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15/63

14 成果が挙がってきたので

【保有イド】:7810


「滅茶苦茶上がったあああああああッ!?」


 ダンジョン最奥にて、驚嘆の声を上げる俺。


 いや貯まったな!?

 始めてからまだ数日と経ってないんだが!?


「すべてマスターの手腕です」


 傍に控えるナカさんが恭しく言う。


「侵入者の心情を操り、もっとも効率的に心象エネルギーを吸い出す。マスターはその点をこの上なく実行したのです。成果が上がって当然です」


 口ぶりこそ冷静だが、なんかそわそわした雰囲気が伝わってくる。

 心の奥底では嬉しさが渦巻いているようだ。


「だって! こんなに早く一万イド近くの心象エネルギーを貯められるなんて思いもしなかったんですもの! マスターは凄すぎます! アナタのようなお方をマスターに迎えられるなんて、待ってた甲斐があった!!」

「あ、冷静さが崩れた」


 取り繕いも長く続かなかったな。

 でもこんだけナカさんが浮かれてるってことは、この期間でのこの収入は凄まじいということなんだろう。


 俺は別に特別なことをした覚えもないし、ダンジョンマスターの才能があるという気にもならない。

 心象エネルギーを得るためにはダンジョン内の冒険者の感情を昂らせる必要がある。


 俺は自分が冒険者だった頃から他人の顔色を窺っていたので、他人の感情の変化に敏感だったというだけのことだ。


 それでもヒトが笑顔になるのは嬉しいがな。


 今のところ大きな心象エネルギーを発生させるのに一番手っ取り早いのは、レアアイテムを与えて喜ばせることだ。

 宝箱を開け、狙い通りのアイテムが出てきた時の冒険者たちの感動は格別だ。


 それを眺める俺まで嬉しくなるし、実益(心象エネルギー)も伴うんだからなおいい。


 最初俺は、ダンジョンの奥底に置き去りにされて破れかぶれで、ダンジョンマスターになったのも勢いの上でだった。

 しかしこうして続けていくと、案外俺ってダンジョンマスターに向いてる性格なんじゃないかと思えてくる。


「しかしマスター、浮かれすぎてはいけません!」


 さっきまでピョンコピョンコしていたナカさん、表情をキリッと引き結ぶ。


「これだけ得た心象エネルギーを適切に運用し、さらなる大量収拾に繋げなければいけません! どう使いましょうマスター!」

「そうだなあー」

「イドショップで新しい生成コードを購入いたしますか? それともダンジョンを拡張しましょうか? やることは多うございますよ!」


 たしかに。

 できることがたくさんあるからあれもこれもと無秩序に手を出していくと、多少貯まった心象エネルギーなどあっという間に使い尽くしてしまいそうだ。


 破産しないためにもよく考えて、計画的に使用していかないとな。


「とりあえずイドショップで何か買うのはナシだなー」

「そうですか……!?」


 だってショップで売ってる生成コード軒並み高いじゃん。

 モンスターの生成コードが一体一万イドとかするし。

 数日で何千イドと集まったのは奇跡的かもしれないけれど、それでもイドショップで買い物するには最低一万イド以上を保有してからじゃないと。


 宝箱に入れる宝物とかも、しばらくはオアンネス槽と【合成】でやりくりしていった方がよかろう。

 節約、節約。


「ならばダンジョンの拡張に振りますか? 防衛力も強化しなければなりませんし」

「そう?」


 いる?

 ダンジョンに防衛力?


 そう思うのは俺が冒険者として、かつてダンジョンを攻略する側だったからか。


「マスターはダンジョンを防衛することにあまり興味がなさそうですね。【合成】で生み出したスライムも一向に出撃させませんし」

「だって出撃させたら危ないじゃないか!!」


 俺は当のスラブリンを抱きしめながら叫ぶ。


 出撃させて、冒険者と戦って、敗けたら死んでしまうかもしれないんだぞ! そんなの絶対ダメだ!!


「何のためにモンスター生み出したんですか……?」


 ナカさんに呆れられた。


「お言葉ながらマスター。ダンジョンの防衛は必要不可欠です。特にこの最深部まで来させては絶対いけません」

「なんで?」

「侵入者が最深部まで到達したらダンジョンマスターの座を奪い取られるからです」


 おおう。

 何となく予想していたがやっぱりか。


「本来ならまず最下層で、ダンジョンマスターが待ち受ける『聖域』への境界を塞ぐガーディアンを倒し、その上で『聖域』に突入してダンジョンマスターを倒せば、新たにそのものがダンジョンマスターになれます。ダンジョン自体も簒奪者のものです」

「俺は倒してないけど……?」

「マスターの際は先代不在でしたので、ガーディアンを倒しただけで認められたのです」


 そうかぁ……!?


 そういえば、俺がここに来る途中に奇跡で倒したガーディアンって……。


「ガーディアンはまだ修復が完了していません。なので今侵入者が最下層へ到着したら、即座にマスターみずから迎撃に出なくてはなりません」

「ヤバい!」


 これでも直接戦闘なんてまったくできない元サポート職!

 最下層まで来れる猛者と戦ったら余裕で死ねる自信があるわ!


「そうならないためにもダンジョンの防衛力を高めておかなければなりません。本来ならガーディアンを配置しておくだけで充分なのですが……」


 そのガーディアンをマスターみずからぶち壊してちゃ意味ないよ!


「とりあえず、このダンジョンは今まだ無価値とみなされていますので、好き好んで下層まで進んでくる者はいないでしょう。その点ではまだ安全と言えましょうが……」


 しかしダンジョン内に価値ある宝箱をバラまいていると『もっとないがや?』とか言って下層までくる連中が出てきそうだな。


 そういうのが最下層まで到達し、門番なしの境界を素通りして『聖域』に入り、俺と遭遇……!?


「絶対やめて!?」

「とりあえず宝箱を地下一階二階に集中して置いておきましょう。三四五階と何もなければ途中で諦めて引き返す可能性が高くなります。それで時間は稼げることでしょう」


 なるほどナカさん機転が利くぜ!

 そうして余裕があるうちに防衛体制を整えろと言うんだな!?


「防衛には、一番正統的なのは罠を配置し、モンスターを増やすことです。いずれも量質共によいものを揃えれば充分な防ぎになります」

「でもあんまりガッチガチに防ぎすぎてもダメなんじゃない?」


 ダンジョンマスターの目的は侵入者から心象エネルギーを収集すること。

 あまり極悪難易度すぎると、冒険者たちも諦めてしまうダンジョンに寄り付かなくなる。

 そして廃れる。


「そうですね。なので一般的には境界を敷くのがよろしいかと」

「境界?」

「ある一定の階を境にして、そこまでは歓迎エリア、そこから先は排除エリアと区切るのです。侵入者たちもいきなり危険が格段に増せば、あえてそこに入り込もうとはしません」

「あー」


 そういえば……。

『枯れ果てた洞窟』以外のダンジョンに潜った時そんな感覚を経験したような。


 よくわからないがある決まった階層から先に進むと『別ダンジョンか!?』と思えるほどにモンスターの強さも罠の凶悪さも殺意に溢れたものとなる。


 あれにはそういう意味があったのか。


「他に有効な手段があるとしたら……単純に階層を増やすことですね」

「そうだねー」


 それは俺も聞いただけで納得いった。

 階層が増えるってことは、それだけスタートからゴールまでの距離が延びるということだ。


 それは意外と冒険者にとってしんどいことで、持ち込みのアイテムや食料も帰りの分まで計算しないといけないからけっこう早めに引き返すことになる。


 平和的……という点でも良策だ。


「階層は心象エネルギーを支払うことで加増できると言ってたな?」


 値段によっては率先してとるべき手かも。


「一階層追加するのに心象エネルギー何イドいるの?」

「十万イドです」

「高すぎるッ!?」


 モンスターやレアアイテムの生成コードよりさらに高額ではないかッ!?

 いやでも、ダンジョンの骨子って階層だから、階層が増えることでできることも格段に上がるし……。

 それを考えたら適正価格なのか?


「でもどっちにして今の財力じゃとても手が出ない。未来の課題だな」

「そうですね」


 こうして防衛策について何もいい手が浮かばないのだった。

 やっぱりコツコツ買える範囲の罠やモンスターを配置していくのがいいのかな?


「しかし……、防衛もいいがそれを置いといて……!」

「はい?」

「早急に解決したい事柄がある」


 それはダンジョンマスターである俺自身の……。

 住環境を整えること。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョンマスターが善人過ぎてこのままダンジョン経営していけるか不安だ・・・ あの馬鹿も殺せなさそう
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