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25 最強がゴネるので

 俺は何を見ているんだろう?

 いや見せられているんだろう?


 目の前にいるのは、うつ伏せで全面全身を地に張り付かせている謎の女性。

 その体勢ゆえに顔形はわからないが、それでも体格から二十歳前後と見られ、かつ格好はだらしない。


 ほぼ下着と変わりないと言った出で立ちで、うつ伏せがゆえに目立つ尻も、丸みのあるラインが丸出しだった。

 その尻を……。


「いつまで呆けているのです痴れ者」

「あぎゃあッ!?」


 ナカさんが思いっきり蹴飛ばす。

 尻を蹴られてゴロゴロと転がりながらも彼女は起き上がろうとはせず、その点ダイヤモンドのように確固とした意志を感じた。

 両手両足を『X』のように広げて地面に張りつく。


「やだー、絶対働かないもんー。働いてなるものかー」

「見苦しいところをお見せして申し訳ありませんマスター」


 ナカさん、俺に対して恥じ入るように頭を下げる。

 俺は変なものを見せられて絶賛困惑中。


「ええと……、ええと……、彼女は?」


 とりあえずそういうので精一杯だった。


「不肖ながら、我らがダンジョンのガーディアンです」

「ええ……!?」

「あの形態の名称をタフーといいます」


 ガーディアンってあれでしょう?

 俺がここに来て最初に出会った水晶巨人でしょう?


 腕が四本もあって、そのそれぞれが巨大なブレードとなっていて……。

 対面するだけでおしっこちびりそうになるほど恐ろしいヤツだったでしょう。


「正直、そこで突っ伏している可愛い女の子とは似ても似つかないんですが……!?」

「あれはタフーの通常形態ですので。マスターがおっしゃられているのは『ザストゥン・ザッパー』と呼ばれる戦闘形態。タフーは侵入者を撃退する時あの姿に変貌します」


 そうなのか?


 ナカさんはアドミン(管理者)といってダンジョンの管理、マスターのサポートを担うダンジョンの一部。

 人の姿をとっているが正確に人間ではない。


 それと同じように、あの女の子も人の形をしているが実際は人ではなく『ダンジョンの守護』を使命に存在する疑似生命体。

 ダンジョンの一部ということなのか?


「ほれタフー。まずは起き上がり、我らが新しいマスターにご挨拶なさい」

「…………」


 のそのそと起き上がる彼女。

 そこでやっと顔を確認することができた。今までずっとうつ伏せだったので。


 ……体格の割には童顔で、顔だけ見ると十代のようだった。


「……タフーです、よろしくお願いします」

「…………うん?」


 一応挨拶はしてくれるのか。

 怠け癖があるだけで忠誠心皆無というわけでもないようだ。


「度重なるまぐれ当たりでアタシを倒したマスター様」

「……!?」

「ぎゃんッ!?」


 横から殴り込むナカさんに頭吹っ飛ばされる彼女。


 ……ガーディアンよりナカさんの方が強い?


「なんですか、その不遜な態度は? マスターへの侮辱は許しませんよ」

「なによー!? 本当のことじゃない! このアタシをー! 本当なら英雄百人束になってかかっても倒せないアタシをー! まぐれ当たりで倒すなんてー!!」


 なんかすみません、としか言いようがない。


 彼女がマジにあの水晶巨人と同一体であるとするなら。

 その実力は直に戦った俺が肌身に沁みてよくわかる。


『英雄百人殺っても大丈夫!』とは決して誇張ではなく、あの水晶巨人の強さは本当にそれぐらいあった。

 俺が勝てたのは本当に数千万分の一のまぐれを引き当てたからに過ぎない。


 ……とは言っても、実際勝っちゃったから説得力ないんだけども。


「大体あの武器が悪いのよー! なんで結界展開させたアタシの一部を武器にしてくれちゃってるのよー!?」

「え? 何の話?」


 何やら愚痴っぽくなってきた彼女……タフーの話は、クダを巻くようにドンドン広がっていく。


「アタシのぼでーを形成するクリスタルは、ちょっとやそっとじゃ砕けないものなのよー! 本当なら世界最硬なのよー! それなのに同じ材質で攻撃されたらそりゃ砕けちゃうでしょうよー!!」

「見苦しいですよタフー。愚痴なら余所で吐きなさい」


 聞いていくうちに段々と俺にも心当たりが出てきた。

 もしやこの俺が、あの水晶巨人と戦った時に使った即席槍のことだろうか?


 ……。

 あれはダンジョン深層部に置き去りにされ、絶望気分で徘徊中のこと。


 丸腰ではあまりに危険と思い、最下層部にあった水晶と手持ちの木の棒を合成し、即席武器を作ったのだった。


 それはあの水晶巨人との戦いでも使われ、最後の一撃に大きな役割を果たす。

 水晶巨人と同じ構成物でできた切っ先だったからこそ、標的を打ち砕くことができたのだと当時も評価されたが……。


「なんであんなことしたのよー! アタシの一部を使うなんて反則じゃないのよー!」


 と泣きわめく彼女。

 あれがショックでやさぐれていたのか?


「自分を害しうる、自分と同じだけ鋭利さを持つ素材をあのようにばら撒いていたのが悪いのでしょう。アナタの戦術ミスです」

「違うのー! あの『輝透庭園』は全範囲にアタシの水晶を敷き詰めて、全方位から敵を襲うための結界兵装なのー! あんな使われ方するなんて思ってなかったのー!!」


 要するに彼女は……、俺に敗けたせいでプライド木っ端微塵ということか。

 そのショックからいまだ立ち直れず、こんな無職穀潰しのような有様に……!?


「アナタが負けたおかげでこのように素晴らしいお方をマスターに戴けたのだからよかったではないですか。そんなマスターを失わないためにも今、アナタが出撃する必要があるのですよ」


 ナカさんが言うが……。

 その言い方が……、いかにも子どもに言い含めるような……!?


「一敗地にまみれた今でも、アナタがまだこのダンジョン最強の守護者であることに変わりありません。むしろ汚名返上のためにも現在進行中の不埒者どもを蹴散らし、アナタの価値をマスターに認めてもらえばよろしいでしょう」

「へーん、いいもーん。どうせ負けるもーん」


 自閉症に入っておられる。


「いやいや……、キミが負けるなんてまずありえないと思うよ?」


 俺だって、彼女自身の素材を武器にするという機転と、実力以上の動きを四回連続で出せたという大奇跡のおかげで勝てたんだ。


 あれをもう一回やれと言われても絶対無理。


 ゆえに彼女の最強はゆるぎないことであろう。


「あのクリスタル武器さえなければ、キミ(?)を傷つけることなんて到底不可能なんだろう? だったらキミは依然として無敵じゃないか。もうキミにダメージを与えられる者なんて存在しないんだから」


 最下層で水晶穂先の即席槍が作れたのは、俺が合成師というクラスだったがゆえ。

 不幸な偶然というヤツだ。


 不人気クラスである合成師が最下層まで来ること自体、金輪際ないだろうし。彼女の無敵はこれからも保証されたようなもの……。


 と思ったのだが……。


「……ある」

「はい?」


 体育座りで意気消沈の体をとるタフーちゃん。

 なんだいその恨みがましい口調は。


「あるの。アタシを簡単にけっちょんぱしちゃう武器が巷に溢れかえってるのー」「えー? ウソ?」

「シラを切るのッ! それを作ったのはマスター自身じゃない!」

「ええッ!?」


 俺が犯人なの!?

 濡れ衣だと思って反論しようとしたところ、思い出した。


 ここ最近の俺の所業。

 俺が作った武器……!


「もしかして鉄晶剣のことか!?」

「そうそれ!」


 あの硬質鋭利な水晶巨人を倒せるのは、それ自身と同じ材質の水晶のみ。


 そして問題となる水晶製武器はたしかに、もう地上にばら撒かれていた。

 俺の手によって……!


「た、たしかに鉄晶剣は……! キミの水晶に鉄を混ぜてその上剣の形状にした……! この上ないキミへの特効属性……!」

「完全なアタシキラーだよぅ! あんなの持った侵入者が大挙して押し寄せたら絶対防ぎきれないよぅ! なんでそんな意地悪するの!? バカなの!?」


 いやだって……!

 皆がダンジョンに押し寄せてくるよう目玉景品が欲しくて……!


 しかしこんな形でしっぺ返しが来てしまうとは!?

 俺がプレゼントした武器で俺が殺される、この因果応報展開!?


「無敵のガーディアンであるはずのアタシが、もう敗北確定だよー! だからやなのー! もう戦うのやなのー! ずっと奥底でゴロゴロしてたいー!!」


 といってまたうつ伏せに突っ伏し、手足をバタバタさせる彼女だった。


「そうか……、彼女があんなに自堕落になってしまったのは俺のせいだったのか……!?」


 ならばその責任は俺がとらねばなるまい。


 俺自身の命を守るためでもあるし。


 タフーが絶望してしまっている原因は、俺が安易に強力な武器を配りすぎて彼女の最強性を揺るがしてしまったこと。

 ならば彼女が再び完全最強に返り咲けばいいのだ。


 つまりこれから始めよう。


 タフー改造計画!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。 [気になる点] 自閉症という言葉を、誤用で使っているところ。 [一言] 自閉症という言葉はとてもセンシティブです。 自閉症で苦しむ本人・家族が多数いるこの世界で、誤用とは言え…
[一言] タフ―の言動・行動から自閉症の傾向は見られません. 強いて言うなら,フロイト心理学における退行という 自己防衛の一種を行なっていると思います.
[一言] 読み進めたら自己完結
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