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01 腹を括ったので

 昔から褒められたことなど一度もない。

 罵られ、見下されてばかりの人生だった。


 ――『アクモは本当に役に立たねえよな』

 ――『剣もロクに振れねえのか? 魔力はない?』

 ――『何にも使えない役立たずめ』


 先輩冒険者から、同僚から、後輩から、常に蔑みの目で見られてきた。

 冒険者の花形といえば、最前でモンスターと直接斬り合う戦闘職、もしくは派手な魔法をぶっ放す魔導士やヒーラー。


 誰もが憧れる。

 誰もがそれら前衛職を目指し、適性がないと振り落とされた者が仕方なく就くのがサポート職であった。


 ダンジョン攻略に必要な物資を調達し、準備を整え、ダンジョン内では構造をマッピングしつつ現在位置を把握し、進行ペースを見定めて撤退のタイミングを推し量る。

 さらにはダンジョン内に設置された罠を見極め、できるのなら解除する。

 扉や宝箱を解錠する。


 ……といったのがサポート職の仕事。


 それらはドンパチやらかす前衛職に比べるとどうしても地味で、低く見られがちだ。

 何より『前衛職になれなかった者の受け皿』というイメージがついたサポート職は、どうしても見下されるようになる。


 剣士であるバギンザも、そんな風に俺のことを見ていたのかもしれない。

 かといってダンジョンに置き去りにするなんて。


「……他人のことなんて気にしてる場合じゃない、か」


 そう。

 今は何より自分の危機的状況を嘆かなければ。


 地味ながらもサポート職の重要性は、パーティに最低一人いなくてはならないレベル。

 ……などと強がりを言っても単体で戦闘力皆無なのは動かしがたい事実。


 ここダンジョン奥部で野垂れ死にするのは確定と言っていい。


 こんな下層までやってくる他のパーティもいないだろうし、変な期待は捨てるべきだ。


 それよりも、どうせ死ぬことが決まったなら先に進んでみようではないか。


 これでも冒険者の端くれ。

 死ぬのなら誰も見たことがない景色を見てから死ぬ方がそれらしい。


 普段は発露しない冒険スピリッツが沸き上がったのも、やぶれかぶれの心情からか。

 とにかく今の俺は案外と心が軽やかだった。


 これも死んだつもりになって腹を括ったおかげかな?


 そうしてズンズン、ダンジョンの下層へと降りていく。

 運がいいのか、大分歩いたのにモンスターと遭遇することは一度もなかった。


 決死の覚悟が却って運を引き寄せるものなのかな?


 そもそもこのダンジョンは『枯れ果てた洞窟』と呼ばれるほど、度重なる攻略を受けてスッカラカンになっている。

 資材もあらかた取りつくされ、出てくるモンスターもスライムやゴブリンが精々。


 トップランクからはとっくに見切りをつけられ、駆け出し冒険者が経験を積むためぐらいの用途にしか使われていない。


 だからなおさら最下層にまで行こうという物好きな冒険者はいない。

『他パーティと偶然出会って救助されるなどというナイーブな考えは捨てろ』とさっき思ったのもそれゆえだ。


 初心者が教訓になる程度の経験を積み、スライム程度を討伐して得られる僅かな報酬を得るなら浅層部を巡るだけで充分。


 おかげでここ『枯れ果てた洞窟』深層部は数十年、誰も足を踏み入れたことがないはずだ。


 人生最後に目指す場所としては、なかなか乙ではなかろうか。


 俺の冒険者人生、大していいことなんてなかったが最期ぐらいは『冒険者らしい』ものでありたいのだ。


「とか言ってるうちに着いたな」


 最下層。

 ……でいいはずだ。


 サポート職たる俺がダンジョン進入から数えて、ここが地下第八層のはず。

 そして地上で仕入れた情報によれば『枯れ果てた洞窟』は全八階層とのことだ。


 大抵の冒険者は三階層もいかないうちに目的果たして引き返しちゃうんだけどな。


 しかしマジでここまで来るのに一回もモンスターに出会わなかったぜ。


 死ぬ気になると運が向いてくるもんだって真実なのか?


 それよりも最下層に着いた途端目の前に広がった景色に、俺は圧倒された。


「なんじゃこりゃああああああ……!?」


 驚くのも仕方のないことだと思う。


 最下部たる第八階層は、フロア全面が光り輝くもので覆われていたからだ!


「これ何……? 何!?」


 とにかく圧倒されて困惑する俺。


 最下層の壁やら天井やら一面敷き詰めるようになっている……。

 キラキラ光って? 透明な?


 間近まで顔を寄せて、やっとそれが何かわかった。


「水晶、か?」


 他のダンジョンでもよく採れる鉱石の一種。

 氷のように透き通っていて、魔を祓う効果もある水晶は、加工すると優れたアミュレット(護符)になるため人気が高い。


 ここから一抱え持ち帰るだけでも二、三年は遊んで暮らせる報酬がギルドから支払われるはずだ。


「全部持ち帰ったら億万長者じゃないか……!?」


『枯れ果てた洞窟』の最奥に、こんなお宝が眠っていたとは!?

 全然枯れ果ててないじゃん!


「どうしよう? 今からでも持てるだけ水晶採掘して引き返すか?」


 急に欲が湧いてきたが……。

 いかんいかん。


 どうせ今から引き返したって途中でモンスターとぶつかるのは間違いない。

 初心を忘れず、一番奥の奥まで突き進もうではないか!


「ただ、最低限……」


 腰に巻き付けた道具袋をゴソゴソ漁り、あるものを取り出す。


 ロックハンマーだ。


 これで壁から張り出る水晶をカンカン叩き……。

 叩き……!

 二十回ぐらい叩いたところでやっとヒビが入り、破片が飛び散った。


 破片といってもデカい。

 形状が細長い、ナイフぐらいの水晶が取れた。

 先も鋭く尖ってナイフっぽい。


 水晶は割ると先が鋭くなって、即席の武器になると誰かから聞いたが、まさにその通りだった。


「これを棒の先に据え付けよう」


 幸い、杖代わりに携帯していた樫製の棒があるので、これらを加工し、繋ぎ合わせるとあら不思議……。


 槍のようになった。


「水晶の槍ってとこだな」


 アイテムの現地加工もサポート職の腕の見せ所。

 むしろ俺個人がもっとも得意とするところだ。


 これからモンスターと遭遇して斬り死にするとしても、何か武器があった方がより派手な散り様となろう。

 水晶製の武器なんて高級感あるし、最期の得物としては上出来か。


「さあ、討ち死にの準備は整ったぞ! モンスターめいつでも来やがれー!」


 というのは完全にヤケだった。


 水晶の輝きに目もくれず先へ先へ……。

 進むよどこまでも!


「おらー! 出ないのかモンスターめー! このままだと本当に一番奥まで到達しちゃうぞー!!」


 ヤケである。


 しかし、そんな風に煽ったのが悪かったのか。

 ついにモンスターが俺の前に現れた。


 しかもとんでもないのが。


「うええええええ……!?」


 そのあまりにもな威容に、俺であった途端硬直。


 このダンジョンは『枯れ果てた洞窟』などという名前がついているだけに出てくるモンスターもそうバラエティに富んでない。


 スライムかゴブリン。

 精々この二種類だったはずだ。


 しかし今、俺の目の前に現れたモンスターは、スライムとかゴブリンとか、そんなチャチなものでは断じてない!

 なんだこの……!

 全身水晶でできた巨人はッ!?


 ……そういえば聞いたことがある。


 ダンジョンの奥の奥、最深部のちょっと手前にはガーディアンなる最凶モンスターが布陣していて、ノコノコやってくる冒険者を問答無用で八つ裂きにするんだとか。


 それが、この水晶巨人。

『枯れ果てた洞窟』なんて舐め腐った名前が付けられたこのダンジョンにもガーディアンがいたのか!?


 うわああああッ、やけっぱちで『何でも来い!』なんて言っていたら……。

 とんでもないのがお越しくださった!?

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