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27 魔導士テルスの状況整理

 ここはダンジョン『枯れ果てた洞窟』。

 ……の深層部。


 宝箱がポップしないという何の旨味もない『枯れ果てた洞窟』で、深層に潜るメリットはまったくない。

 他のダンジョンのように、奥深くまで行けばより良いレアアイテムに入った宝箱が見つかる……というわけでもないからだ。


 奥深くまで進めば進むほど危険も大きくなり、持ち込むアイテムの数も多くなり、費用もかさむ。

 いいことの一つもない。


 ギルドが勝手に設けた『地下六階踏破で初心者卒業』という条件があるからそこを目指す新米はいくらかいるが、それを越えて地下七階より先に進む者は皆無を越えて絶無だった。


 しかし今、絶無であるはずの例を覆し地下七階に足を踏み入れた者がいる。


 大クラン『哭鉄兵団』の第七統率長ケルディオ。

 それに同行する初心者パーティの一団だった。


「ねえ、もう帰りましょうぜ……!?」


 震える声で言うのは剣士バギンザであった。


 初期の浮かれた気分はもはや欠片も残っていない。


「もう地下六階まで到達したから、他のダンジョンに入れる資格は得られましたよ? もう目的は果たしたじゃないすか? 用なしになったゴミダンジョンなんて早く出て『哭鉄兵団』が本来攻略すべき上級ダンジョンに行きましょうよ?」

「……」

「ぐべッ!?」


 甘ったれたバギンザを張り倒す。

 ケルディオの手が相手の首を押し、そのまま壁へ叩きつけた。


「誰がお前の都合で動いている!? 我々の目的はあくまでアクモの探索、救助だ。地下六階で見つからなかったのだから七階へ進む。当然のことだろうが」

「そんな!?」

「お前が最後にアクモを見た場所を思い出せんというから、虱潰しで探索するしかないのだろう。役立たずならせめて無駄口を叩くな」


 厳しい叱責がバギンザに浴びせかけられる。


『役立たず』。

 かつてバギンザがアクモに浴びせた罵倒が、そっくりそのまま彼に返ってくる。

 しかも放ってくるのは彼の憧れ大クランの幹部。


「ケルディオさん、本気でアクモを探そうとしてる……!?」


 その様子を眺めて、同じく初心者パーティであるテルスは言う。


「物凄く頼もしいけど、なんだか意外ね。ケルディオさんの態度、本気って言うよりは必死に見える……!」


 かつて彼女と一緒のパーティだった合成師アクモ。


 彼の真の所属は大クラン『哭鉄兵団』だった。


 まずそのこと自体が驚きであり、今も整理できない事柄。

 たしかにサポート役としてアクモは優秀だった。


 サポート職自体が見下され、正当な評価を受けることがない彼であったが実際に『パーティの活動を下支えする』行動において彼のしたことは完璧以上だった。


 それだけの腕前を持った冒険者が、冒険者最上位水準である大クランに席を置いているのも納得ではある。

 今、共にダンジョンを進んでいるゼルクジャースも含めて……。


「ゼルおじさん……」

「うん?」


 話しかけながらテルスは気後れを感じた。

 もしかしたらこのベテラン冒険者は、本来自分のごとき新米が声をかけるのも恐れ多い上級者なのではないかと。


「……そういうのが面倒で隠してたのよ」

「え?」


 唐突なゼルクジャースの一言に戸惑うテルス。

 どうやら顔に出ていたことを読まれていたらしい。


「ワシらが『哭鉄兵団』から分かれて『枯れ果てた洞窟』にやってきたのは、アクモの再教育のためだ。それ以外のことに煩わされたくねえ」


 しかし初心者ダンジョンである『枯れ果てた洞窟』に大クランのメンバーが来たとなれば注目の的となるのは目に見えている。

 あちこちから過剰な接待を受け、中には一足飛びに大クランに入ろうと自分を売り込みに来る者もいるだろう。


「そういう手間に煩わされるのが嫌だったのさ。ワシはアクモを立派なレンジャーにして自分の後釜に据える。それだけに集中したかった」

「私たちとパーティを組んだのも……?」

「実地で教えるにはダンジョンに入りたかったし、まさかサポート職二人だけで入るわけにもいかんしな。サポートの仕事は前衛職の目に入りづらいし隠れながらでも充分行けると思ったが、それが間違いだった」

「間違い?」

「バギンザだよ」


 男の名を聞き、テルスは即座に納得した。


「パーティメンバーはもっと慎重に選ぶべきだった。まさかあんな自分勝手な勘違い野郎だったとは。どうせ短い付き合いだからテキトーでいいと思ったのが一生の不覚だ。ワシもベテランなどと持ち上げられながら、肝心な判断もできん大バカ野郎ということだ」

「…………」


 テルスはなんと言っていいかわからなかった。

 肯定すればいいのか否定すればいいのか。


「やっぱりアクモは、バギンザに何かされて……?」

「それは間違いねえな。アクモはダンジョン探索においては慎重で用心深く、へまして遭難なんて考えられねえ。その反面アホみたいに他人を信じすぎることがある。あのクソバギンザにでもそうだった……」


 そのバギンザに誘い出され、人気のないところで後ろから。

 ズドン。


 それこそがもっともありうることだとテルスも思う。


「もしかしたらアクモはもうバギンザに……!?」

「それはねえ。さすがにあのバカに人を殺す度胸はねえよ。精々意識を失わせて置き去りにってところだろう」

「それでもあれから二十日は経ってるんだよ……!?」

「実はサポート職ってのは冒険者で一番しぶといんだぜ。食料やら水やらの確保の仕方を心得てるから、遭難した時最後まで生き残って救助されたのはサポート職だってことは多い」


 言われてテルスは思い出す。

 魔導士や剣士の、考えなしに進む者どものなんと多いことか。


「記録では、行方知れずになってから丸一年後に生存発見されたレンジャーの記録もある。アイツだってきっと生きている。皆でアイツを迎えに行こう」


 ゼルクジャースの、アクモを取り戻さんとする信念はテルスを驚愕させるほどだった。


 パーティを組んで半年足らずの付き合いでしかないが、パーティ内で一緒に行動する時もそんな素振りを見せたことは一度もない。


 アクモ失踪直後には冷淡とすら思えるほど感情を乱さなかったゼルクジャースだったが。

 それも『哭鉄兵団』から応援が届くまで辛抱していたというのか。


「バギンザを油断させるため?」

「ん? ……ああ、そうだな。ワシ一人で締めあげてもよかったが、ダンジョン内を本格探索するには人手がいる」


 だから『哭鉄兵団』の応援隊を待った。


「事件であろうと事故だろうと、最後までアクモと一緒にいたのがアイツだってことは事実だ。バギンザは、アクモを見つけ出すための最大の手がかりだ。下手に警戒されて雲隠れされちゃ敵わねえ」

「だから泳がせてたって言うのね」


 しかし今となっては『哭鉄兵団』から人手が送られ、バギンザを捉える目は充分にある。


 ましてダンジョンの奥底へと引きずり込まれたら、もはや逃げ出すこともできなかった。


「逃げたきゃ逃げればいいがな。そしたら今度はアイツがダンジョン内で遭難するだけだ」

「アイツ……、これからどうなるの?」

「展開によって何パターンかに分かれるが、一番望ましいのはアクモを救出、その証言によってアイツの犯罪が暴かれ冒険者資格はく奪の上に牢獄行きってところだな」

「もし……、アクモが見つからなかったら?」

「その時は別のパターンだ。メンバーをやられたクランがどんな報復に出るか、身をもって知ることになるだろうよ」


 既にバギンザは、涙と鼻水で顔中をクシャクシャにしながらダンジョン奥へ進んでいた。

 ケルディオによって強制的に。


 思えば彼も、テルスから見れば異様に映った。


 テルスもまた『枯れ果てた洞窟』にいる駆け出し冒険者の一人にすぎないからには噂話にしか聞き覚えがないが。

 大クラン『哭鉄兵団』にはいくつものパーティをまとめ上げる『統率旅団』と呼ばれる集団活動単位があり、統率長というのはそのまとめ役であるという。


 幾人かいる統率長の上にいるのはクラン全体の指導者であるクラン長のみで、つまり第七統率長を名乗るケルディオはトップに次ぐ最高実力者ということになる。


 その統率長が、たとえ同じクランの仲間だと言っても、たかがサポート職一人を救出するのに幹部クラスがあそこまで熱心になるものだろうか。


 それが大クランの流儀なのか、それともあの美剣士個人が異質なのか。


 テルスの視点からはまだどちらか判断がつきかねた。


「ゼルクジャース老」


 そんな統率長がクランの古老に呼びかける。


「地下七階は、これであらかた探し尽くしたと思われます。しかしアクモは見つからない……」

「それだがな。……さっき人間のものと思われる足跡を見つけた。誰も寄り付かないせいで時間が経ってもクッキリ残っていたぜ」

「その足跡は……!?」

「下へ続いていた」


 その言葉に、居合わせた者たち全員の表情が凍る。


「この足跡がアクモのものなら……。いやまあ、まず間違いなくアクモのものだろうが。アイツは下へ向かったことになる」

「しかし待ってください! ここは地下七階でしょう? これより下になると……!」

「そうだ」


 ゼルクジャースは答えた。


「『枯れ果てた洞窟』は全八階層。この下はガーディアンのいる最下層だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的には、ゼル爺さんを主役にした外伝が読みたくなってしまいました…爺さんスゲェ(笑)
[良い点] 一回出て再度情報収集したら変な目撃情報が手に入ったやも
[良い点] ジャイアンかと思ったらスネオだったバギンザ いやそれ以下かw [一言] まさかの後継者候補それにしちゃあっさりダンジョンマスターになったな
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