51 改築完了したので
こんな感じで、我がダンジョンも着々と発展を遂げている。
どんな感じに成長したかパラメータを見てみよう。
『西淵』ヴィルハクシャ
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【ダンジョンランク】:C
【階層数】:9
【規模】62→187
【建造実績】:40→425
【清潔】:47→35
【設置可能宝箱数】:8→20
【罠数】:0→1
【配置可能モンスター数】:50→75
【総合武力】:70,891
【保有罠】:魅惑のステージ×1
【保有モンスター】:スライム×9 ゴブリン×8 スラブリン×1 剣聖ゴブリン×1 賢者ゴブリン×1 舞姫ゴブリン×1 アトランティックゴブリン×1 名状しがたき獣×24
【保有イド】:1,251,333
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こんなんなりました。
順調に育ってるぞ!
今回けっこう大規模に拡充したからなあ。
一番手を加えたのはやはり番人たちがいるフロアだ。
レオスダイトさんの階が訓練場、フューリームさんの階が研究室としてスペースを拡大した。
心象エネルギーを支払うことでできるダンジョン拡大法の一つとして、一つのフロアを広げることができるらしい。
フロアそのものを増やす方式よりは少ないイドで、ダンジョンを大きくすることができる。
それのおかげでレオスダイトさんのいる地下三階、フューリームさんのいる地下四階、アンドゥナちゃんのいる地下五階は各々元の二~五倍程度の広さになった。
だってそれぐらいスペースないと充分に使命をまっとうできないって言うし……。
しかし完成してからわかった。
まっとうしたいのは使命ではなく彼ら自身の欲求ではないかと。
レオスダイトさんは新人冒険者の指導を進んでやってくれるし。
フューリームさんは依然として魔法の研究を続けている。しかし彼の階まで到達してくる魔法職が奮って助手になりたがるのでなかなか難儀しているようだ。
最初は手伝いが増えるだけ研究が捗ると思っていたようなのだが、実力自体がフューリームさんを補佐するに足りない者も多く……。
「ええい役立たずどもが! このテキストを覚えきるまで私の前に来るでないわ!」
と言って参考書(自作)を配ったりしていた。
順調に深みにはまっているなと思った。
そしてアンドゥナちゃんとこは思惑通りに冒険者たちが殺到。
『グレイテスト・ショーガール』、超一流の歌と踊りのテクニックを持ったアンドゥナちゃんは、死後数十年経った今でも色褪せることなく、見る人の心を奪うのだった。
彼女のステージ見たさに、地下五階まで降りてくる冒険者が想像以上に多くて引いた。
彼女のフロアに設えられたステージは、内装整備の小人に頼んだのだが、いつの間にかトラップ扱いになっていた。
魅惑のステージ×1
と言うのがそうだ。
観客を魅了してその場に釘付けとし、時間と正気を消耗させる系のトラップと言うことか。
冒険者たちは、ステージの上で踊るアンドゥナちゃんに見惚れて、その昂揚で大きな心象エネルギーを放出する。
それがダンジョンにとって大きな利益になるのだ。
アンドゥナちゃん目当てに万難を排しながら地下一~四階までを突破するにも心象エネルギーを放出するので、益々儲けは大きかった。
お陰で改装に多くの心象エネルギーを注ぎ込んだが、収支を計算してみたら大きな黒字になったほどだった。
という感じで地下一~五階は大きく賑わっているが、それより下……地下六階以下は手付かずになっている。
ダンジョン運営における鉄則『最下層にまで辿りつかせてはならない』があるからには、下層は完全に侵入者を排除する作りでなくてはならない。
心象エネルギーを得るための『歓迎モード』の階は地下五階までだ。
と言うことで地下六階以下には本気の侵入者排除の仕掛けを置いておくことにした。
名状しがたい獣。
と言うのがそうだ。
新たに生成したモンスターで、モンスターの名前が『名状しがたい獣』という。
このモンスターは、地下六階より先に進もうとする冒険者を本気で阻むためのもので、強さはもちろんのこと見た目的のもおどろおどろしい最恐のモンスターに仕立てた。
【合成】を使って。
素材としたモンスターは……
サソリ型モンスター、オリオピオン。
蜘蛛型モンスター、ダイダランチュラ。
そして単眼モンスター、ビットアイ。
三体の生成コードを混ぜ合わせた。
これは以前はできなかったはずのことで、【合成】できるのは二つの生成コードまでが限界だったはず。
それなのに今回三体いっぺんの【合成】が可能になったのは、これもダンジョンランクが上がったからだろう。
……ってナカさんが言ってた
ダンジョンランクはダンジョンだけでなく、ダンジョンマスターにも力を与える。
サソリ、蜘蛛、目玉だけのモンスター。
それを【合成】して出来上がったのは、それこそ何なのかわからない名状しがたい生き物だった。
サソリのハサミと尻尾、蜘蛛の八本の節足、そしてギラギラと光るたった一つの目が一個体の中に混ざり合っている。
パっと見だけでも相当怖いし気持ち悪い。
冒険者生活を長くやってきた俺でも、こんなのとダンジョンの奥底で遭遇したら恐ろしさのあまり漏らす自信がある。
そんな怖いヤツだから侵入者排除にも大いに効果的だろうと思い、二十体ほど量産して地下六階~八階の間に放っておいた。
フロアを増やしたから、今最下層は地下九階だ。
見た目の威嚇効果も期待大だが、実力も頼りになる。
元になったモンスターが全部、一万イド以上の値段が付いた上級モンスターだからな。
それを三体も【合成】させた以上、それ相応の強さになってもいるし、それに加えて最強の助っ人も準備させてある。
「ボクはトムッキー」
そう少年トムッキーくんだ。
彼の回復能力の恐ろしさは既に実証済み。
致命傷からでもすぐさま全快させてしまうんだから、それはもう殺害不可能と言うことと同義だ。
地下六階に誰かが侵入したら、すぐさまトムッキーくんは出動して回復フィールドを発生させ、名状しがたい獣たちを不死身にすることができる。
これで最下層までの守りは万全のはずだ。
もちろんガーディアンであるタフーがいる限り安泰なんだけども、そのタフーは……。
◆
「まだ寝ておる……!?」
人間形態のタフーは、ちょっと腰周りの肉付きがだらしないお姉さん。
そんな自堕落お姉さんが、今日も『聖域』で自堕落に過ごしていた。
「にゃむにゃむ~」
地上からベッドを持ち込んだのもいけなかった。
床より遥かにフカフカで寝心地がいいから、その上から動こうとしない……!
「侵入者が最下層まで辿りつけない防衛機構を完成してしまったら、ガーディアンはもうあとはひたすら暇ですからね」
最下層まで辿りついた侵入者を排除するという仕事がなくなるんだからな。
「彼女がダンジョン防衛最後の切り札と言うのはわかるんだが……! ずっとこんな風にゴロゴロさせておくのは……!!」
『働かざる者食うべからず』という俺の倫理と食い違うというか……。
「ねえナカさん、コイツをダンジョン防衛以外で働かせることってできないの?」
「ないことはないですが……」
そこまで言いかけてナカさんが言葉を途切れさせた。
「?」
ん?
どうした?
ナカさんの意識が一瞬どこかへ飛んだような?
しかしすぐさま元に戻り……。
「失礼いたしましたマスター、急に通信が入りまして……」
「通信?」
「もしかしたらほどなく、タフーの働く機会が巡ってくるかもしれません」
マジで?
あの怠け者を働かせる機会なら何でもどんとこいだけど、一体何が始まるんですか?
「余所のダンジョンより、ダンジョンマスターが参ります」
「え?」
「今来たのは、そのためのアポイントです。もうすぐこちらへ到着するから出迎えよと」




