30 修羅場なので
というか戦いに見入ってないで、もっと早くそうすべきだった。
仲間の未来がかかっているんだぞ。
「はいはいストップ! そこまでー!!」
異空間の扉から飛び出てて、最下層に降り立つ俺。
その姿に、そこに集う誰もが驚いた。
「アクモ!?」
「アクモてめえッ!?」
「アクモくんッ!?」
人間であるケルディオ、ゼルクジャースさん、テルスは無論のこと……。
『マスター!? なんでッ!?』
現在、鋼晶巨人と化しているタフーもまた驚きの声を上げた。
『マスター困りますよぅ! アタシはアナタを守ることが使命なんですから、安全な「聖域」に留まってくれないと存分に戦えないじゃないですかぁ!』
「戦わなくていいんだよ!」
これ以上戦ったら、あの三人のうち誰かが死んじゃうことになるだろうが!
もしくは全滅!
そんなトラウマになるようなことは許しません!
「キミも改造後の性能をたしかめられて満足したろう? これで戦闘終了、あとは俺に任せて下がっていてくれ」
『は~い……』
タフーはあんまり納得してなさそうだったが、俺の指示に従って引き下がった。
鋼晶巨人の体ごと異空間に沈み消えていく。
「マスター!」
入れ替わるように出てくるナカさん。
「いけません! 侵入者が目の前にいるというのに玉体をお晒しになるとは! せめてタフーをお傍に控えさせてください! そうでもなければとても……!」
「いいんだナカさん」
彼らは大丈夫だから。
改めて俺は、この最下層まで到達してきた彼らと向き合う。
こんなところまでよく来たものだ。
「アクモ……、アクモなのか……!?」
まず最初に言ったのはケルディオ。
さすが『哭鉄兵団』統率長は精神的な立ち直りも早い。
「やはり生きていた……! そうだ! お前がそう簡単に死ぬわけがない! お前は生きていると信じていた!」
……と言って俺に駆け寄ってくるケルディオ。
何? このままハグろうというの?
と思った瞬間……。
虚空から飛び出してきた銀剣が眼前に振り下ろされ、遮られる。
くすんだ銀色のブレード。
そのお陰でケルディオは止められた。
「こッ、これは……!?」
『マスターに何近づいてんのよアホ』
何もない虚空から出てくる鋼晶巨人。
去ったタフーがまた出てきた。
『やっぱりマスターだけを残して帰れないよー。侵入者目の前だよ?』
「普段はだらけきって使い物になりませんが、よくやりましたタフー。さすがガーディアンと言っていいですね」
ガーディアンによって厳重に守られる俺に、かつてのパーティメンバーたちは茫然としている。
「一体……、どういうことなんだアクモ? 何故そのモンスターがお前を守っているんだ?」
『はあ!? ガーディアンはモンスターじゃねえし!!』
タフー、モンスターと言われてご立腹。
俺も同じようなものだと思っていたが、やっぱり違うのか?
「悪いケルディオ、彼女は俺を守るよう使命があるんだ」
「お前を? なんで?」
「俺はダンジョンマスターになったから」
と言ってもケルディオ始め、その後方にいるゼルクジャースさんもテルスもポカーン顔だった。
ダンジョンマスターという言葉自体が未知のもので、理解が追い付いていないのだろう。
もっとかみ砕いて説明せねばと思った。
「……要するに俺、このダンジョンの主になったんだよ」
「主!?」
「『枯れ果てた洞窟』って、もう長いこと主不在だったらしくてね。俺が最奥まで到達したことで新しいマスターに選ばれちゃった」
『凄いでしょ? エヘヘー?』というノリで言う。
より詳しく説明すると、バギンザによってダンジョン深層部に置き去りにされた俺が、破れかぶれで最深部を目指し、奇跡の連発でガーディアンを倒して最下層のさらに奥へと到達した。
そしてダンジョンの主となる資格を得たと。
「そういうわけなんだよ!」
できるだけ軽い感じに言って理解されるよう努めてみたが、効果はなさそうだった。
皆ポカーンと口を開いたまま。
「……と、とにかくアレだ」
気を取り直すようにゼルクジャースさんが言う。
「お前が無事でよかった。さあ、帰ろう。これですべてが元通りだ」
「いやいやいやいや……!?」
俺の肩をとるゼルクジャースさん、完全に俺を連れ帰るモードに!?
「話聞いてました!? 俺ダンジョンマスターになったんですよ! もう地上には戻れないんですよ!!」
「何を言っとる。お前はワシのあとを継いで『哭鉄兵団』の支援部長になるんだ」
「それはお断りしますって何度も言ってるじゃないですか!!」
そう、断っているのである。
なのにこのジジイ諦めもせず説得を重ねてきやがる。
俺が折れるまで辞めないつもりか!?
「な、何があったのかはまだよくわからないが……、とにかく全員で一度地上に戻ろうではないか? 積もる話はそれからでも」
とケルディオ。
しかし……。
「いけません」
それを制したのはナカさんだった。
「誰だ……?」
「マスターは、このダンジョンに必要なお方。お前たち侵入者に連れ出されるなど断固あってはなりません。もし聞き分けないというなら……!」
ナカさんに呼応して鋼晶巨人形態のタフーが進み出る。
さっきまでの戦いは終わったわけではなく、いつでも再開できるぞと言わんばかりだった。
沸き上がる殺気に、上からやってきた人たちも身がまえる。
「待った待った待った!!」
慌てて止める俺。
ことは平和裏に進めないとね。
「まだ皆にはダンジョンマスターの何たるかが伝わってないようだし、それを伝えてからにしようじゃないか。結論を出すのは! 時に……」
ケルディオに向かって言う。
「お前ら本当に知らないの? ダンジョンマスターというのを?」
「だからそれはなんだ?」
マジで知らないようだった。
大クラン幹部ぐらいなら密かに噂話が伝わっててもいいかなと思ったんだがな。
「ダンジョンマスター……!? いやまったく知らない。ガーディアンは知っているが……、ダンジョンの奥底に近づく者を殺す……!?」
ケルディオがチラリと視線を横へ向ける。
その先は恐ろしき鋼晶巨人。
「……だが、そのガーディアンが何故いるのか? 何故侵入者を見境なく襲うのか? 言われてみれば謎だな。見ようによっては何かを守っているようでもあるが、では何を守っている? ということになる」
「マスターですよ」
口を挟むナカさん。
「ガーディアンの使命は、ダンジョンの支配者たるダンジョンマスターをお守りすること。だからこそ多くのリソースを割いて圧倒的パワーを保持しているのです」
『いるのだー』
鋼晶巨人が四本腕を上げる。
「そのダンジョンマスターという輝かしい存在を知らぬとは、地上の人間は本当に愚かなのですね……と言いたいところですが、それも致し方ないことでしょう。ダンジョンマスターの存在が秘密とされるには、理由があります」
「理由?」
しかし、ナカさんはそれ以上語ろうとしなかった。
話が途切れてきたので……。
「そうだ! 折角だから最深部を見ていきませんか!?」
「「「!?」」」
『聖域』での俺の作業を見てくれれば、皆も理解しやすかろう。
「ナカさん、いい?」
「マスターが望むことであれば、わたくしに拒む権利はありませんが……」
では三人をダンジョン最下層の、さらに向こう側へとご案内しよう。
ダンジョンの知られざる秘密の部分だから冒険者としては垂涎ものだろう。




