18 出撃を望むので
地上で色々と用を済ませてエンジョイして……。
ダンジョン最奥へと帰ってきた。
「ただいまー」
早速買ってきた家具を並べるぜ。
天蓋付きのベッド。足が猫みたいになってるテーブル。やたらでっかい全身を映せる鏡。クローゼット。なんかよくわからない全身鎧の置物。
「なんか必要以上のものまで買いこまれていた!?」
全部、俺が『聖域』に入って最初に案内された何もない部屋に置かれた。
殺風景だったのが一気に生活感漂ってくる。
……のだが。
「生活感が高級感すぎない?」
地上から買ってきた家具類はすべて最高級品。
おかげで『どんな王侯貴族が寝泊まりするんです?』という感じのスィートルームが。
「俺、こんな部屋で絶対落ち着いて過ごせないよ……!」
元はしがない冒険者でしたので。
これならむしろダンジョンで野営する方がいくらか落ち着きが……。
「ベッドが広い……!? 寝ると沈み込みすぎる……!? むしろ俺の体で寝具が汚れるんじゃないかという不安で寝られない……!?」
むしろ己の貧乏臭さを見せつけられる感じだった。
「ナカさん……、なんかもっとこう……、何とかなりませんか……!? ……ナカさん?」
おかしい。
ナカさんの姿が見えない。
「ナカさんどこー?」
呼んでも出てこないので壁に扉を作り、『聖域』内を探す。
俺もダンジョンマスターとしてそれぐらいできるようになりましたよ。
それでもまだ『聖域』全体の行動を把握できずに下手に異空間渡り歩くと元の座標に戻れず、ナカさんに発見してもらうまで動けなくなったりするがな。
しかし今回は運良くナカさんを発見できた。
「ナカさん何やってるんです?」
「ご覧くださいマスター! 台所を創造してみました!」
見ると『聖域』内に設定された一室の中に、竈や流しが設えられて調理器具が取り揃った……!
うん、台所だ。
「今日からここでマスターにお出しする料理を製造させていただきます! マスターにご不便な思いはさせません!」
「うん、ありがとう……!?」
地上で食事して以来、俄かに料理にハマりだすナカさん。
大丈夫だろうか?
いかにもありそうな素人料理展開とか……ないよね?
「早速試作品を用意してみました。ご試食くださいマスター!」
「もう今!?」
展開が早すぎる。
これは……、芋を蒸したものかな。
実に簡単な料理だが……。
普通に美味い。
初心者が実に無難で上手くまとめた感がある。
……やっぱ有能だなナカさんは。
家具も揃え、ご飯も作れるようになり、生活水準もぐんと上がった。
これで益々ダンジョン運営に力を注げるというわけだ。
「まあ、新たに宝箱に詰める鉄晶剣を作ってもいいけど……。お金を生成できるというのも大きいな」
現ナマなんて、そのまま宝箱の中身としてOKだもんな。現金貰って喜ばないヤツはいない。
他のダンジョンの水準よりちょっと多めの金額入れて、鉄晶剣と並んで我がダンジョンの目玉景品にしておくか。
『ピピッ! ピピピピピピピピッ!!』
「んッ?」
気づけば足元にスライムがすり寄っていた。
ドブ色をしたスライム、スラブリンだ。
「おお、留守番してくれててありがとな」
『ピピッ!』
抱き上げようとするとスラブリン、俺の手を離れてどこぞへ駆けていく。
えッ!? なんで!?
なんか嫌われた!?
『ピピピピピッ!!』
しかし、スラブリンの駆けた先には他にも多数のモンスターがおり、スライムとゴブリンが集結していた。
まあウチのダンジョン、まだあの二種類しか保有してないからな基本的に。
「スラブリンは何をしようとしているんですかね?」
ナカさんも気になって注目する。
そんな中、スラブリンが軽快な鳴き声を上げた。
『ピ!』
基本スライムのどの辺りに発声器官がついているのか知らんが。
その声に反応し、通常のゴブリンとスライムたちが整列。
『ピピピ!』
気を付け?
『ピピピピピッ!!』
前にならえ?
「凄いじゃないか、通常モンスターがスラブリンの指示を聞いてる!?」
「スラブリンは、スライムとゴブリンの生成コードから【合成】されて生まれたモンスターです。各種族に通じた何かを持つのでしょう」
ナカさんが説明。
「加えてゴブリンには群れで行動する習性があります。リーダーとなる個体を選抜して服従するんだとか。そうしたゴブリンの特性を引き継いだスラブリンは、もう一つの素材だったスライムまで指揮下に置くようになったのですね」
まさかスラブリン。
俺たちが地上に出かけてる間に頑張って既存モンスターを指揮下に置いたのか?
「凄いなよく頑張った!」
『ピピピピピ!』
ん? どうした?
スラブリンが何か主張しているような……!?
「マスター、もしやスラブリンは戦いたがっているのではないでしょうか?」
「何ッ!?」
「既存モンスターを現場指揮できれば、より効率的な侵入者迎撃を行えます。スラブリンも、このダンジョンで生まれたモンスター。マスターのお役に立とうという意志があるはずです」
えッ? スラブリンを戦いに!?
しかし戦いになったら当然、冒険者に倒される危険性があるし、倒されたら死んじゃうじゃないかッ!?
そんなの嫌だ!
「スラブリンが倒されるのが嫌なら、こういう方法はどうです?」
何?
「レベルアップさせるのです。強くなれば侵入者に倒される可能性も低くなりますし、ちょうどいいかと」
そんなことができるの!?
是非やってくれ!
「ダンジョンが保持するモンスターのレベルアップ法は二つです。まず一つは、モンスター自身に侵入者を倒させること。それで経験値が蓄積されモンスターは強くなります」
「それじゃあ結局弱いうちに危険にさらすリスクがあるな」
あんまりやりたくない。
「もう一つはダンジョンに蓄積される心象エネルギーを直接送り込むことですね。こっちの方が割と簡単に強くできます」
「そうしよう!」
今貯め込んでいる心象エネルギーを全部スラブリンに注ぎ込もう。
それでレベルいくつにまで上がる!?
「あと万全を期すならば、復活モンスターとして登録しておきますか?」
「復活モンスター!?」
「高レベルのものなど、貴重になったモンスターを失いたくないと思うことはありますから。それに対する保険のような機能です。復活モンスターにエントリーしておけば、万が一倒されてしまったとしてもレベルそのまま復活することが可能です」
「加入します!」
「復活枠に登録すると、その分心象エネルギーを支払うことになりますがよろしいですか? 実際復活するとなったら、さらに大量の心象エネルギーを消費しますし……!」
「お願いします!」
躊躇のない俺だった。
すぐさまスラブリンに心象エネルギーが注ぎ込まれ、ガッツンガツンレベルアップしていく。
そしてこんななった。
スラブリン
【レベル】:24
【HP】:12400
【MP】:900
【筋力】:57 【敏捷】:63 【知性】:249 【魔力】:145
【保有スキル】:再生(S) 分裂(S) 指揮(A) 和ませ(A)
「ちなみのマスターが保有するモンスターはこうしてパラーメータチェックすることが可能です。これでモンスターの強さを正確に見極め、侵入者撃退に役立ててくださいませ」
「もっとレベル上げられない!?」
「これくらいにしておきましょう。少しは心象エネルギーを残しておかないと。万一やられた時に復活できなくなりますよ」
悩ましいな。
しかしこれだけ強くすれば、敗けることなどまずあるまい。
こうして万全の状態を整えてから、スラブリンの初陣が近づく。
俺のダンジョンはまた一歩進化を伴おうとしていた。