54 案内を求められたので
「呆れた、本当に何も知らないのね」
「はい、何も知らないようです」
自分の無知を恥じつつ余所のダンジョンマスター、ルーデナさんの歓迎を続ける。
「それであの……、そろそろ本題の方に行こうかと思うんですが」
「本題?」
「今日はどのような目的のご訪問なんでしょう?」
この段階にきてこのような質問をするのが面映ゆくもあるが、知らないなら聞いてみるしかない。
用があるから来たのだろう。これまで接してきた態度からしても単純に遊びに来ただけとも考えられない。
ダンジョンマスターが、余所のダンジョンマスターに会う。
その行動が意味するところは?
「当然、アナタの品定めに来たのよ」
「品定め?」
「前のマスターが入滅してから、二百年ぶりに生まれた『西淵』のマスターだもの。私たちだってそれなりに気にしているのよ。変なのが出てきたら迷惑になるし」
そう言ってルーデナさん、まさしく品定めするような視線を遠慮なく投げかける。
「まあ、就任直後のゴタゴタで潰れることもなく安定もできたようだから? そろそろ先輩の目でもって審査してやろうという段階ってわけよ。それで私が代表してきてやったというわけ」
「俺やルーデナさんの他にもまだまだダンジョンマスターがいるってことですか?」
「そりゃそうよ。この世界にはたくさんのダンジョンがあるってこと、アナタも知ってるでしょう?」
そのダンジョン一つ一つにダンジョンマスターが?
いや、そこは深く突っ込むところじゃないか。
今は目の前にいるルーデナさんの対応に集中しよう。
「わかりました。そう言うことならウチのダンジョンをご案内しましょう。好きなだけ見ていってください」
「あら、素直なのね? 従順なのか、考えなしなのか……? まあこちらとしては手間がかからないだけ助かるけれど」
俺がゴネるのではないかとルーデナさんは考えたようだ。
たしかに、自分のダンジョンを見せるということは手の内を晒すのも同様。
ダンジョンマスターなりたてのド新人な俺でもそれくらいはわかる。
この件はあらかじめナカさんからも忠告を受けていたが、既に話はまとまっている。
どうせ今この時も発展途上のダンジョンだ。
明日にも改造を加えて形が激変してく内装を見せたところで実害はないと考えた。
「では、全部見ていただくのも時間がかかるので主だったところをかいつまんで見ていきましょう」
「あらいいのよ? どうせ出来たてで大して広くもないダンジョンなんでしょう? 一層ずつ見ていったところで日が暮れるまでに終わるんじゃないの?」
挑発的なルーデナさんの口調。
「本当ですか? じゃあ地下一階から順番に見ていきましょう! いやあ、まだまだ素人工作でお見せするのが恥ずかしいんですが……!」
「その割には嬉しそうですねマスター?」
うん。
一応俺が丹誠込めて整えてきたダンジョンだからな。
誰かに見せびらかして自慢したいという気持ちがあったようだ。
「あ、そうだ一応言っとくけど……」
ルーデルさん、パチンと指を鳴らす。
するとそれに呼応するように虚空から何かが現れた。
それは一人の女性だった。
長身で、スラッとしたプロポーション。
着ている服は執事の衣装で、女の色気を残しながらキリッと凛々しい男装の麗人だった。
「どちらさま?」
「アナタたちのテリトリーで私に何かしようと思っても無駄だからね? 私にはこのクヴァンがいるのだから」
ルーデナさんが鼻息荒く執事服の女性を指し示す。
「新たなる『西淵』のマスター。お初にお目にかかります。私はクヴァン。我がマスターの守護を担うため『南海』ヴィルダガより同行してきました」
「お久しぶりですねクヴァン」
「ナカ、アナタとも再びまみえることができて重畳です」
ウチの中さんとも親しげに言葉を交わす。
まあルーデナさん偉そうだし、訪問するにしてもお付きの人ぐらいいて当然か。
「私のクヴァンは最強なのよ! アナタのダンジョンを見物する時もこの子が常に傍にいるんだから。痛い目に遭いたくなかったら変な気を起こさないことね」
一応余所んちに入るんだから、万が一の警戒をしているわけか。
けっして間違った判断ではあるまい。
「わかりました。クヴァンさんも一緒に見学していってください」
「ご理解に感謝いたします」
深々とお辞儀する淑女執事。
主とは対照的に腰の低い人だった。
では、早速初めてみましょう、我がダンジョン見学ツアー。
◆
俺たちは地下一階から順番に見ていくことにした。
モニタ越しの観察ではなく、直に各階へ足を踏み入れて。その方が臨場感があっていいかなと思って。
ただ、最初の危惧通り地下一階二階は特に何もない。
侵入者たちに自由探索を楽しんでもらう用のフリーエリアだからな。
その辺に宝箱をちりばめてあるが、他は特に何の変哲もない構造のダンジョンだ。
「なーにー、これ? 退屈~」
だから言ったでしょう。
特に何もないって。
「まあ、ダンジョンマスターになって一年にも満たない九割素人の作品だからそこまで期待してなかったんだけど、想像以上のお粗末ぶりね?」
嘲るようなルーデナさんの表情。
その中にどこか安心したような気配があるのは気のせいか。
「こんな無味乾燥なエリア、私のダンジョンには一フロアだってないわ? 本当にド素人ね。よければ私がダンジョンの作り方を一から指南してあげましょうか?」
「言わせておけばなんです?」
ああ、ナカさんが。
挑発的な口調で見事に乗せられてしまっている。
「アナタはついさっきのやりとりすらまともに覚えていないのですか? 我がマスターが主だったところを掻い摘んでと気を回してあげたのに、一から見たいと言い出したのはアナタではないですか」
「だから何だというの?」
「自分から面白くないところを見ると言い出しておきながら、実際見て面白くないと文句を垂れるな、ということです」
「だってー、ここまで面白くないとは思ってなかったんだもん! 私のダンジョンなら、どんなに手を抜いた遊びフロアでももう少し飾り付けているわ! 私が支配するダンジョンに相応しい美しさでね!」
「ぐぬぬぬぬ……!?」
ただ、これはルーデナさんの言う通りだろう。
正直、俺は自分のダンジョンが現段階で完成に達しているなど露も思っていない。
むしろこれから始まったばかりだ。
スペースももっと増やしたいし、各部のディティールにも拘りたい。
そういう意味では、ダンジョンマスターの先輩であるルーデナさんから貴重なご意見を窺えたと思う。
「ありがとうございます。これからのダンジョンづくりの参考にします」
「あら、うふふ、思ったより素直ないい子じゃない。気に入ったわ。もしアナタが望むならアナタを私の弟子にしてあげてもよくてよ」
得意絶頂になるルーデナさん。
俺も先達からの助言を色々取り入れたいからな。
「ではバンバン見ていってもらいましょう。地下二階までは特に代わり映えもないんですが。地下三階から力を入れていましてね。そこをどうか見ていってくれませんか?」
「いいわよいいわよ! 身の程を知る新人には、ジャンジャン施しを与えてあげましょう。惜しまずにね!」
そんなわけで地下一階と大して変わらない地下二階はすっ飛ばして、やってきました地下三階。
「しかし、『西淵』のダンジョンマスターのにはどんなヤツが新任したかと不安だったけど、その必要もなかったわねー! 従順で、身の程を弁えていて! アナタとならいい御近所付き合いができそうね!」
「恐縮です」
こっちが下手に出ているせいか、さっきからルーデナさんは随分と上機嫌だった。
その分ナカさんはイライラしている。
「それで? ここからがアナタの自慢の階?」
「そうです、不慣れながら創意工夫を込めて一生懸命設えました」
「ま、素人の域を出ないアナタじゃそこまで大したものは作れないだろうけれど、玄人の意見を聞かせてあげるわよ。安心なさい? アナタのモチベーションが枯れないようにできるだけ優しい言葉を選んでボロクソに酷評してあげる」
そうしてルーデナさんが目の当たりにする地下三階の目玉施設。
レオスダイトさんの地下修練場。
今日も再生英雄レオスダイトさんによって複数の新人冒険者たちが鍛え上げられています。
「何これえええええええええッ!?」
そしてそれを見た瞬間、ルーデナさんは心底からのものと思える驚きの絶叫を上げた。




