12 準備が整ったので
「マスターの【合成】は本当に素晴らしいですわ」
そして現在。
ゴブリン撃破に勇み立つ冒険者をモニタ越しに見届ける俺。
「よかったなあアジールくん、最初の攻略がケチがついてずっともがいていたからなあ」
俺もつい数日前まで冒険者だったんだ。
彼とはギルドで何度もすれ違ってきた。そのたび顔が幽鬼のようにやつれていくのが印象に残っていた。
「彼が窮地だったのは運が悪かっただけだ。本来なら一人前の冒険者になれる実力も心持もある」
彼のような男に、最初の鉄晶剣が渡ってよかった。
鉄と水晶が合わさった剣なので鉄晶剣。
顔見知りだからと言って安易な施しなどしない。
彼が最初に鉄晶剣を得た幸運は、彼自身のツキが手繰り寄せたものだ。
「とにかく、これで必要なものは揃いましたわね!」
俺の横でナカさん、張り切った声を上げる。
「侵入者を誘い込むための宝! 行く手を阻むためのモンスター! 特別以上のものを得るには随分時間がかかると思っていましたが、即座に備えられるなんて! まさにマスターの手腕ですわ!」
いえいえ。
しかしこれで、お宝目当てに押し寄せてくる冒険者たちからガンガン心象エネルギーを集めることができる。
それを元手にしてさらにダンジョンを強化することができる。
さきを想像すると楽しくなってきた!
「では本格的にダンジョンを攻略するにあたり、こちらをご覧くださいマスター」
「うん?」
ナカさんがモニタの映像を切り替え、狂喜乱舞するアジールくんが消え去る。
代わりに出てきたのは……。
表?
『西淵』ヴィルハクシャ
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【ダンジョンランク】:E
【階層数】:8
【規模】52
【建造実績】:0
【清潔】:87
【設置可能宝箱数】:4
【罠数】:0
【配置可能モンスター数】:34
【総合武力】:38
【保有罠】:なし
【保有モンスター】:スライム×17 ゴブリン×15 スラブリン×1
【保有イド】:9
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「これは……!?」
「このダンジョンのパラメータです。マスターが新たに就かれたばかりですので、まだまだ軒並み低いですね」
おおう。
でも、俺がこれから頑張ってダンジョンを強化すればするほど、これらの数値が上がっていくわけだな!?
やる気が上がるってもんさ!
「【階層数】や【設置可能宝箱数】、【配置可能モンスター数】などは心象エネルギーを支払うことで増やすことができます。モンスターは何体でも保有できますが、一度に出撃できるのは配置可能数までとなりますのでご注意を」
なるほど大体わかった。
「【規模】と【建造実績】はダンジョンの改造を行うことで自然に上がっていきます。【規模】の数値が高いほど広大なダンジョンになり、【建造実績】が多いほどよく手が加えられているということになります。【総合武力】は保有するモンスターと罠の数と強さに影響を受けます」
大体わかった。
「ここまでで何か質問はありますでしょうか?」
「ないでーす」
よし!
ではこれからついに俺のダンジョン本格始動だな!
「ではまず鉄晶剣を量産しよう! アジールくんから話を聞いて、多くの人がそれ目当てに押し寄せてくるはずだからな!」
ケチケチせずに大盤振る舞いしてしまおう!
欲しいヤツに行き渡ることには心象エネルギーも大いに貯まって新しい宝物やモンスターを生み出せるようになっているはず!
一気呵成で稼ぎまくるぞ!
「無理です」
「あれええええええッ!?」
と思っていたのに出鼻を挫かれたッ!?
どうして!?
「パラメータの一番下をご覧くださいマスター」
「一番下?」
パラメータの一番下というと……。
【保有イド】:9
ってとこか。
ん?
「ほゆういど……きゅう!?」
たったの九!?
心象エネルギーがたったの九イドしかないってこと!?
「なんで!? ああ、俺が新ダンジョンマスターとして始まったばかりだから!?」
「それもありますが、先ほどまでのエキドナ炉稼働で消費がかさみましたね」
「え?」
ナカさんの話によると、主不在中でもこのダンジョンは最低限活動するために心象エネルギーの収集は行われていたという。
アドミンであるナカさんが差配して僅かながらにスライムとゴブリンを徘徊させ。
僅かながらの心象エネルギーを蓄積していたらしい。
そうやってコツコツ貯めてきた心象エネルギーであったが、さっきスラブリンを作ったり鉄晶剣を作るのにエキドナ炉を動かし、それでスッカラカンに……。
「残ったのが九イド!?」
端数じゃないですか!?
「これではさすがにもうエキドナ炉は動かせません。最低限また心象エネルギーが蓄積されるのを待たなければ……」
そんな!?
ついさっきリニューアル宣言したばかりなのに!
アジールくんから噂を聞いて駆けつけた冒険者たちが『なーんだ、いつもと同じじゃないか嘘つきめ』って失望される!?
「あッ、ちょっと待ってください?」
「どうした!?」
ナカさんの注目する先を、俺も視線で追う。
そこには例のダンジョンパラメータが。
そして一番下の欄……。
【保有イド】:117
「んっ!?」
なんか変わってる?
さっきまで9だったのが……。
「増えてる!? なんで!?」
「どうやら彼のおかげのようですねえ」
また画面が切り替わる。
そこにはダンジョン入口周辺で、まだ喜び飛び跳ねているアジールくんの姿があった。
『きゃほー! やったぁー!!』
まだ興奮冷めやらぬのか、今なお新しい剣をもって飛び跳ねている。
そんなに嬉しかったの?
「新たに蓄積された心象エネルギーは、彼がくれたものです」
「え!?」
「心象エネルギーは、感情に大きく影響を受けます。怒り、悲しみ、喜び……、いかなる感情であっても大きく高ぶることでより大きな心象エネルギーが生まれ、ダンジョンの糧になっていくのです」
すると、この一気に百イド以上増えた心象エネルギーは……。
アジールくんが新しい剣を得た喜びによって生まれた。
「ふぉおお……!? そんなに喜んでくれたら俺も頑張った甲斐があるもんだが……!?」
「大きなリターンを狙っての、限られた心象エネルギーを大盤振る舞い! さすがの計略ですマスター!!」
いや、そんなに狙ってやったわけじゃないんだが……!?
なるほど、心象エネルギーというのはこうやって収集していけばいいのか。
心のエネルギーは、感情の揺らぎによって大きくなる。
なればダンジョン内をスリルとサプライズでいっぱいにし、冒険者たちの感情を大きく揺さぶるんだ。
そうすれば効率的に多くの心象エネルギーを得られる。
コツがわかってきたな。
よし、そうとなったら得たばかりの心象エネルギーでエキドナ炉を稼働させ早速、鉄晶剣を作り出すんだ。
既に合成されたコードはエキドナ炉に記録されて、何度でも使用可能。
とりあえず現状の設置可能宝箱数、四に満ちるだけ、作ってみるか!
さあ、忙しくなりそうだぞ!




