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24 強い人が来たので

「マスター、今日の夕餉が出来上がりました」

「わー、……何かな?」


 ナカさんが料理にハマった。

 毎日三食、新作に挑戦するから俺としては気が気ではない。


「本日は目玉焼きを試作してみました。マスターご賞味を」

「まだ普通だ……」


 ナカさんは料理素人な上に人間を超越した存在で世間一般の常識を持ち合わせていない。

 そんなナカさんの作るものだから、俺もいつヤベーものが来るかと恐怖に打ち震えているわけだった。


 しかしナカさんは意外に順序を弁えているらしく、簡単なもの、手間がかからないものから始めていく。

 典型的な料理下手のようにいきなり高難易度なものに挑戦したり、独自のアレンジを加えたりしない。


「けっこうなことだ……、慎重さは冒険者にも生き残るために必要なものだ」


 さて、俺は早速テーブルに出された目玉焼きを食してみる。

 トマトケチャップをズリュズリュかけて……。


「うめえ!」


 普通に美味い。

 焼き加減が絶妙で、黄身を破るとトロリとしたものが出てくる。

 半熟。


「ご飯に乗っけて食べたいな!」

「マスターに喜んでいただき恐縮です」


 ナカさんの足元で『ピピピピピ!』と鳴くスラブリンにも目玉焼きを供する。

 ほんのり黄身の形が歪んでいるところを見ると失敗作か。


「本当に贅沢なスライムです。スライムならばダンジョン内の生ゴミでも貪っておればいいものを」

『ピピピピィ……!』


『美味しい』と言っている気配は伝わった。

 それでナカさんも気をよくしたようだ。


「そういえばマスター……」

「なんだね?」

「ダンジョン内にまた侵入者のようです」

「それ先に言おうよ!」


 まあ、ダンジョンに冒険者が侵入するのはいつものことだし、食事が終わってからでもよかったのかな?


「配置しておいたゴブリンやスライムが効率的に狩られており、今までと違う感じがいたします。マスターにご確認いただきたく……」

「んー?」


 ナカさんが映し出すモニタに、ダンジョン各所の映像が映し出される。

 そこに現れた黒い鎧の集団。


「あれはッ!?」


 あの御仕着せ鎧の意匠を見間違うことはない。


 ……『哭鉄兵団』じゃないかッ!?


「いかがいたしましょうマスター。スラブリンを出撃させますか?」

「いいやダメだッ! 出してあるスライムやゴブリンも呼び戻せ! 彼らが相手では無駄に殺されていくだけだ!」

「はあ……!?」


 ナカさん、戸惑いを見せて……。


「あの、そのご様子ではマスターは、今回の侵入者が何者か心当たりがおありですか? 今までのものとは違うように見受けられますが?」

「そりゃそうだろう……!」


 ヤツらは大クラン。

 冒険者同士がダンジョンを攻略するために協力し、大集団にまでなった。

 さらにその中で三指に入るトップクラス大クランの一つ。


 それが『哭鉄兵団』だ!!


 なんで彼らがこのダンジョンに入っているんだ!?


「彼らが潜るのは最高難易度で、宝も最上級の究極ダンジョンのはずだろ!? 間違っても初心者用の『枯れ果てた洞窟』なんかに攻め込むはずがない!」

「く、詳しいですのねマスター?」


 そりゃ、一応古巣ですしね……!

 あんまり思い出したくないけど……!


「少々お待ちください。……情報検索……ヒット。なるほど人間どもの寄せ集め、その最大単位がクランというわけですね」


 ナカさんがなんか納得していた。

 どういう仕組み?


「現在のところ、ダンジョン内で活動している人間の小集団が八つあります。これらすべてが連携しているとしたら、たしかに厄介ですね」

「なんでこんなことに……!?」


 まさか、クランを勝手に辞めた俺への粛清?

 いや、ないか。俺がここにいるってのも知られてないだろうからな。


「ただ、侵入者小集団のほとんどは浅層を徘徊している模様。下層へ侵攻する様子は見受けられません」

「それはよかった……!?」


 ホッとする俺。

 どれだけダンジョン内を荒らされても、最深部に到達しさえしなければ大丈夫だからな。


「念のため、ダンジョン内の被害を最小限にするためにも宝箱を全部引き上げてくれ。モンスターもさっき言ったように全撤退だ!」

「ですが一組だけ、真っ直ぐ深層を目指している小集団があります。既に地下五階まで到達してるよう」

「えー?」


『ほとんど浅層を徘徊してる』って言ったばかりじゃない!?

 ああ、でも『ほとんど』か?

 少しは例外がいるってことだな。


「で、その例外はどちら様?」

「今、モニタに出します」


 映像を見ると本当に見知った顔しかいなかった。


「バギンザにテルスさんにゼルクジャースさん……ラランナ。あとケルディオまで!?」


 なんでケルディオがいるの!?


「彼らは迷う様子もなくまっすぐ下層を目指しています。これなら一両日中には最下層まで到達するかと」

「そうなったら俺と鉢合わせる!?」


 そしたら俺、倒されてダンジョンマスターをクビに!?


 たしかあれでしょう?

 普段なら最下層と最深部の間にガーディアンがいて大抵の敵を追い払ってくれるんだけど、この俺が度重なるミラクルによってガーディアンを大破。


 結果、今はノーガード状態に。


 これで迫りくる連中を防ぎきることはできない。


 ……ああ。

 せっかくこの仕事が楽しくなってきたのになあ。


 ここで終わってしまうのか?


「そのようなことはさせません」


 という力強い声を上げるのは、メイド姿のナカさんだった。


「マスターが、そこまでダンジョンに愛着を持ってくれることに、わたくしは感謝を捧げます。アナタを我らが主でなくすことは絶対にいたしません」

「でも……、どうやって……!?」

「いよいよ、あの子を呼び戻す時が来たようです」


 あの子?

 一体誰のことだ?


「お忘れですかマスター? 今『聖域』がガラ空きになっているのは、その境界を守るべき者が不在ゆえ。ならば……今はなきガーディアンを、復活させるのです!」


 それって……。

 俺が初めて来たときに戦った、あの水晶巨人!?


「幸い今は、マスターのおかげで潤沢な心象エネルギーを確保できています。一度完膚なきまでに破砕された『ザストゥン・ザッパー』も容易に復元可能。……今こそ! 我らがダンジョンの守護者復活の時です!」


 ナカさんがコンソールを開き、何やら打ち込んで式を展開させる。

 ダンジョンマスターとなって幾日か経った俺にも、少しずつ何かわかってきた。


 彼女は、何か特別な措置を行おうとしている。


「式の組み立ては終わりました。あとはマスターの承認あれば……」

「う、うん……!?」


 我がダンジョンは、今けっこうな危機にあるのかもしれない。


 それを救う者があるとしたら……。

 かつて俺自身が、その恐ろしさを直接味わった。

 あの水晶巨人。


「俺がアイツに勝てたのは……、奇跡と奇跡と奇跡と奇跡とさらに奇跡が重なったから……!」


 そうでなかったら絶対やられていた。

 あの恐ろしい力を、今度は俺のために使ってくれ……!


「甦れガーディアン!!」


 俺が承認の言葉を叫ぶと、眼前に渦が巻き起こる。


「これは……可視化できるほど濃厚な心象エネルギー!?」


 その力が凝縮し、明確なる形を表し、現れたのは……!!


「おお!?」


 地面に突っ伏すようにうつ伏せになった女の子だった。

 女の子……!?


「やーだー、もーやーだー。たたかいたくないー、はたらきたくないのー」


 そして女の子は駄々をこねるように手足をバタバタさせだした。

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― 新着の感想 ―
先代ダンジョンマスターの衣食住はどうしていたんでしょう???
[一言] 聖域という意味のアジールくんが守護者になると思ってたのに
[良い点] パパー(アクモ) ママー(ナカさん) お兄ちゃーん(スラブリン) いや、ガーディアンの方が先に生まれたのか?
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