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59 超絶バトルなので

 俺の目の前で戦いが繰り広げられている。

 とんでもない規模の戦いが。


『ヘイヘイヘ~イ。どうしたのかかってこないの~?』

『くッ、私の炎が……!?』


 激突する人外。

 炎をまとう人面獣と、水晶巨人。


 この二者のぶつかり合いは、人間である俺の想像を超えた激烈さだった。

 もはや戦いという次元を超えた災害というべきほどの。


『どったのクヴァンちゃ~ん? 二百年前より力上がってるんでしょ~? それでこの程度~?』

『どういうこと!? そもそも私の「火」属性はヤツの「金」属性に対して有利なはず! マスターが数百年かけてダンジョンを大きくしてくださった! お陰で私も強くなった! なのに……!?』


 人面獣が、背に負う翼を羽ばたかせると、熱風と共に炎が津波のように押し寄せる。

 水晶巨人はまともに浴びるのだが、何事もなかったかのように傷一つなく浮かび上がる。


「普通、あれで灰も残らず焼き尽くされそうなんだがなあ……!?」

「それはそうでしょう。ガーディアンであるクヴァンが操る炎は数十万度。人の扱う炎の限度を超えています。アレを食らって生きていられる生物どころか、形を保てる物質もないでしょうね」


 それをウチのタフーは食らって耐えておりますが。


 無論タフーもガーディアン。同格同類なら防ぎきれるという理屈もあるかもしれないが、実際目の当たりにすると我が目すら疑いたくなってしまう。

 そんなレベルがあることを知った。


「本当なら耐えられなかったでしょうね。ダンジョンの成長と共にパワーアップしているクヴァンなら、今のタフーより遥か上。クリスタルボディの強固さよりも、彼女の操る火炎の高熱が勝るはずです。圧倒的に」


 圧倒的にですか……!?

 しかし、タフーは現実的に耐えきれている。


 その秘密は……!


『にゃーっはっはっは! 凄いぞ! 凄いぞマスターが作ってくれた新ボディ! これさえあれば太陽に突っ込むとしても怖くねえーーッ!!』


 そう、戦闘形態に変わっている今のタフーは、俺が手掛けた特別製のボディに憑依中なのだ。


 かつて、オリジナルの水晶ボディを【合成】処置し、鋼と混ぜ合わせて『スチール・ザストゥン・ザッパー』を制作したことがあったが……。

 今回それをさらに進めてみた。

 鋼よりなお強力な鉱物と【合成】して作り上げた新なる水晶巨人。


 それが今タフーが憑依して戦っている……。


「『オリハルコン・ザストゥン・ザッパー』だッ!!」

「なんですって!?」


 俺の宣言に反応するルーデナさん。


「どういうこと? さっきからおかしいと思ったら、やっぱり何かしていたのね!? でなきゃこんな貧弱ダンジョンのガーディアンに、私のクヴァンが押されるわけがないわ!!」

「答える義理はありませんなあ」


 まさに戦いの最中だしね。


 しかし、所属するダンジョンがガーディアンをバックアップする以上、マスターが何らかのテクニカルなアプローチでガーディアンを助けたとしてもズルにはならないはずだ。


『決闘』はガーディアン同士の力比べではなく、ダンジョンの総力を挙げた戦争だと解釈すれば。

 できることをすべてやりきらないことの方が悪だ。


「というわけでやっちゃいなさいタフー」

『アイアイ、マスター!!』


 タフーは自慢のクリスタルブレードを振り回し敵へと迫る。

 炎翼の人面獣は慌てて回避するが、かわし切れずに片翼が斬り落とされた。


『こおおッ!? 我が超高熱の翼に触れて、溶けるどころか焼け焦げもしないなんて!?』

『これもマスターが強化してくれたお陰さー!』


 今回タフーのクリスタルボディに【合成】させたのは……。


 究極金属オリハルコン!


 伝説の中に名前のみ登場し、最硬、不滅、魔を祓う聖なる力まで秘めているという金属。

 しかし、その存在は昔話に語り継がれるのみで実物を目にしたことは誰もない。


 架空のものと思われていた金属だ。


 でもあった。

 イドショップの景品リストの中にあった。


 今まで貯めていた心象エネルギーがスッカラカンになるほど高額だったが思い切ってポチって見た。


「その甲斐はあったぜ!」


 オリハルコンと【合成】された水晶巨人は、前バージョンだった鋼晶巨人から飛躍的にパワーアップ!

 もはや別次元の強さを呈している!


 見た目も、元々透明であった水晶がオリハルコンとの【合成】で益々透明に輝き、銀色に光る霞のような神秘的な色彩を放っていた。


 プリズムに分かたれようと純白を放つ、純粋なる輝白……とでも言おうか。


「前の鋼晶巨人バージョンでは、クヴァン相手はいささか不安がありましたからねえ」

「鋼鉄、溶けるからね」


 冒険者相手には圧倒的だった鋼晶巨人だが、さすがに同格のガーディアン相手には圧されてしまうだろう。

 そう思って、より強力な金属を【合成】し直した次第だ。


 やるからには徹底的にと奮発したのが当たったな。

 圧倒的ではないか!!


『くううッ!? こうなれば仕方ありません! 我が最強奥義で……!!』


 追いつめられたと判断したのだろう、人面獣のクヴァンさん起死回生の奥の手に出る。


『燃え尽きろッ!! 「メギドアーク」ッッ!!』


 口から放射される白銀の炎。

 いや、それはもう炎とは呼べないまばゆさで直線を描いて飛び、水晶巨人に命中する。

 瞬後、凄まじい爆発が起こった。


「あれはガーディアン、クヴァンの最終殲滅プロセス。所属するダンジョンのパワーを借り受け最大限の熱量を放射する究極熱攻撃です」

「ぎゃああああああッ!? あれやると保有イドの半分が吹っ飛ぶのにいいいいッ!?」


 一番悲鳴を上げているのは主であるルーデルさんだった。


「で、でもだからこそタフーだって一溜まりもないでしょう!? 通常空間で放てば地上が消し飛びかねない一撃よ! これは勝ったわ!!」


 俺たちにも影響あって当然というほどの凄まじい熱量だったが、ナカさんがバリアみたいなものを張ってくれて無事。


 やがて大爆発はやみ、揺れる蜃気楼から浮かび上がるのは……。


 完全無傷の『オリハルコン・ザストゥン・ザッパー』だった。


「んはああああああッッ!?」


 体表が放つ、神聖さすら帯びた輝きは熱攻撃で少しも曇った様子はない。


 その威容にルーデナさんが唾を飛ばして驚愕する。


「まったく効いてないいいいいいッ!? なんでえええええッ!? あの『メギドアーク』には、私のダンジョンで数十年かけて貯めた心象エネルギーが注ぎ込まれていたはずなのにいいいい」

『いやー、無傷でいることにアタシが一番ビックリですわ』


 水晶巨人形態のタフーが言う。


『元々アタシのボディは強力な退魔力を帯びていたけれど。オリハルコンと【合成】したことでさらに魔を退けられるようになったみたいねー。まさかガーディアンの事象変遷すら無効化してしまうとは……!?』

「オリハルコン!? 合成!? どういうこと!?」


 ルーデナさんの疑問を解消してさしあげる前に、一区切りつけてしまおう。

 相手のターンは充分だ。反撃したまえタフー。


『じゃあ、一気に勝たせてもらうよクヴァン! 今回の改造は、オリハルコンと【合成】しただけじゃないのだ!!』


 ジャキンと音を立てて、オリハルコン水晶巨人がかざす八刃。

 元は四本腕で、そのすべてにブレードのついた水晶巨人だったが、今はその倍腕がある。


『なッ!? それはッ!?』

『マスターは【合成】の時、この「ザストゥン・ザッパー」の生成コードにさらにもう一回「ザストゥン・ザッパー」を掛け合わせたんだよねッ! お陰で腕の数も二倍だーッ!!』


 八本の腕がそれぞれ高速で振り回されることで、より密で高速な斬殺空間が展開される。


『ぬあーっはははははは! 基礎力で圧倒的に勝っているのに蹂躙される気分はどう!? 勝てると思った? 今日こそは勝てると思った? 残念! アタシは常にアンタの上にいるんだよねッ!』

『おのれタフー! タフうううううううううッッ!?』


 クヴァンさんは、破れかぶれの炎熱攻撃を礫のごとく放つが、すべて弾かれてしまう。


 意も介さず接近してくるオリハルコン水晶巨人に、ついには逃げきれなくなり、その斬殺空間に飲み込まれるのだった。


 人面獣の戦闘形態が、あっという間に細切れになる。


「勝った!!」


 しかし俺は、その瞬間釈然としないものを感じた。自陣営の勝利なのに。


 多分それはウチのガーディアンの性格によるものだろう。

 怠け者のタフーよりも……。

 真面目で礼儀正しいクヴァンさんに勝ってほしかったなあ……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 秘密をポンポン相手に言ってるのが凄い気になるな
[気になる点] タフーちゃん、何か努力したっけ?(苦笑) [一言] クヴァンさん、貴女は何も悪くない…どちらかと言うと、アナタの応援をしたい気持ちです… …あのロリババアギルマスでなければ(微笑)
[一言] こ れ は ひ ど い (笑)
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