36 英雄が甦ったので
言われた通り、白骨をオアンネス槽に放り込む。
既存物の生成コードを読み取るだけだ。
「こんなことして何になるというのです? こんなものの生成コードをとってエキドナ炉で実体化しても、益体ない白骨がもう一揃え出来上がるだけではないですか?」
「まあまあ……」
よし、生成コードとれた。
エキドナ炉にも記憶されたぞ。
「生成コードは、想像するよりずっと多くの情報を埋伏してるんだよ。この白骨だってただの物質じゃなく、元生命として刻まれた様々なものが忘れ去られず残っていて、オアンネス槽はそういうのもキッチリ読み取るんだよー」
どうしたタフー?
いつになく賢い感じしてるぞ?
「もちろん生命を失った白骨をそのまま再形成してもただの物体として実体化するんだけどもさ。そこでマスターの【合成】が火を噴くぜってわけよ!」
「わけわかりませんが……」
とにかく騙されたと思ってタフーから指示された通りに【合成】のコマンドを進めていく。
【合成】素材にするのは読み取ったばかりの白骨と……。
もう一方の素材はゴブリン。
モンスターと骨を併せてどうなるんだ? という疑問を抱えながらも操作を続けていく。
そしてエキドナ炉を稼働させ……。
「できたー。……た?」
結果出現したのは……。
英雄だった。
いや知らんけど。英雄としか呼びようがない覇気と英気をまとった美青年だったのだから。
体格はガッシリとしていながら、ムキムキという印象もなく均整の取れたボディ。
容貌も凛々しく、明らかにハンサムの部類に入る。
場合によれば社交界を掌握する貴公子となるところだが、一つだけ残念な点は全身の肌の色が妙だと言ったところか。
濁った沼のような色だ。
『ピピピピピピ!』
スラブリンが、まさに自分と同じ色の相手に興奮して飛び跳ねた。
「一体あれは……!?」
「合成素材からゴブリンと推測されますが。あの肌の色も間違いなくゴブリンですし」
「それ以外が何もかもゴブリンじゃないよ!?」
長身! 筋骨隆々! そしてイケメン!
それらすべてがゴブリンの特徴からかけ離れている!
どういうことなの!?
「……オレは……?」
そして喋った!?
ゴブリンを素体としているはずだから言葉を交わすことなんてできないはずなのに。
「オレは一体どうしたのだ? 『枯れ果てた洞窟』の最下層まで降りて……、そこまでは覚えている。それから一番奥のところで……、そう、透明に輝く巨人が現れて……!? ……うぐぅ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
美青年ゴブリン(?)が頭を抱えてうずくまったので慌てて駆け寄る俺。
まだ何が起きているか、よく把握できていないが。
「気をしっかり持って! そうだ水飲みます!? ナカさん! ナカさんコップ一杯のお水を!」
「すまない……! ここは、ダンジョンの中か? オレは『枯れ果てた洞窟』にいて……! ここはまだ『枯れ果てた洞窟』なのか?」
はい。
そうですが。
でもこのゴブリン、触れ合うほどに言葉もしっかりしていて受け答えの感じもいいし、好青年。
「……お、オレはレオスダイトという……、冒険者だ。なあ、この辺でオレの仲間を見なかっただろうか? 皆黒い鎧をまとっているから特徴的だと思うんだが……?」
「ん!?」
今なんと?
「あの……、すみませんアナタ、名前がおありなんですか?」
「ん? それはそうだろう人として生まれたからには」
人として?
けっこう当たり前なフレーズだが、今だけは違和感バリバリ。
もう一度確認してみよう。
このいい感じ爽やか美青年は……誰とも知らない白骨と、ゴブリンの生成コードを【合成】させて生み出された。
そしてその白骨は元々、『枯れ果てた洞窟』の最下層まで至り、ガーディアンとしてのタフーに挑んだ誰かの。
「そしてレオスダイトという名前……、もしやアナタは……!?」
「うむ?」
『哭鉄兵団』にたしか、そんな名前の冒険者が所属していたはず。
しかも今でなく、数十年も昔。
もはや伝説に語られるまでとなった最強冒険者……!
それが『ライオンスピリット』の称号を持つ歴代最強の剛剣士。
名はレオスダイト……!
◆
しかしレオスダイトは、今から五十年以上前の人物だったはずだ。
その当時から大クランとしてブイブイ言わせていた『哭鉄兵団』の中で最強と恐れられた剣士の一人。
彼が剣を振るえば数十というモンスターが一瞬にして吹き飛び、ダンジョン探索の工程が四日縮まったという。
『哭鉄兵団』がメイン攻略対象にしているダンジョン『死の山』の攻略階数が、レオスダイト存命の時代八十一階を達成し、今なおそれが最高記録として破られていない。
彼が生きていた頃、彼が先頭に立って進めば必ずや『死の山』頭頂まで行き着けると皆が信じ、一丸となって攻略に当たっていたという。
しかし英雄レオスダイトはある時忽然と姿を消し、そのまま帰ってくることがなかったとか。
先導者を失った『哭鉄兵団』はそれからしばらく混迷の時代を迎え、到達階数も随分後退したのだとか。
レオスダイトが何故姿を消し、そしてどこに行ったのか?
それは冒険者たちの興味を集める大きな謎の一つ。
酒場で大盛り上がりする鉄板ネタの一つとして数え上げられるほどだが……。
◆
「……そのレオスダイトが、目の前に……!」
俺とて裏方とはいえ『哭鉄兵団』の一人だった。
自分の所属するクランの伝説的先人のことぐらい知識はある。
……まさか直に対面することになるなんて思いもよらなかったけれど。
「……じゃあ、やっぱりあの白骨は……!?」
生前『哭鉄兵団』の最強剣士レオスダイトで間違いない!?
オアンネス槽によって読み取られた情報の中に彼の記憶や性格までもがあって、【合成】によりゴブリンの生命力と結合して甦ったと!?
「そうか……、オレは……!?」
時間と共に落ち着きを取り戻し、レオスダイトさんも状況を把握してきたようだ。
「オレはたしかにあの水晶巨人との戦いに敗れ、死んだ。『死の山』最終エリアを本格攻略する前に、予行練習として簡単なダンジョンを完全攻略しようとした。それが間違いだったな」
当時のことを思い出してレオスダイトさん語る。
「ダンジョンは、どこであろうと最後まで行き着いてはいけなかったのだ。どんなに小さな簡単ダンジョンであろうとも。その最奥にガーディアンが待っているからには……!」
この人は、ガーディアンに敗北することでその冒険者人生に幕を閉じたのだ。
「その冒険者としての鉄則を守れなかったから、オレは死んだ。……しかし、こんな形で今さらこの世に舞い戻ってくるとは」
「なんかすみません!!」
この俺なんです!
アナタを冥府の眠りから呼び覚ましたのは!
「なんか安らかに眠っているところすみません!!」
「いや、いいのだ……。アナタこそ、このダンジョンの支配者……ダンジョンマスターなのだろう? オレの中のどこかしらの部分が言っている。アナタを守護し、アナタの命に従って戦えと」
それは……?
この人に【合成】させて復活の依り代とした、ゴブリンの部分が?
モンスターとして、ダンジョンマスターに従うように霊魂を設計されている。
「元より、この世に呼び戻してくれたのはオレにとって喜ばしいことだ。オレはもっと戦いたい。前の人生が終わった時、オレは冒険者としても一人の剣士としても道半ばだった。今、二度目の人生を与えてもらい、今度こそ己が道を踏破するチャンスだ」
ゴブリンとして生まれ変わった英雄。
いや、ゴブリンと【合成】されて復活した英雄?
俺の前に跪き、忠誠の誓いを述べる。
「この剛剣士レオスダイト。今この時よりこの刃はアナタの処刑執行刃として、アナタの命に従い戦うことを誓いましょう。偉大なるダンジョンマスターに栄光あれ!」
こうして俺は、過去の伝説に記された英雄を手駒にすることが叶った。
これ……。
最初からこうなることがわかっていたのかタフー!?
侮れないな彼女!?
連載開始から一ヶ月が経ちましたので、そろそろ隔日更新に切り替えたいと思います。
次の更新は6/18にしたいと思いますのでご了承ください。
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