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31 説得したいので

 こうしてダンジョン最深部……。

 『聖域』と呼ばれる場所へケルディオ、ゼルクジャースさん、テルスを案内する。


 エキドナ炉でモンスターを生成するところを見せると狙い通り大層驚いてくれた。


「あっ、そうだケルディオさっきの戦いで剣折ってたよね? 代わりにこれ使う?」


 そう言って水晶と鋼の剣を【合成】する。

 出来上がったのは鋼晶剣と言ったところかな?


 鉄晶剣よりもランクは上がるが『哭鉄兵団』統率長の武器として相応しかろう。


「……」


 その場でヒュンヒュン試しぶりをしてみるケルディオ。


「軽い……! 前に使っていた剣より断然。それなのに切れ味は数段上がっているとわかる……!」

「え? そんなに!?」


 タフーが生み出す水晶は特別なもので、軽さ鋭利さはこの世のものとは思えない。

 それが鋼鉄と【合成】されて強度をも得る。


「まあ考えてみれば強力か……!」


 向こうではナカさんがイドショップを開いて、ラインナップを見せつけている。


「すげーッ!? 伝説級のアイテムがたくさんッ!!」

「この辺を購入するには最低十万イドは必要ですがね」


 盛り上がっているようだ。


「実際この目で見てよくわかった……! ダンジョンマスターとは何なのか。ダンジョンをその手で管理運営する者がいたとは……!?」


 はい。

 そうです。


「そのマスターにお前がなったというのか……。やっぱりお前は凄いヤツだったんだな……!?」

「いや、そんな……?」


 昔っからケルディオの俺への高評価は何なんだろうな?


 ただ同じ時期に冒険者を目指して同じ養成所で訓練したというだけなのに。

 才能も出世もコイツの方が物凄いはずなんだが?


「ケルディオ……、俺は元々、一生冒険者をやる気はなかったんだよ」


 そもそも俺が冒険者に向いていないのはかなり初期からわかっていたことだ。

 養成所でも散々『才能ないクズ』と言われてきたからな。


 剣も振れないし魔法も使えないからサポート職に就くしかない。そしてサポート職はそれだけで見下される立場だった。

 ケルディオが紹介してくれた『哭鉄兵団』はまだマシだったけど、そこにたどり着くまで転々としていたパーティでは扱い酷かったし。


「だから、とりあえず蓄えができたら冒険者から足を洗って手堅い商売でもしたいと思ってたんだよね……。そのためにも合成師のクラスにも拘ってきたんだし……」


 合成ができるとね。

 アイテム屋やら武器屋を営むのに有利なんだよ。売り物の生産やら調整やら自分の手でできるからね。


「お前が頑なにレンジャーへのクラスチェンジ拒否してたのってそういう理由だったのかよ……!?」

「うわッ、ゼルクジャースさん!?」


 この人は何故か俺を自分の後釜に据えたいらしいから、そういう俺の未来設計を話したことがなかった。

 話したら、この人の重厚すぎる人生経験でもって徹底論破され、『哭鉄兵団』にい続けた方がいいと納得させられてしまうから。


「お、俺は冒険者よりも、一ヶ所にドッと腰を据えてできる商売に就きたかったの! 元々はアイテム屋武器防具屋を想定してたんだけどダンジョンマスターも中々条件に適っている! だからこの職を続けたい!」

「いや、しかしだな……!?」


 案の定、説得のために混ぜっ返そうとしてくるベテランだが。


「アナタの後継者ならもっと適任がいるでしょう。シラストとかピロテニアとか……?」

「シラストは有能だが性根が腐っとるからな。現状ですらクランの物資を横領しているからアイツをトップに据えたらやりたい放題し始めるぞ。逆にピロテニアは融通が利かな過ぎて統率長たちと絶対揉める」


 人材に恵まれてないクランだった。


 かといって俺がサポート部門のトップになってそんな連中抑えきれるとも思えないし胃に穴が空くような日々となるのは間違いない。

 それなら、ここでダンジョンマスターを続けていた方が絶対いい!


「ゼルクジャース老、これくらいにしておきましょう」


 そう言ってケルディオが抑えに入る。


「アクモは、自分で自分の進む道を見つけたのです。彼を失うことはたしかに『哭鉄兵団』にとって痛手ですが、それでも彼が決めたことに我々が口出しすることはできない」

「むむぅ……!?」


 そう言われて押し黙ってしまうゼルクジャースさん。

 この人も根は悪い人じゃないから、相手のことも考えずに押し通すこともできないのだろう。


 しかしそれ以上にケルディオの援護が助かる!

 さすが昔馴染み!


「そうだな……たしかにアクモの気弱さで他の連中を率いて行けるかは不安だし……!?」

「今そこ気がついたの!?」


 けっこう致命的なことだと思われますのに!?


「しかし……、けっこう恐ろしい光景だな。何故モンスターが生まれるか、何故ダンジョンに宝箱が配置され続けるか。考えてみればけっこうな謎だろうによ」

「我々冒険者は目の前の功利功名を追いかけるばかりで、自分たちがどんな世界に生きているか、考えが足らなかったようです」

「こうして世界の裏側を一目垣間見れたのも、引退間際のいい花道だったってことかね」


 なんかいい感じに話をまとめつつある。


「わかったアクモ。私たちはお前の無事を確認し、心置きなく帰還することにしよう。元の場所へ戻してもらってもいいかな?」

「それでしたら地上に直接転送することもできますが?」

「えッ? うそッ!?」


 ナカさんが開く地上へのゲートに驚愕する人たち。


 ダンジョンには人一倍詳しいはずの冒険者でも、まだまだ計り知れない非常識がダンジョンにはある。

 それは俺もダンジョンマスターになってから思い知らされることしきりだが。


「しかし、ガーディアンの下まで行って誰も帰ってこなかったってのは、案外こういうタネがあるのかもしれねえなあ」

「というと?」

「無論やられて生還しなかった者もいるんだろうが、こうやって許されて帰ってきた者もいるんじゃないかって話だ。そもそも誰一人帰ってこれなかったらガーディアンの存在もその名も伝わるわけがねえ」

「たしかにそうかもしれませんが、では大っぴらに最下層から帰ってきたという者がいないのは何故なのでしょう? しかもガーディアンの存在がおぼろげながらも伝わっているのに対し、ダンジョンマスターの存在は徹底的に秘されている……!?」


 大クラン幹部である二人も、ガーディアンは知りながらダンジョンマスターはまったく知らなかったわけだしな。

 俺もその謎、興味がある。


「それは……」


 誰も答えるはずのない疑問に答えたのはナカさんだった。


「明確な理由があります。最下層まで達し、ガーディアンに敗北した者を情けで助ける際、誓約を強いるからです。ここで見たことを話してはならないと」

「え?」

「当然アナタたちにも誓っていただきます。ダンジョンのアドミンであるこのわたくしが発する誓約は、破れば即座に死に至る強力な呪いです。誓えぬと言うならば生きてここから帰すことはできません」

「ナカさん、ちょっと……!?」


 なんでそこまで秘密を強いるのかわからなかったが、仮にも二人は俺の旧友で前職場の上司。

 そんな高圧的な要求を是認するわけにもいかずとりなそうとしたが。


「わかった、誓おう」


 あっさり承諾するケルディオ。


「我々がガーディアンに敗北し、アクモの情けによって命を拾ったことは自覚しているつもりだ。助ける側から条件を出されれば、助けられる側としては飲むしかなかろう。ゼルクジャース老もよろしいな?」

「仕方ねえ……!」


 なんか話がまとまってくれた。


「それでは別れだなアクモ。私はこの秘密を胸にこれからもダンジョン探索に励んでいくつもりだ。お互い達者でいよう」

「うん、俺もちょくちょく地上に出てくるから、その時また会おうよ」


 旧友と握手を交わす。


「テルス、行くぞ」


 そして三人目の客人。

 ここまでほとんどしゃべることのなかったテルスへも声がかけられる。


「この不思議な女がワシらを地上まで送ってくれるそうだ。ここはワシらのいちゃいけねえ場所だということはわかる。ワシらと一緒に帰るぞ」

「行かない」

「は?」


 テルスの思っても見ない返答に、皆硬直。

 なんと言いました。


「私は帰らない。私はここにいる。こんな、世界のすべての謎を解き明かせるような場所にたどり着いて、何もせずに去るなんてありえない!!」

「はぁッ!?」

「お願いアクモ、私をここにおいてください! 手伝いでもなんでもするから! 今度は私がサポート役になるから、アナタが私を雇って!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 早く続きが読みたい
[良い点] サクサクストレスなく読めます。 [一言] 魔導師! 居たい じゃなくて 居るってwいちばんに主張するとは! ここから なろうの定番展開になるのかな〜 手伝いだ、サポートだいっても、結局いい…
2020/06/11 21:50 退会済み
管理
[良い点] なんでもするから? その言葉を待っていた! ぬふふふふふふw [気になる点] 横領しているやつにさっさと首&賠償請求すべきだろw [一言] なんとかなったw そして奴隷が一匹w
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