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49 指導したかったので

 過程に解決しなければいけない問題はいくつかあるが……。

 アンドゥナちゃんが番人をする地下五階にステージを建設する案は本決まりにして目標の一つに設定。


 だってたんまり儲かりそうなんだもん。


 それから今度はレオスダイトさんが口を挟んできた。わりと大声で。


「オレにも名案があります!」

「そうですか」


『名案』とか『いい考え』とか言われて身構えてしまうのは、よくあることだと思う。


「マスターには、是非ともオレの策も認可いただきますよう。さすればダンジョンは益々賑わうに相違ありません!!」


 面倒くさいので即刻許可した。



 それから一ヶ月ほど経って……。


「やっぱりダンジョンには便利な機能がついてたな……!?」


 小人さんが働いてくれた。

 イドショップには『ダンジョン内装整え』というサービスがあり、支払った心象エネルギーに応じてダンジョンを模様替えしてくれる機能があった。


 それでアンドゥナちゃんの希望通りに地下五階にステージを設置できたし、レオスダイトさんの希望通りに地下三階の作り替えもできた。

 いずれもそれぞれ担当の番人階だからね。


「しっかしイドかかったなあ……!?」


 リノベーションに五万イドほどかかった。


 支払えばどこからともなく小人さんが出てきて、木づちをトンカン言わせて施行してくれる方式だったんだが、全作業が終わると一礼して去っていく小人たちは礼儀正しかった。


『ピピピピピピピピピッ!』

「スラブリン、小人さんたちを飲み込もうとしない。……え? 別れのハグ?」


 ならいいか。

 小人さんたちまた用事があったらよろしくね。


 ということで我がダンジョンがどんな風になったかを実際チェックしてみよう。


「モニタで視認すればよろしいでしょうに、わざわざ足をお運びになるなど……?」

「こういうのは直に確認した方がいいんだよ」


 ダンジョンマスターたる俺は、時空を飛び越えてダンジョン内のいかなる場所にも瞬時に移動できる。

 その能力を利用して、ますは地下三階へと来てみた。


 正式にレオスダイトさんが番人へと就任したフロアだ。


「これはマスター! ようこそお越しくださいました!」


 当の本人が諸手を挙げて歓迎してくれた。


「マスターの御厚意によって、我が番人階もこうして完成を見ました。これよりなお一層マスターのお役に立ちたいと存じます」

「期待させていただきます」


 で。

 レオスダイトさんが発案したものの具体的な仕上がりを見たいのですが……。


「こちらでございます!」


 レオスダイトさんの案内された場所へと行くと……。


 そこは開けた広場になっていた。

 ダンジョン内部なのにめっちゃ広い。


 そこはもはやダンジョンというより闘技場と言ったような佇まいだった。


 そしてその開けたスペース内で……!


「いっち、に! いっち、に!」

「「「「「いっち、に! いっち、に! いっち、に……!」」」」」


 一人ならず多くの人々が剣を振っている。

 動きを揃えて一心不乱に。


『なんだあれは?』と事前の説明を受けていなければ戸惑っていたことだろう。


「精が出てるな、新人冒険者たち……!?」


 そう、彼らは本来このダンジョンを探索するはずの冒険者たち。

 しかも経験浅い新人ばかりだ。


 元々『枯れ果てた洞窟』……いや、今は『繁栄の洞窟』だが、以前そう呼ばれたここは初心者の練習用ダンジョンという意味合いが定着し、今なお出入りする者のほとんどは今年なったばかりの駆け出し冒険者ばかり。


 新たにダンジョンマスターとなり、自分のダンジョンを旺盛に作り変えたいと思っている俺だが、元からあった『初心者に経験をつけさせる』という役割だけは元のまま残したいと考えている俺だった。


 だって必要でしょう。

 冒険者の生還率を上げるためにも、安全に経験をつけることができる場所は、どこかにいる。


 その思いをもっとも汲み取ってくれたのがレオスダイトさんだった。


 だから彼はこうして自分の番人階に設置してくださったのだ。

 初心者用の練習スペースを。


「冒険者って案外、基本的な訓練なんて何もせずにダンジョン入ったりしますからねー」


 ギルドの養成場で適性を見られることもあるが、精々剣士に適性があったら木剣を持たされダンジョンに放り込まれ……。

 そうでなければサポート職としてギルドの雑用を手伝わされる(無償で)という感じだった。


 それに比べれば、ここでのレオスダイトさんの指導は滅茶苦茶丁寧。

 みずから手取り足取りしてくれる。


「よし、素振りが終わったら次は手合わせだ。オレにかかってくるがいい!」


 伝説の剣士として後世に名を遺すレオスダイトさんがだぞ。


「一人ずつでなくてもいいぞ! ダンジョンでのモンスターの戦いにルールはない! 仲間と連携し、モンスターを各個撃破していく動きを体に覚え込ませよ!」

「はい教官!」

「無論、たった一人ではぐれてモンスターに取り囲まれるという状況も想定される! そういう対処を学ぶためにスラブリン隊長にも来ていただいている! 分裂した隊長との模擬戦で、袋叩きにされた時の対処を研究するのだ!」

『ピピピピピピッ!』


 スラブリンまで……!?


 そして冒険者たちは案外にも、この訓練を素直に受けて、むしろ懸命に取り組んでいた。

 それもまた謎だった。


「冒険者なら、こんなもの無視して奥に進んだ方がいいのでは……!?」


『むしろそっちの方が真面目な冒険者なのでは?』と思っちゃう。


「何を言うアクモ! このような素晴らしい機会を、冒険者なら見逃せるかッ!?」

「うわッ、ケルディオ!?」


 お前も来ていたのか!?

 と言うか『哭鉄兵団』に帰らなくていいのお前!?


「新人冒険者の基礎訓練不足は、長年の問題になっていた。訓練らしい訓練と言ったら、それこそ『枯れ果てた洞窟』に放り込んで『勝手に経験を積め』だったからな」

「はああ……!?」

「それが、この『繁栄の洞窟』では、かのレオスダイト様から直に訓練をつけてもらえるのだ! 冒険者はいかに振舞うべきか、生き残るためにどんな心得が必要なのかを直に教えてもらえる。こんなに素晴らしいことがあるか!?」


「な、ないかな……!?」

「新人冒険者たちもこの貴重さに気づいて、こぞって教えを乞いに来ている。講義を完了した者には鉄晶剣も与えられるしな」

「それだよ! 大盛況の理由それだよ!」


 思いっきり景品で釣ってるじゃねーか!


「そんなことはない。私もギルドに掛け合って、新人冒険者は必ずここでの講義を受けておくようにと達しを出してもらった。剣士に限らずどんな冒険者もここでの経験は役に立つ」


 そんなケルディオの主張を証明するかのように、向こうから力ない鳴き声が。


「すみません……私、魔導士で直接戦闘はしないんですけど……、魔法の指導はしてくれないんですか?」

「ダンジョンを甘く見るな! 敵の不得手につけ込むのは当然の戦略! 魔導士でも最低限の身のこなしは身につけるべきだ!!」


 と言うレオスダイトさんのハッスルぶりを見て俺が思うのは……。

『あの人がただ単に教えたがりの人なだけなんでは!?』ということ。


「素晴らしい……! あの『ライオンスピリット』、英雄譚の中だけの人物であったはずのレオスダイト様から直接の教えを受けられるとは……!」


 ケルディオが子どものように浮かれていた。


 そりゃコイツも大クラン『哭鉄兵団』の幹部クラスなんだし、自分のクランの伝説的人物とお目通りしたら興奮もするか。


「いや待って? ケルディオはあのレオスダイトさんが、マジもんのレオスダイトさんだって信じてる?」

「それはそうだろう?」


 あっさり認めてきた。


「私はお前が背後にいると知ってるからな。お前が関わっているならどんなことでも実現しそうだ」

「何なのその信頼感?」


 ケルディオは俺のことどう思っているの?


「ともかく、このダンジョンでレオスダイト様が訓練をつけてくれるお陰で、以降の冒険者の質はどんどん上がっていくことだろう。よいことだ。『哭鉄兵団』でもこれぐらい密な訓練をしたいのだが、忙しくてどうしても実戦形式になってしまう……」


 だからその忙しい『哭鉄兵団』の幹部の人が、ここで油売っててよいのですか?


「ケルディオ! 来るがいい!」


 そして当たり前のように後輩のことを呼ぶレオスダイトさん。


「新人たちにまず見本を示した方がよさそうだ! 我が必殺『全方位同時斬り』の受け方を披露してもらいたい!」

「よろこんで!」


 もう完全にレオスダイトさんの指導助手となり下がってるではないかケルディオくん?


 ……かねてから初心者向けダンジョンとして定着していた『枯れ果てた洞窟』が、『繁栄の洞窟』に新生することによって……。


 別の意味で強力な初心者向けダンジョンとなっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他のダンジョンのダンジョンマスターからしたら最悪なダンジョンだよな。 めちゃくちゃ高いコストを払って宝箱に入れた魔剣よりも強い剣をホイホイ渡して更に冒険者どもに稽古をつけて強くする。 そして…
2022/01/19 00:31 退会済み
管理
[一言] 『○○教室』とか『○○道場』とか『○○ヘルス』とかがテナントで入った雑居ビルだったか…
[一言] そのうちギルド長辺りが菓子折り持ってやって来そう(苦笑)
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