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07 エキドナ炉の仕組みを知ったので

 俺です。

 凄いことを知ってしまった。


 モンスターがどうやって生み出されているのか?


 その答えが目の前にある巨大な炉だった!


「モンスターは、魂なき疑似生物です。エキドナ炉は有機物の生成はできますがさすがに魂までは創造できません」


 ナカさん言う。


「ゆえにエキドナ炉から生まれ出でたものは、何であっても究極的に生物ではないのです。そこをどうか誤解なきよう」

「う、うん……!?」


 妙に念押しされたのが迫力あって頷いた。


「で、でも凄いなエキドナ炉! これがあれば何でも生み出せるってことじゃない!?」

「はい、モンスターだけでなく宝箱に入れる宝物、トラップの素材などもここから生成できます。ただし無制限というわけにはいきません」


 やっぱり?

 そうそう美味い話ばかりじゃないよね?


「まずエキドナ炉を動かすためには心象エネルギーが必要となります」

「さっき言ってた?」

「そうです。心象エネルギーはダンジョンを運営するあらゆる場面で必要となりますのでお覚悟を」


 はい。


「そしてエキドナ炉を動かすにはまだ必要なものがあります。生成データです。これなくしてはエキドナ炉も何も生み出すことはできません」


 もうチョイ詳しく説明を聞くと、炉から何か欲しいものを生み出したかったらそのための設計図が必要になるらしい。


 それが生成データ。


 モンスターならモンスターの生成データ。

 アイテムならアイテムの生成データ。


 といった風に。


「データはエキドナ炉に覚え込ませれば自然と蓄積していきます。一度入力されたデータは失われることなく何度でも生成可能です」

「なるほど、今スライムを生成できたってことは、スライムの生成データが炉に記録されてるってことだな!?」

「左様です。というか、それだけです」


 ん?


「現在この炉に記録されている生成データはスライムと……あとゴブリンの二つ程度ですね。他はありません」

「めっちゃ少ない」


 っていうかスライムとゴブリンって、『枯れ果てた洞窟』に出てくるたった二種類のモンスターじゃないか?

 それでアイツらしか出てこないのか?


「このエキドナ炉は、主不在となった時に初期化されておりますから中にほとんどデータが入っていません。スライムとゴブリンはデフォルトデータと言ったところですね」

「マジか……!?」


 じゃあ他のモンスターを生成したい時はどうするの?

 もっと強いモンスターいるよね?


「もちろん他のモンスターを生成する方法はあります。生成データを買うのです」

「買う!?」

「モニタをご覧ください」


 ナカさんが手を振ると、その動きを追うように透明な膜のようなものが現れる。

 それは広く大きく、俺たちの面前で四角く広がった。


「空中展開モニタです。これよりイドショップに接続します」


 空中に浮かんだ四角い透明に、なんか文字が浮かび出した!?

 それもたくさん!?


 いや、この文字……、単語は……!?


「デスコーピオン? ブラッシュバイパー? オーガ、スケルトン、スプライト……!?」


 皆モンスターの名前じゃないか!?


『枯れ果てた洞窟』にはスライムとゴブリンしかいないが、他の世界各地にあるダンジョンには、それこそ数十数百種類というモンスターがひしめき、冒険者を脅かしている。


 それらのモンスターの名が列挙されて……。

 それぞれの名前の横についている数字は何?


「イドショップでは、エキドナ炉に対応した生成データを買うことができます」

「買う? お金で?」

「いいえ、イドショップで使用される通貨は心象エネルギーです」


 ここでも心象エネルギーか!?


「イドショップでは、心象エネルギーが貨幣化され取引できます。単位はイドです」

「すると、このモンスター名の隣にある数字は……!?」

「各モンスターの値段ですね。より正確に言うとモンスターの生成データの値段です」


 ここまでのナカさんの説明から推察するに……。


 こっちのデスコーピオンは三〇,〇〇〇イド。

 あっちのオーガは四五,〇〇〇イド。

 スケルトンは六,〇〇〇イドで買えるってわけか。


 モンスターそのものじゃなく生成データを。


「一度データを手に入れてしまえば、あとはエキドナ炉でいくらでも生み出せるってのがいいな。追加費用がない」

「炉を動かすにも心象エネルギーがいりますけどね」


 ううう……!

 何をするにも心象エネルギー。お金が心象エネルギーに変わったようなもんじゃないか!


 冒険者時代も、消耗アイテムや食料の補充はサポート職のすることだった。

 限られたクエスト報酬でやりくりし、何とか余裕を持たせて貯蓄に回そうとしたら『新しい剣が欲しい!』『新しい鎧が欲しい!』と言ってくる前衛職!


「……剣なら昨日買ったばっかりじゃないですか!?」


 いかん、トラウマが甦ってきた?


「まあ、ダンジョンマスターになってもやること同じと思えば少しは安心できるかな?」


 慣れないことするよりもね。

 要するに……


「ダンジョン内にたくさんの冒険者を呼び込み、心象エネルギーを搾り取って、ある程度貯まったらそれで生成データを買い、より強いモンスターを作り出す。そんな感じか?」

「そんな感じです」


 頑張れば頑張るほどエネルギーが貯まって強いモンスターを使えるようになり、ダンジョンが強化されていく。

 楽しそう。


「ちなみに心象エネルギーってどの程度のペースで貯まるもんなの?」

「そうですね、一概には言えませんが一人の冒険者がダンジョンに入り、出ていくまでに放出する心象エネルギーが……」

「うん?」

「一イドです」


 少なッ!?


『枯れ果てた洞窟』って取り立てていいところもない初心者用洞窟だから、一日に入る冒険者なんて精々二十人ってとこだぞ!?


 一日に入る心象エネルギーが二〇イドとして、スケルトンの生成データ六,〇〇〇イド稼ぐのに三百日……!

 ううむ……!?


「エキドナ炉を動かすのにも心象エネルギーは使いますから、その辺も勘案を。侵入者によってモンスターを倒されたら、補充するのにも心象エネルギーを使いますし……」

「ままならんな!」


 全然貯まる気がしない!


 今の『枯れ果てた洞窟』は所詮『枯れ果てた洞窟』。それを改造し、色んなモンスターを取り揃えて、世界各地の他ダンジョンに並び立つまでに一体どれだけかかるんだ!?


「ぐおおおおお……!? 悩ましい……!?」

「早速ダンジョンマスターの務めに情熱を燃やしてくださっているようで、嬉しいです」


 自分でもビックリするほど前向きな自分がいる。


 とにかく正攻法でコツコツやるようじゃダメだな。

 何かガツンと大儲けできる奇策を考えるためにも、ナカさんからもっと詳しい説明を聞こう。


「ナカさんナカさん。冒険者からもっと盛大に心象エネルギー搾り取れる方法……」

「あら?」


 俺が質問しようとしたタイミングでナカさん、何かに気づいたような声を出す。


「……あッ、申し訳ありません。エキドナ炉に変わった機能が現れているので……」

「変わった機能?」


 ナカさんはアドミン(管理者)としてダンジョンのことなら何でも知りぬいているはずだろ?

 そのナカさんが知らないことって?


「今モニタに出します……」


 目の前の透明膜が一瞬消え去り、すぐ新たに新しい画面が浮かぶ。


「エキドナ炉のコンソール画面です。マスターにもわかりやすいよう可視化しました。それでこちらなんですが……」


 ナカさんのほっそりした指が示す先には、たしかにこう書いてあった。


【合成】。


 と。

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