35 タフーをねぎらうので
まずは貯まってきた心象エネルギーでできるところを強化してみた。
『西淵』ヴィルハクシャ
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【ダンジョンランク】:E
【階層数】:8
【規模】52→54
【建造実績】:0→10
【清潔】:87→66
【設置可能宝箱数】:4→8
【罠数】:0
【配置可能モンスター数】:34→50
【総合武力】:179→187
【保有罠】:なし
【保有モンスター】:スライム×14 ゴブリン×13 スラブリン×1
【保有イド】:14,372
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こんな感じ。
一度に配置できるモンスター数を上げてみたんだが、これ実際に配置するモンスターを増やさないと意味ないよな。
さらにモンスターを生成するにしても今の時点じゃスライムかゴブリンしか作れないし。【合成】で出来るのはスラブリンのみ。
しかし新たに配置するモンスターはせっかくならもっと強力なのを作りたい。
またケルディオみたいな侵入者が来ても、タフーの手前で帰ってもらえるような。
「何かいい手はないかな……」
まともに強いモンスターを求めたらイドショップでふんだくられるし。
俺には【合成】という裏技はあるものの、あれも基礎となる生成コードがあってこそ使えるスキルだ。
なんにしても先立つ生成コードが必要……!
「……あ、そうだ」
その前にタフーに一声かけておいた方がいいか。
ちゃんと働いて侵入者を阻んでくれたのに、そのあとバタバタしすぎて放置されていたから。
「ねえねえナカさん、タフーはどうしてる?」
何かあったらまずナカさんに聞く。
「しっかり働いてくれたから誉めてあげたいんだけど?」
「マスターからのお心遣い、大変恐縮です。しかしながらあの子は、そのようなマスターからの気遣いに値しません」
なんで?
いきなり辛辣に来たなナカさん?
「百聞は一見に如かず。まずはご覧を」
そう言って案内された先にタフーがいた。
人間形態の方。
相変わらずだらしない格好のムッチリした体型で、床にゴロゴロしている。
「ふにゃ~ん、ふわわわわわ~」
謎の蕩け声を発しながら。
「先日の活躍ですっかり自信を取り戻し、安心しきっています。自分は敗けることも見限られることもないだろうと……!」
安心しきると自堕落になる性分なのか。
まったく見た目通りだな。
「いい加減にしなさい見苦しい!!」
ついに堪忍の限界に達したナカさんが、自堕落寝転ぶタフーの尻を蹴り上げる。
『ギャンッ!』と叫びはするものの、蹴られた尻を一撫で二撫でしただけですぐまた安らかな眠りにつくタフーだった。
「寝直さないで起きなさい! 今こうしている間も、侵入者が下層まで来ているのかもしれないんですよ! その時マスターの盾となって戦うのはまだアナタしかいないのです!」
「その時になってからアタシを呼べばいいじゃん~。四六時中気を張っていたら持たないよ~」
たしかにそうかもしれない。
だとすればタフーの自堕落さは正しいことなのか?
「にゃはははは、アタシが最強なのは再び証明されたんだから思い切り怠けられるんだー。自堕落こそ最強の特権!」
「そんなわけありますか! ……マスターのダンジョンはまだ始まったばかりで防衛力が不足しているんです。本来最後の砦であるアナタもいつも以上に働いてもらわねばならないかもしれませんですよ!」
「なんと!? ……それはいけない」
タフー、とりあえず上体だけ起こして俺に向き合い……。
「マスター早いとこダンジョン強化してよ! 階層増やして何十階層にもして、途中にたくさんモンスターや罠配置して! そうすれば最下層まで来るヤツはほとんどいなくなってアタシは楽できる!!」
……ここに来たのは彼女をねぎらうためなんだが、その目的も置き去りにされて話が急加速していく。
「……もちろん俺もダンジョン強化には賛成なんだが……、具体的な方法が見つからなくてな……!?」
「じゃあアタシからマスターにいいものあげるよ。これが何かの役に立つんじゃないかな!?」
「なに?」
タフーから、何かダンジョン強化に有用なものを貰えるというのか?
一体何だろう?
と受け取ったのは……!
人間の頭蓋骨だった。
「ずがいこつッ!?」
なんでッ!?
何故ダンジョン強化のお題目でこんな不気味なるものが手渡されたッ!?
「あッ、乱暴に扱わないでー、それアタシの大事なコレクションなんだから!」
「これがッ!?」
何のコレクションなの!?
「これは……あれですか? アナタが認めた強敵の?」
「そうそう、熱い戦いのメモリアルだよ!」
ナカさんが心当たりあるのか説明する。
「タフーはガーディアンです。これまでも最下層へ辿りついてきた者を幾人と迎え撃ってきました」
「マスターが来るまでも幾度となくねー。強い敵もいれば弱い敵もいたよー。中にはホント敵ながらカンドーしちゃうほど強いヤツがいてねー。倒すのも一苦労だったー!!」
当時の興奮を思い出したのか、口調に熱がこもる。
「それでね、あの時の感動を忘れたくないので、気に入った強者の体はこうして保存してあるの。スライムなんかに食べさせたりしないよ!?」
つまりこれは……!?
タフーの強敵コレクション!?
過去何十年……いや何百年かもしれんが……!?
その長い期間、何かの弾みか気まぐれで最下層まで来てしまった冒険者もいたことだろう一人ならず。
何人……何十人いたかわからぬが、しかしその全員に共通するのはタフーの前に敗れて散っていったこと。
その中でも特に目を見張る戦いぶりを見せ、タフーの心に強烈な印象を残した者は、彼女の傍に置かれることを許された。
「死体としてッ!?」
しかも経年が進んですっかり白骨と成り果ててるじゃないか!?
「いやこれは、さすがに死者への尊厳的な何かとして……!?」
「マスター落ち着いてください」
何か一言言おうとしてたところでナカさんに止められる。
「これはタフーなりの強者への敬意なのです。あの子は地上の人間ではないことをご留意ください」
たしかに……!?
外見は女の子であれども、本質的にダンジョンの一部であるガーディアンタフーに、人の価値観を押し付けるのは独善なのか?
しかも彼女は彼女なりに強敵への敬意を払っている。
それがああして遺体を傍に置いていることなのだから、せめてはいけないのだろうか。
「……」
そもそも冒険者自体、一般的な人の倫理観からはかけ離れた職業だ。
死と隣り合わせのダンジョンに潜り、失敗すれば死、成功すれば一生遊んでも尽きないほどの富が手に入ることがある。
そんなハイリスクハイリターンの狭間を行き来していると色々麻痺し、価値観も崩壊してしまう。
ダンジョンの中で客死した冒険者は普通、遺体が地上へ戻ってくることなどなく手厚く葬られることなどまずない。
それに比べれば、ああしてダンジョン最強のガーディアンに愛でられている分幸せなのだろうか……?
「いかん……!? 俺の倫理観も相当おかしくなっている……!?」
俺も冒険者稼業が長かったからな。
完全に倫理崩壊して戻ってこれなくなる前に足を洗えて本当によかった……!
そして新たな職場となったここが、さらに倫理崩壊していたら意味ないんですけど!?
「で、タフー。この遺骨がダンジョン強化に関係あるとはどういうことなのです?」
冷静に尋ねるナカさん。
本当に怖いぐらいに冷静だ。
「この遺骨が強者のものであることはわかりますが、所詮それは生前のもの。骨となっては何の意味もないでしょう?」
「うん、でもマスターにはとっておきの手段があるでしょう?」
「ん?」
ここでまた俺の固有技。
【合成】が当てにされているようだった。




