08 前職のスキルが生かせたので
【合成】。
「なんぞこれ?」
「わかりません……!?」
ナカさんですらわからない?
そんなことがあるのか?
「もッ、申し訳ありません。アドミンたるわたくしがダンジョンのことで答えられないことがあるなど、役割の未遂。存在価値の否定に他なりません。お望みであればわたくしのことを放棄し、他のインターフェイスを……!」
「いやいやいや!?」
望みませんよ!?
ナカさんの職務に対する責任感が半端ないな!?
「まあ、そう結論を急がず一緒に考えてみようよ?」
「何と慈悲深いお言葉。アナタ様のようなマスターに仕えることができて身に余る光栄です……!」
そんなに感激されても……!?
「それで、この【合成】ってのは何なんだろう? わからないにしても推測はできない? ナカさん?」
「はいッ! マスターのご期待に応えるため全身全霊をもって推理いたします!」
気合が入りまくりだ。
「考えられるきっかけとしては、やはりマスターではないでしょうか?」
「え? 俺?」
「これまで、この【合成】という操作項目はエキドナ炉にはありませんでした。ならば何かのきっかけで追加されたと考えるしかありません。そしてありえるきっかけとしてはマスターが新しくダンジョンを支配したことしか……!」
たしかに。
『枯れ果てた洞窟』などと言われたこのダンジョンに、他に大きなイベントがあったとも思えないし。
「それにダンジョンには、マスターとなった者の影響を受けると言います。マスターの性質を読んで、ダンジョンが新しい機能を獲得したのかもしれません」
「…………」
……俺の性質か。
言われてみれば心当たりがある。
「ちょっといい?」
「はい」
ナカさんに代わってコンソールの前に立ち、エキドナ炉を操作してみる。
……この【合成】って書かれてるところを指で押せばいいのか?
タッチ。
するとコンソールに新たなメッセージが浮かぶ。
【合成するデータを選んでください。A:_、B:_】
直感的にわかった。
たしかにこれは、俺の特性というか能力を反映している。
俺の職業は冒険者だが、同じ冒険者でもさらに様々なクラスが分かれ、できること得意なことも大きく異なる。
それぞれの長所を生かし、一致団結して進むのが冒険者の鉄則だ。
俺はサポート職。
今まで何度も言ってきたが。
しかしサポート職って言うのは前衛職みたいなざっくりした振り分けで、その中でさらにレンジャーとか細かく分けられる。
俺がどんなサポート職かというと……。
「俺は、合成師なんだ」
「はあ……?」
ナカさんの反応薄い。
そりゃまあ合成師なんてそんなポジションだろうがなあ。
合成師のスキルは、異なる二種類以上のアイテムを掛け合わせ、まったく新しいアイテムを作り出すことだ。
俺がここまで来る途中、水晶と棒を併せて即席の槍を作ったろう?
あれも合成師ならではの技。
「合成師である俺がダンジョンマスターになったことで、ダンジョンの一部であるエキドナ炉が同じスキルを獲得したってことか」
「素晴らしいですマスター! ご自分の個性をダンジョンに付加できるなんて、マスターとしての適性が備わっているのですね」
そんな手放しに褒めんでくれよ……!
…………。
一旦は照れたけれども、すぐになんか冷めた気分になった。
昔を思い出して。
ただサポート職だってだけでなく、合成師というクラスで何度バカにされてきたかわからんからな。
二つ以上のアイテムを合成して新しいアイテムを作る。
そんなスキルが実戦で役立つことは難しい。
戦いの中アイテム合成なんてやる暇ないし、そんなことするぐらいなら事前に完成品を買って持ち込んだ方がいい。
そう言われて毎日のようにケチ付けられたなあ。
俺が合成師であることを褒めてくれたのなんてナカさんが初めてかもしれない。
「キミは優しいなあ」
「えッ!?」
思わず涙ぐんでしまった。
「いッ、いえいえマスター! わたくしはダンジョンの一部で疑似生命、優しいなどという感情は持ち合わせていません。あくまで冷静沈着な分析による結論です!」
「それでもありがとう」
「それよりも、エキドナ炉が獲得した【合成】機能がどのような効果を及ぼすか、アドミンとして非常に興味があります。早速使ってみませんか?」
「そうだな……」
ならば何と何を合成させるべきだろうか?
といっても選択肢はないな。
今のエキドナ炉にはスライムとゴブリンの生成データしか入ってないんだから。
「そんじゃまーやってみっか」
【合成するデータを選んでください。A:_、B:_】
【A:スライム、B:_】
【A:スライム、B:ゴブリン】
「……と」
合成の極意は、素材となる二物の長所をいかに上手く繋ぎ合わせるかだ。
何の考えもなく適当にすれば短所ばかりが組み合わさって合成前より弱くなってしまう。
それでは合成する意味がないし、材料費ももったいない。
冒険者として普通にアイテム合成をした時も神経をすり減らしたものだ。もし失敗作ができたら殴られたからな。
しかし、これからやるエキドナ炉による【合成】は、合成師としてのスキル合成など比較にならないほど高度だ。
うわー、失敗したくない。
失敗したくない!
「でも行くぞ!」
【合成を開始しますか? >Yes/No】
初めての試みに一歩踏み出す。
【合成】を起動させたエキドナ炉は、明らかにさっきの生成シークエンスとは様子が違った。
起動音にブレがある。
そしてそのブレ感覚が少しずつ短くなり、やがて完全に重なっていく。
まるで不協和音が調律されて純音になっていくかのようだった。
二つの異なるものが合わさって一つになる。
そしていつしか音がやみ……。
エキドナ炉から出てきたのは……。
「……スライム?」
スライムだった。
あれおかしいな?
ゴブリンと合体したんじゃなかったですっけ?
「しかしマスター、あのスライム色が違いませんか?」
ナカさんの指摘する通り【合成】で生まれてきたスライムはなんか見たこともない色をしていた。
普通のスライムだったら無色透明。場所の明るさによっては透明に近い水色なんだが……。
このスライムはなんだか濁った沼みたいな色をしている。
なんか嫌な色だなー、と嫌悪感を感じると共に、既視感も感じた。
あの色、どこかで見覚えがある?
「ゴブリンの肌の色だ……!?」
そうだ。
人に近い体躯で、しかし凶悪狡猾。ダンジョンのいたるところにいるけど会いたくないヤツナンバーワンのゴブリン。
あれも人型を模してはいるが、濁り腐った沼のような酷い肌の色が特徴のモンスターだった。
「ゴブリン色のスライム……?」
「合成に成功したんですかね……?」
ナカさんと共に、このドブ色スライムを観察する。
色以外特に変わった様子もないが……。
「おーい、何か違うところがあるなら見せてみろー?」
と言ったのに別段意味はない。
独り言のようなものだったが、それがきっかけとなり驚くべきことが起こった。
『ピピッ』
「え? 何今の声?」
鳴き声?
さらに半固体でプルプルしたスライムの体が突然伸びた。
縦に長く。
何事かと身がまえたが、縦長になったスライムはそこから体躯を曲げて何と言うか……。
アーチ状? になった?
「これが意味するところはなんだ? さっぱりわからん……?」
「頭を下げて……、あッ!?」
ナカさんが気付いた?
「お辞儀です! お辞儀をしてるんじゃないでしょうか!?」
「何いッ!?」
スライムがお辞儀!?
あのスライムがッ!?