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53 自己紹介されたので

「ストップ! ストップストップ! ストッパー!!」


 慌てて間に割って入る俺。

 おかげさまでヒートアップしかけた二人を治めることができた。


「ま、マスター……!?」

「今日は我々がホストだぞナカさん! お客さんが最大限満足してくれるように振舞わなきゃだろうが!!」


 売り言葉買い言葉で相手を怒らせるなどもっての外!


「た、たしかに仰る通りです。マスターの顔に泥を塗るところでした……!」


 素直に謝ってくれるナカさん。

 このモジモジ具合が愛らしい。


「ふんッ、使い魔のしつけが行き届いているようね……!」


 そう言ってふんぞり返るのは、問題の訪問者。


 小柄な少女の……名前はルーデナちゃんだったかな?


「ごめんねー、嫌な思いをさせて。ナカさんも悪気があったわけじゃないんで許してあげてねー?」

「ん?」

「あ、そうだ飴を上げよう! これで機嫌直してねー? もっと欲しかったらジュースでもケーキでも用意させるからねー?」

「無礼!」


 あれ?

 なんか彼女をますます怒らせてしまった?


 おかしいな、子どもなんておかし上げたらたちまち上機嫌になるもんだが。


「この私を! ダンジョンマスターたるルーデナを子ども扱いなんてどういう神経してんの!」

「そう言われても、ルーデナ様の外見は間違いなく子どもですが?」


 ナカさんの冷静かつ的確なツッコミ。


「ナカ! アナタこのド新人に何も説明していないの!? ダンジョンマスターが何者かってことを!?」

「それよりもまずダンジョンの運営に通暁していただこうと思いまして……」

「仕方ないわね! だったらこの私から説明してやるわ! このド新人!」


 はい。

 なんだろう、この少女に頭ごなしにされる斬新な感覚。


「この私は、こう見えてちゃんとした大人なのよ!」

「はっはっは、子どもは皆そう言うものさ」


 背伸びしたい年頃だもんなー、と言って頭を撫でる。


「そうじゃねー! 実際私はアンタなんかよりずっと年上なの! 頭撫でるな!」


 自分の頭に置かれた手を、思い切り叩き落とす少女。

 痛い。


「詳細には存じませんがルーデナ様は少なくとも四百歳にはおなりのはずです」

「えッ!?」


 ナカさんの進言に耳を疑った。


「四百歳!? この小さな女の子が!? 四百歳!?」

「ふふーん、そうよ? 私から見ればアンタこそ赤ん坊にしか見えないんだから!」

「四百歳って!? 百、二百、三百の四百歳!? 四十の十倍で四百歳!? いち、に、さん、四百歳!?」

「何回も言うな! レディに向かって!?」


 だって俄かに信じがたいから。

 見た目が子どもなのもさることながら、四百年なんてどう考えても人が生き続けられる年数ではないんだが!?


「……アンタ、本当にナカから何も聞いていないのね? ダンジョンマスターという存在そのものについて……」

「はあ……?」

「だったら教えてあげるわ。ダンジョンマスターはそもそも人間などとはまったく違う存在。ダンジョンマスターになった時点で人間を遥かに超越するのよ!」


 なんだか誇らしげに言う。


「寿命だってそう。私たちはダンジョンマスターになった時点で老いとか死とか、そういうもの一切から解放されたの! 特別な存在なのよ!」

「そういうわけでルーデナ様も、ダンジョンマスターになってより老いることなく、数百年存在し続けているのです」


 ナカさんが補足。


 老いないし、死なない。

 ダンジョンマスターはそういう存在だと!?


「ちょっと待って? ……てことは俺も?」


 俺もまたダンジョンマスターになったからには、彼女と同じ特性を持っている?


「そりゃそーよ、自覚なかったの?」

「我がマスターはまだダンジョンの主となられてから日が浅いので……。不老など自然と自覚するには十年はかかることでしょう」

「別に不老以外にもダンジョンマスターになった特典なんて色々あるじゃない。食べなくても眠らなくても全然平気だし」


 えッ!?

 そうなのッ!?


「今日までフツーに食べたり寝たりしてきたんですが!?」

「別に食べたきゃ食べてもいいし、寝たけりゃ寝てもいいのよ。それらを娯楽として楽しんでいるダンジョンマスターもいるしね。ただそれらがなくても全然大丈夫ってことよ」


 そういや、ダンジョンマスターになりたてで『聖域』の生活環境も整っていなかった頃……。

 ダンジョン運営の基礎に没頭しながらほとんど眠らず、食事も一日一食(地上から持ち込んだ保存食)だけで何日も過ごしたことがあった。


 あれは元冒険者としての生存能力とか、そういうものだと思っていたけど。単純に食べなくて眠らなくてもよかった体になっていたとか!?


「……ホントーに何も知らないのねえ。それでちゃんとやっていけてるの?」

「その分ダンジョン運営のイロハについては完璧に習熟されているお方です。ルーデナ様も、それを認めたからご訪問なされたのでは?」

「煩いわよ!」


 女の子、感情をあらわにして指摘をはねのける。

 痛いところを突かれた?


「とにかくそう言うことなら、この私がダンジョンマスターの何たるかをしっかりと教えてあげるわ! 先輩としてね!」

「先輩風を吹かせつつ恩を売ろうとしてますね」


 ナカさんの指摘が逐一クリティカル。


「まあ、先輩なのはたしかなんだろうが……」

「そうよ、アナタなんてド新人なんだから年齢だって見た目通りなんでしょう!? つまりアンタは私から見たらまさしく子ども! 私の十分の一も生きてない! 最大限の敬意を払うのねって誰がオバサンよ!?」


 俺は何も言ってないです。

 長生を誇るのか、年増を恥ずかしがるのか、どっちかに決めてください。


「あの、その点で一つ伺いたいんですが……?」

「なによ?」

「俺まだ、アナタから正式な自己紹介受けてないんですけども?」


 俺と同じダンジョンマスターだってことはあらかじめ聞いてるんだが。

 ここに至るまで正式な挨拶もなく、売り言葉買い言葉の応酬で場が突き進んでしまっている。


 ここらでキッチリ場を整えませんか?


「そ、そう言えばそうね……! 私としたことが礼儀を弁えていなかったわ」

「新しくダンジョンマスターになったアクモと言います」

「勝手に進めるなあッ!?」


 小柄な少女、一旦咳払いしてから。


「……初めましてねド新人、私の名はルーデナ。この世界の秘密を知る選ばれし四人の一人。四大究極ダンジョンの一つ『南海』ヴィルダガを支配するダンジョンマスターのルーデナよ」

「よろしくお願いしますー」


 と言って右手を差し出す俺。

 握手を求めたのだが無視された。


「長いこと空席だった西のダンジョンマスターが埋まり、ひとまず安心できたわ。それでも既に完成されたダンジョンマスターである私たちの品位を落とさぬよう精励することね」

「うーん?」


 とりあえず色々不明なフレーズが出てきて理解に苦しむ俺。


「あのー、一つ質問いいですか?」

「何よ?」

「ルーデナさんもダンジョンマスターであるからにはどこかのダンジョンを支配しているんでしょね?」

「当たり前でしょう? そんなのいちいち確認しないでよッ!」

「そのダンジョンが……なんかい? ってところだと?」

「そうよ、『南海』ヴィルダガは世界で一番強固で美しいダンジョンだと自負しているわ!」


 しかし俺、そんな名前のダンジョンにまったく聞き覚えがないんだが。


 俺も一応元冒険者として多くのダンジョンの情報を蓄えているつもり、大きくていいアイテムが出る優良ダンジョンはそれだけ有名になるし、俺の耳に届いていてもおかしくないと思うんだが……。


「もしかして、ルーデナさんのダンジョンって、そんなに優良じゃな……?」

「なんですってー!?」


 最後まで言わせることなくルーデナさん憤慨。


「そんなことあるわけないでしょ! 私のダンジョンは世界でもっとも有名なダンジョンの一つよ!」

「でも、『南海』ヴぃる……、なんとかって聞いたことも……!?」


 戸惑う俺に、ナカさんが後ろから耳打ちする。


「マスター、『南海』ヴィルダガは、人間たちには違う呼び名で呼ばれています」

「え?」

「たしか『フィリア海底洞窟』と」


 それなら知っている。

 たしかに世界トップスリーに入ると言われている超優良なダンジョンの一つじゃないか。


 海岸沿いにあって、ダンジョン内の半分近くが海水に浸食されている。

 ただそれだけに内部の風景は幻想的で、ただ歩いているだけでも見惚れてしまう美しいダンジョンだった。


「『フィリア海底洞窟』が『南海』ヴィルダガってこと?」

「ダンジョン自身の名と、人間たちが勝手に呼ぶようになった名前は違います。マスターが支配される『西淵』ヴィルハクシャもそうでしょう?」

「その名前……?」


 何度か見た覚えがあるような。

 そうだ、ダンジョンパラメータを開いた時一番上に出てくる。


「それがダンジョンの正式名?」

「まあ正式と呼んでよいかと。このダンジョンは長いこと人間たちから『枯れ果てた洞窟』などと呼ばれてきましたが、正しくは『西淵』、深遠なる西の淵、奈落へと続くヴィルハクシャです」


 そっかー。

 まあ、俺たちダンジョン運営者側と人間社会は断絶しているんだから呼び方が違ってもおかしくないか。


 でも俺は、この洞窟に新たにつけられた『繁栄の洞窟』という名前が一番好きだな。

 これから俺の目指すところがはっきり表された名前でもあるし、これからも俺は、この名前を使っていきたいな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] な、何故だ!?…ロ、ロリババアなのに、語尾が『のじゃ』じゃない!?(※偏見) [一言] 三大ダンジョンって事は、枯れ果てた洞窟はよっぽど長く放置されてきたんですネ(笑) (※おそらく、…
[良い点] 不老不死 ということは見た目子供の年齢でダンジョン踏破したということか? 魔導師か賢者かはたまた聖女か? [気になる点] 人間以外の可能性も バンパイヤかサキュバスか [一言] 西 南 …
[一言] このお嬢ちゃん・・・ こんなナリでも守護者倒してるって事なんですよねぇ 完全に容姿はロ〇ババですけどw
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