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02 凄いのに出会ったので

 目の前に凄いのがいる。


 巨人だ。

 具体的には、俺の上に俺をもう一人分載せて、それからさらに頭一つ程度大きくしたぐらいの体長。


 当然俺などが向かい合うと圧倒される迫力だ。


 それだけでなく巨人はただの巨人ではなく、全身水晶製だった。


 最下層全体が水晶塗れのフロアだが、この怪物に合わせてコーディネートされたんだろうか?


 とにかく煌びやかで凄まじい。


 特別なモンスター。最強の脅威。

 そう呼ぶに相応しい姿だった。


「これが……ガーディアン?」


 俺もガーディアンをこの目で見るのは初めてだが……、いや、今を生きている世代でガーディアンを見たことのあるヤツなんかいないんじゃないか?


 ここだけじゃない。

 世界各地にあるダンジョンの最下層のさらに奥、最深部にいるとされるダンジョン最強の守り部。


 その能力は他のモンスターなど問題にならないほどで、過去何百人というベテラン冒険者が血祭りにあげられたという。

 誰も敵わないと音を上げ、今では近寄る者すらなく、従って誰も目にすることもなくなった。

 いまや恐ろしき伝承の中にしか存在しない最悪の敵ガーディアン。


「それが、コイツなのか……!?」


 各ダンジョンに必ず一体。必ずダンジョンの一番奥にいて動くことがない。


 何故ガーディアンがいるのかという謎も解かれず、ただ全冒険者の想像の中でのみ君臨する怪物に、出会ってしまった。


「『枯れ果てた洞窟』にもいたのかガーディアン……!?」


 いや、どんなダンジョンに必ず一体はいるそうだから、ここにいてもまったく問題ないんだが……!

『枯れ果てた洞窟』とか言われているだけに、もしかしたらいないのかと思ってしまった!?


 でもいた!

 どうすんだ!? 戦ったって勝てるわけがない!


 こちとら戦闘は専門外のサポート職だぞ!?


「し、失礼しましたぁ~……!」


 さっきまでのやけっぱちな気持ちなどすぐさま冷め切り、後ずさりする俺。

 しかし、そうはギルドが卸さない。


 水晶の巨人は、ガコンとけたたましい音を上げて、それから重々しい響きと共に動き始めた。


「やっぱり襲ってくるうううううッ!?」


 ゴメンやっぱり死ぬの怖い!!

 全身全霊でそう思い踵を返す。全力疾走で逃げ出そうとするものの、振り向いた瞬間無理だとわかった。


「水晶が……!?」


 ここまで俺が歩いてきた通路。

 そこに通過した時にはなかったものが尖り伸びていた。


 水晶だ。

 水晶の細く伸びたものが、それこそ雑草のように生い茂って床一面埋め尽くしている。

 水晶の先端は剣のように尖って、踏めば靴底など容易く貫通し足が血塗れになるに違いなかった。


「ここまで来たときは何ともなかったのに……!? まさかアイツが!?」


 水晶巨人のガーディアン。

 まさかアイツに、このフロア内の水晶を操作する能力があるとでも!?


 こっちの逃げ場を完全に塞いでから水晶巨人は迫る。

 よく見たらアイツ、体の構造も普通とは違う。

 腕が四本あるじゃないか!?


 左右に二本ずつある腕は、その先が水晶製のブレードになっていて、刃渡り厚さ、いずれも大剣級だ。


 あんなの振り下ろされたら俺なんか苦も無く真っ二つだぞ!?


「ヤバい……!?」


 逃げることもできず、ただ待ってるだけでは来るものは水晶大剣による惨死のみ。


 じゃあ、どうする?


 決まってる。

 最初にただ一人でダンジョン内に置き去りにされた時、もはや命を惜しまず、進めるところまで進もうと誓った俺じゃないか!


 ガーディアンが現れたということは、ここはまさにダンジョン最奥。終点だ。

 いや真の最奥はガーディアンのいる向こう。


 そこを目指し、最後の瞬間まで前に進んでこそ初志貫徹というヤツだ。


 そして冒険者らし生き方でもある。

 これまで冒険者として生活しながら、色んなヤツが俺に言ってきた。


 ――『サポート職なんて冒険者じゃねえよ!』

 ――『カッコいいオレたちと同類面するんじゃねえ!』

 ――『オレたちの三歩後ろを歩けばいいんだよ! サポート職なんかオレたち正規冒険者の奴隷みたいなもんだからなあ!』


 先頭に立ってモンスターと戦うのが本当の冒険者であり、サポート職など冒険者の紛い物、小間使いに過ぎない。

 何度そう言われてきたことか!?


 本当にそうか?

 違う!


「俺だって冒険者だ!」


 疾走する。

 前へ。

 向かう先にはあの恐ろしい水晶巨人。壁のように立ちはだかっている。


 異形の四本腕を振り上げ、そのすべてで俺を狙う。

『不埒な侵入者を一刀両断してくれよう』と言ったところか。

 一斬受けても即死確定の裂斬撃、四斬連続。


 相手をよく見ろ!

 モンスターを相手にしたとき絶対相手を視界から外してはならない!


 目線の動き体の微妙な揺れ、予備動作から相手の動きを読み、先んじてかわす!

 それはどんな冒険者にも共通して叩き込まれる、生き延びる術だ!


 恐怖して目を逸らせばそのまま死に繋がるぞ!


「来た来た来た来た……!?」


 一斬目。

 右上部の腕から袈裟斬りに振り下ろされる水晶剣。それをギリギリまで引きつけてからしゃがんでかわす。


 できるだけ最小限、無理ない動きで。

 腕はまだ三本あるんだから。


 早速二斬目が来た。

 左上部の腕だ、同じく袈裟斬りの軌道。一斬目回避のために既にしゃがんでいる俺は、これ以上体を縮こませることもできない。


 だからジャンプした。

 前方へ向けてカエルのように。

 体を伸ばしてさらに身を低くした俺を斬撃が掠め、髪の毛の数本が斬られて散る。

 しかし体そのものは無事だ。


 前転しつつ立ち上がり、体勢を立て直そうとするも、その瞬間を狙うように第三斬目が襲ってくる。


「うおおおッ!?」


 身を捻ることで何とか回避。

 しかしこれで完全に体勢を崩してしまった。


 すぐに最後の四斬目が来る。

 でも体勢を立て直してから回避行動に移ったんじゃ遅すぎる!


「んがっふ!」


 だからいっそ、崩れた体勢を踏みとどまらず完全に崩して倒れ込む。それで四斬目の横薙ぎが虚しく空を切っていった。


「こええええええええッ!?」


 さっきから背筋がゾクゾクしっ放しだ。

 この数秒の間に何百回と『死んだ!?』という確信が突き抜けていく。


 本当なら体が震えて動けなくなるところだが、それでも必死で駆け抜ける。

 一秒も止まれない。

 止まった瞬間体が恐怖を受け入れて、完全硬直してしまうから。


 だから倒れて立ち上がる間もワキワキ手足を動かして、とにかく停止時間を作らないようにする。

 一秒も安心できない。


 四本の腕すべてを掻い潜ってもそれで終わりじゃないんだ。

 あの凶悪は何度だって俺に死を届けられる。

 既に一斬目を外した右腕は振り上げ直され、再度狙いをつけている。

 このまま無限に繰り返されたらいつかは当たる。


 受け手に回ってはダメだ。

 攻撃しなければ。


 幸い、回避で飛んだり跳ねたりしているうちに少しずつ相手の懐に潜り込むことができた。

 戦いは基本体の大きい方が勝つ。

 でも、逆転の可能性がないわけじゃない。


「懐に入れば!!」


 大抵の攻撃ができなくなる!


 立ち上がる動作を重ねてさらに一歩踏み込む。

 手に持っているのは、さっき作った即席の槍。


 その穂先は、まさにこのフロアで現地調達した水晶だ。

 同じ材質なら……ッ!?


 力いっぱい突き刺した槍先が、水晶巨人の腹部に深々と突き刺さる。


 その中心から細かいヒビが何本も走り……。

 全身まで広がって……。


「うんりゃああああああッ!!」


 とどめとばかりの体当たり。

 なりふりまったくかまわない。


 その衝撃でヒビは益々太くなり、数を増し……。

 最後にはボロボロに崩れ落ちた。

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[良い点] 対した魔物もいない探し尽くされた洞窟なはずなのに誰も最下層を探索した事ないって設定に無理がないか?
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