがずっと印象的だった。

おかげで初恋の人との再開はすっかり親同士の会話になってしまったよ。



まさか彼女が、娘の義母になるとは。



君のことも改めてゆっくり紹介したかったんだけどなあ。


君が急いでいってしまったからこっちは大変だよ、なんて。



僕らの娘たちは、一体どんな幸せと別れを辿るのだろうね。





さて、そろそろ物語の終わりにこんな一人だけに向けたことを書くなと怒られてしまうかな。


でも良いんだよ。この君の字が綴られた物語は僕か君……彩華しか、見ることがないだろうから。






少年と「稲」のことが書かれたものを持つのは私だけだ。



娘が母から聞いたこの話を残したいと紙に綴ったものはあるが、それは妻が私の恥ずかしくない程度に事実をぼかして語った、ある少年とある人魚の「人魚のお話」である。



私と稲のことを知るのは、当事者の他には妻くらいで十分だ。



「少年」清条(せいじょう)より

「幼馴染」であり書き手であった妻 彩華へ


この手紙を本当の終わりにしよう。




(終わり)



『狐か稲かそれとも何か』こちらの話で本当の完結になります。最終話が別作品と絡んでいるため、もやっとしたらごめんなさい。

お読みくださった方、ありがとうございました。

m(__)m


作:胡虹こいろ


(@lily_skymoon) < https://twitter.com/lily_skymoon?s=06 >

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