48 皆で話し合ったので
そのうち皆が戻ってきて、土下座してきた。
「「「申し訳ありませんでした」」」
「なんで?」
なんで謝られたのかわからない。
キミらはしっかりとダンジョンを防衛し、使命を果たしたではないかね?
「ボクはトムッキー」
「いえ、マスターにお伺いを立てず下界に宣言をし、あまつさえこのダンジョンの改名を勝手に……。お叱りを受けるに値する独断専行です」
それならもう済んだことだしいいけど……。
「まあおかげでがっぽがっぽと心象エネルギーが入ってきたことだし、その使い道を考えてみようよ」
俺たちのダンジョン改造計画はまだ始まったばかりだ。
階層を一個増やしはしたが、そんなの序の口に過ぎない。
より強固で攻略しがいのあるダンジョンを構築するためにも、実際防衛の仕事をする彼らから直接意見を吸い上げたい。
「なんかないかね?」
「そうですな……、では僭越ながら私から……」
とフューリームさん。
さすが大賢者だけあって考えが早い。
「効率的な防衛のためには、やはり我々四人の効率的な運用を意識すべきでしょう。ダンジョン内にしっかりと担当エリアを区分けし、重ならないようにすることが肝要かと」
「おお……!?」
なんかそれっぽいこと言っている!?
「具体的には、各階層に我々を一人ずつ配置し、番人とするのがよろしいかと」
「それ採用。皆何階を守りたい?」
早速希望を聞いてみる。
「ではマスター、オレに一番手をお任せいただきますよう!」
レオスダイトさんが勇ましく言う。
「このレオスダイト、マスターをお守りする剣にして盾。その証明のためにも侵入者を真っ先に屠りたく存じます。是非このオレを地下一階の番人に!」
「地下一階かあ……」
俺は思った。
あんまり最初から飛ばしすぎるのもどうか? と。
俺たちはあくまで侵入してきた冒険者たちから心象エネルギーを収集するのが目的なんだから、完全にシャットアウトしてしまうのも困る。
レオスダイトさんという最強の壁を手前に置きすぎるのも考え物ではないか?
「もう少し余裕をもって、地下三階辺りに陣取ってみてはどうかな? 地下一~二階までは自由探索エリアにして、地下三階からが番人エリアだ?」
いい感じに難易度を上げられていると思う。
「では二番手は私がつきましょうぞ」
「その次が私~」
という感じで地下四階がフューリームさん担当、地下五階がアンドゥナちゃん担当になった。
「ボクはトムッキー」
「そうだな……、彼は、自由に動いてもらうとして……!?」
一定ヶ所に固定しておくことがトムッキーくんの適切な運用とも思えない。
「ではマスター、わたくしからも提案していいでしょうか?」
「ナカさん?」
はい、なんでしょう?
「そろそろダンジョン内にトラップを設置してはいかがでしょう?」
「トラップかー」
トラップはつきものだよねダンジョンには。
落とし穴、滑る床、飛び出す剣山、吊り天井、転がってくる大岩、毒霧、触手、三角木馬。
俺も現役冒険者時代、様々なトラップに悩まされ、妨げられてきたものだ。
「そんな俺がトラップを仕掛ける側になるなんて……!」
人生何が起こるかわからんものだな。
「したらばマスター! 私にいい案がありますわ!!」
と言って元気に手を上げるのがアンドゥナちゃん。
かの大クラン『シルク・ド・ルージュ』の創始者と聞いたばかりで、怖くて震えるんですが?
「な、なんでしょう?」
「だからトラップのアイデアです! 誰もが百パーセント引っかかり、そして二度と抜け出せなく最強トラップに心当たりがあります!!」
「あんまり強すぎるのも考え物なんだけど……?」
何度も言っているように、あまり難易度を最強にしすぎると冒険者側が諦めてしまってダンジョン廃れてしまうからね?
それじゃ心象エネルギーも獲れない。
「ご安心ください! 私の用意するトラップは、心象エネルギーだってがっぽり搾り取れる最強のものです!」
一体何なんだよ?
「それは……ステージです!!」
「ステージ?」
ステージってあの……酒場とかにあって床より一、二段高くなってて、そこの踊り子とかが上がってショーを見せるための?
それがどういう罠になるんだ!?
「そこで私みずからがショーを披露します! 歌ったり踊ったりします!」
「だからなんで!?」
「すると冒険者たちは立ち止まって私に見入り、冒険も忘れて時間を無駄にします! おひねりを催促すれば彼らの懐を消耗させることも可!」
「それただキミが歌ったり踊ったりしたいだけでは!?」
さすが歴史に名を刻むほどの踊り子! 隙あらば踊ろうとする!?
「しかしマスター、その策は有効かもしれません」
「ナカさんまでそんなッ!?」
「まあ、お聞きください」
大丈夫だよね?
ナカさんまでご乱心召されたわけじゃないよね?
信じていいんだよね!?
「思い返してみてください。心象エネルギーはダンジョンに侵入した生命……、とりわけ人間の心の揺さぶりから生まれるエネルギーです」
「そうだね……!?」
驚いたり動揺したり、ダンジョン内で冒険者たちが何か大きな感情の変化があるとそれだけ多くの心象エネルギーを獲得できた気がする。
以前、マスター不在だったこのダンジョンでチョロチョロっとしか儲からなかったのは『枯れ果てた洞窟』などと呼ばれて刺激がまったくなかったのも要因なのかもしれぬと思った。
「しかしアンドゥナさんの踊りは、見る者の心を揺さぶり、感動させる力を持っています。さすればきっと潤沢な心象エネルギーが発生することでしょう」
「おお!?」
「そしてそれが評判となれば、アンドゥナさんの踊りを見ることを目的にダンジョンへ入る者が増えてくること思います! 人が増えるほど獲得する心象エネルギーの絶対量も増えますので、いいことずくめです」
「おおおッ!?」
って本当かよ!?
マジでそんなトントン拍子になってくの!?
でもダンジョンにステージ?
ダンジョンでダンスショー?
ってまだ全然しっくりこないんだけどさ!?
「むう、まさか……!?」
「どうしましたフューリームさん!?」
唐突に何か重要なことに気づいたぞって顔されて。
「アンドゥナ殿、まさか貴殿が最後手についたのは……!?」
「ふふふ、さすが大賢者もう気づいたわね?」
なんですか?
そんな思わせぶりなやりとりしないでください。
「先ほどの担当地区決めで、レオスダイト殿が最先手となる地下三階の番人。次の地下四階は私。そしてアンドゥナ殿が地下五階の番人と決まりました。番人付きの階としては彼女が一番奥となることに……!」
「た、たしかに……!?」
「さすれば、これから彼女のステージが評判を呼び、それを目当てに訪れる冒険者が出だしたら、レオスダイト殿と私を突破しなければお目当てにたどり着けぬということに!?」
「な、なんだってー!」
たしかにそうだよ!?
アンドゥナちゃん、それを最初から狙っていたというのか!?
「人間、困難があるほどに燃え上がるものですわ。そして困難を乗り越え獲得したものにほど感動を覚える。そして燃え上がり感動したなら余計に心象エネルギーをお漏らししてくれる。……いい順序だと思いません?」
「小悪魔!?」
そこまで計算していたなんて『グレイテスト・ショーガール』の異名は伊達じゃないってことか!?
「採用ですね」
「ナカさん!?」
ダンジョンマスターである俺の判断を待たず!?
率先して動いてくれるのはいいが、独自判断が過ぎやしませんかねこの部下ども!?
「アンドゥナさんの仕掛けは完璧ですマスター。彼女の歌と踊りは充分に客を呼べます。そして客が心象エネルギーを垂れ流しにしていけば、それが丸ごとマスターの利益に!」
「うん!?」
「わたくしもこのダンジョンのアドミンとして、効率的に心象エネルギーを獲得できる手段は率先して施行していきたいと考えています。どうか許可を」
……俺もいい考えだと思うんだがさ。
一つ確認していいだろうか。
「ダンジョンにステージってどう作ればいいの?」
「…………」
ナカさん、空中にモニタを展開。
イドショップを閲覧しているようだ。
「……イドショップで『ステージ』は売っていないようですね」
「そらそうよ」
ダンジョンにステージを置くという発想自体が無茶だからな。
ない以上は自作するしかないんだろうか?




