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58 デュエルので

「やはりこういうことになってしまいましたか……」


 ナカさんが呆れたような口調で言う。

 今は彼女と二人きりだ。


「申し訳ありませんマスター。このような仕儀となってしまい、もっと隙なくルーデナ様を抑え込むべきでした」

「仕方ないよ。向こうはアレが主目的だったみたいだし……」


 どうやってもかわし切れるものではなかったろう。


 ナカさんに責任は何もない。


 そもそも俺の前にもダンジョンマスターがいただろうという当然の推測をせず、日々ダンジョン作りに没頭していた俺にも非はあるのだ。

 そのニバルさん? とやらの話はいずれ聞くことになるだろうけれど今は置いておこう。

 目の前に問題が迫っておるので……。


「その決闘というのは、受けなきゃいけないの?」

「はい、ダンジョンマスター同士で取り決められた正当なものです。拒否すればこちらの不戦敗となります」


 逃げられないってことか。


「とはいえ、相手が要求しているのはありもしない先代マスターの遺産。負けたところでこちらには何の実害もありません。不戦敗でもまったくかまいませんが……」

「そのことだけど……」


 本当にないの?

 遺産?


 先代マスターについて俺はまったく知らない。

 しかしルーデナさんがあれだけの執着を見せるに、きっと凄い人だったのだろう。


 その人が何故いなくなったのか?

 ダンジョンマスターは不老不死だと聞いたばかりなのに、いなくなる?


 その話はいずれじっくり聞かせてもらうとして……。


「いや、戦おう」


 俺は決めた。


「どうせ何を言っても信じてもらえそうにないから、力づくでねじ伏せるのもありさ」


 相手は、先代の方にばかり目を向いて当代の俺をまったく眼中に入れてなかった。

 今のこのダンジョンの主は俺だと、改めて念押したくなったところだ。


「さすがマスター! 頼もしいですわ!」


 ナカさんも興奮げに言った。


「では肝心の『決闘』だけど、互いのガーディアン同士を戦わせるんだよね?」

「仰る通りですわ。ダンジョン最下層で、マスターへと続く領域を守るのが務めのガーディアンですが、その他のもう一つの役目がこれなのです……!」


 ダンジョンマスター同士のイザコザを解消するため、他のガーディアンと『決闘』する。

 ダンジョンの最高戦力に相応しい役割と言えるか。


「なのでこちらからは……!」


 ナカさんが手をパンパン叩くと、空間が歪み、開いた時空穴からだらしない体型の女性がペッと吐き出された。


「んぎゃッ!?」


 地面にぶつかり叫びをあげる。

 彼女こそ我がダンジョンの誇るガーディアン、タフー(人間形態)だった。


「こんなのを誇らねばならないなんて……!」


 今日クヴァンさんと対面し、余所様のガーディアンを知ることでやっと確信できた。

 いや、目をそらして事実に向かい合わざるを得なくなったというか……。


「コイツだけ残念なガーディアンだ!!」


 クヴァンさんと取り換えてほしい。

 彼女、別に仕事なくたってキリッとしてマスターに付き従って……。

 この自堕落と全然違うじゃないかッ!


「タフー仕事ですよ。『南海』ヴィルダガのガーディアン、クヴァンと『決闘』することになりました。必ずや勝ってマスターの名声を高めなさい」

「えー! やーだー! クヴァンが相手なんて絶対負けるに決まってるじゃん!! やだやだやだ! 戦いたくないー!!」


 ジタバタ暴れるタフー。

 なんでこんなのがウチのガーディアンなの? という残念感をずっと誤魔化してきたのにクヴァンさんと出会ったせいで誤魔化せなくなった!


「タフーは、クヴァンさんに勝てないの? ガーディアンによって実力差があるってこと?」

「基本的にガーディアンに優劣はありません。ただガーディアンは、所属するダンジョンのランクや規模が強さにも影響しますんで……!」


 クヴァンの所属するダンジョン……人間名で『フィリア海底洞窟』と呼ばれるそこは最低でも全四十階層。規模も内容も超一級だ。


「ダンジョンの凄さが強さとなって……、クヴァンさんに上乗せされている?」

「それに比べてこっちは全九階層のしょっぼいダンジョン。これで勝てるわけないよー! アタシのこと苛めないでー!!」


 ダンジョンの強さがガーディアンの強さ。

 ある程度成長している俺のダンジョンでも、既に大成の域にあるルーデルさんのダンジョンには及ばないと……!?


「何、大丈夫さ」

「え?」


 正攻法で勝てないなら、裏技を使って勝てばいい。

 幸い俺には打ってつけの手段がある。


『決闘』開始までまだまだ時間があるようなので、一つ色々試してみるか!



 こうして行われることになった『決闘』。


 我がダンジョンの『聖域』に、時空を歪めて構成した闘場エリアがあって、そこで行うことになった。


「逃げずにやってきた勇気だけは褒めてあげるわ!」


 ルーデナさんは既に勝ち誇った様子。

 先輩ダンジョンマスターである彼女は、ガーディアンの強さの法則もしっかり頭に入っているのだろう。


 巨大ダンジョンの自分が、小物ダンジョンの俺に敗けるわけがないと思っている。


「それでは改めて紹介するわ、私のガーディアン、クヴァンをね」


 進み出る執事服の淑女。


「『決闘』を申し付かったからには、このクヴァン、全力でマスターの期待に応えねばなりません。アナタ方の誇りを叩き潰すことになろうとも」


 突如、クヴァンの体が炎に包まれた。


 しかしそれは、彼女自身が発生させた炎らしい。

 彼女の執事姿はすぐさま炎中に消えていき、代わりに炎の奥底から浮かび上がってきたのは……。


「炎の……獣……!?」


 四本足の猛獣に見えるが、しかし背部には翼を持ち、頭部は人間のようであった。

 そして翼や四肢の先、各部に点々と炎が宿っている。


 炎翼を背負った人面獣……!?


「あれがガーディアン、クヴァンの戦闘モード『ゲヘナ・ケルビム』です。身体にまとった灼熱の炎は岩石をも即座に融解させる、超高熱の魔獣です」


 やはりガーディアンというのは、誰も彼もバケモノ揃いなんだな。


 俺が冒険者だった時代にこんなのに遭遇したら、その瞬間死を覚悟する。


『こちらの準備は整いました。さあ、タフーを呼んでください。彼女がここに来なければ「決闘」は始められません』

「そうよ! アナタのガーディアンは何故姿を現さないのよ!? まさか怖気づいて逃げたとか!?」


 マスターであるルーデナさんまで一緒になって野次る。


「いやいやまさか、いくらタフーがナマケモノでも『決闘』をすっぽかしたりはしませんって!」

「あの子……相変わらずそういう性格なのね」


 長生きのルーデナさんたちにはタフーの性格が知れ渡っているようだった。


「実は彼女の調整が思ったより手間取りましてね。エキドナ炉から直接運び込まなきゃならなくなったんですよ」

「調整……!?」

「最初から立たせるよりこっちの方が決まると思ってね。いでよ! タフー!」


 俺の呼びかけに応じてナカさんが次元穴を開ける。


 それを通って出てくる水晶巨人。


 もはやお馴染みタフーの戦闘形態『ザストゥン・ザッパー』。

 全身を特別な水晶で構成された巨体は、触れるものを片っ端から斬り裂く最強最悪の斬刃魔神だ。


『やっと出てきましたかタフー』


 敵の姿を確認し、強者の高揚を実感するクヴァンさん。

 しかし……。


『アナタと交戦するのも二百年ぶりのこと。あの当時は一度もアナタに勝てませんでしたが、マスターが替わり、今や優勢はこちらにあります。敗北しても恨み言はなし……、あれ?』


 そこで気づく。

 久方ぶりに見るタフーの変わりように。


『あの……タフー? アナタ「ザストゥン・ザッパー」の様相が変わっていませんか? 二百年前より……?』

『ふっふっふ、さすが我が宿敵の一人クヴァン、こんなにすぐ気づいちゃったかー?』


 そう、ついさっきまで俺はさらなるタフー改造計画に情熱を燃やしていた!


 その結果完成を見たタフー戦闘形態の新バージョン。


『オリハルコン・ザストゥン・ザッパー』だ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ウ~ン、やはり決闘は一方的な申し込みでも成立するのか…制度としてはやや欠陥かな(苦笑) オリハルコン…どのオリハルコンだろう?光で目眩まし?熱でマントを焼き溶かす?(※偏見)
[気になる点] 優秀なサポート職ならリスクは避けそうなものですが、相手の戦力が以前と同じかも分からないのに「力でねじ伏せる」とか強気だなと思いました。 仮に遺産があっても自分が受け継いでないなら差し出…
[一言] あ、オリハルコンと合成しちゃったんですねぇ
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