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00 置き去りにされたので

 ここはどこだ?


 俺は誰だ?

 俺は冒険者アクモ。

 うだつの上がらぬ三十一歳。


 よし、そこはわかるな。


 で、ここはどこだ?

 わからん!


 よし、落ち着いて思い出せ。

 最初から思い出せ。


 俺は冒険者。

 つまりはダンジョンに潜ってお宝漁りするのが仕事。


 今日も俺はお勤めのためにダンジョンへ入った。

 現地で結成したパーティと共に。


 剣士バギンザ。魔導士テルス。回復術師ラランナ。それからレンジャーのゼルクジャースさん。

 皆いたはずだ。


 今は俺一人。

 周囲の岩肌を撫でて、今も自分がダンジョンの中にいることを確認する。


「……これってヤバくね?」


 凄くヤバい。

 ダンジョンの中で仲間とはぐれ、孤立したってことか?


 剣士や魔導士といった戦闘職ならともかく、俺はしがないサポート職。

 ダンジョン攻略を円滑に進めるための後方支援が本職で、個人的に有する戦闘力などほとんどない。


 単独でモンスターに取り囲まれでもしたら、どうしようもないってことだ。


「どうしてこんなことに……!?」


 これでも冒険者歴十年以上。

 ロクに成果もなく誇れる経歴などないが、それでもここまでしぶとく生き残ってきたからには『生き残るための作法』的なものをしっかり我が身に叩き込んできたつもりだ。


『サポート職は前衛職から離れてはいけない』


 これもまた生き残るための絶対的な鉄則であったはず。

 だから俺は、今日も剣士バギンザの背中を決して離れることなく……。


「……あ」


 そこで思い出した。

 ダンジョンで行動を共にしていた剣士バギンザの言葉を。


 ――『お前が悪いんだからな!』

 ――『お前みたいな無能がまとわりついていたら、オレはいつまで経っても先に進めないんだよ!』

 ――『無能は存在自体が周りの迷惑なんだよ! 恨むなら、才能がないのに見切りをつけない自分の見苦しさを恨むんだな!』


 ……そんな声が上の方から降ってきた気がする。

 そして気を失い……、目覚めて……今。


 そういえば、なんか頭がズキズキ痛む。


「殴られた……!?」


 そうだ。

 いつもは常に前を歩いているバギンザから『何かあるぞ、確認してくれ』と強引に前を歩かされて……。

 罠を警戒し、発見した場合は解除するのもサポート職の仕事なれば、ああ言われて拒否するわけにもいかない。


 そうしてムザムザ前を歩いた隙に、後ろからガツンと……。

 つまり……。


「アイツは俺を死なせるために……!?」


 わざとダンジョンに置き去りにした?


 そういえばバギンザは、事あるごとに俺のことを目の敵にしていた。

 俺のことを役立たずと決めつけ、俺のせいで分け前が減ると愚痴っていた。


 他でもない俺自身の前でもかまうことなく。


 そうした憤懣が積もり積もっての実力行使?

 バカな。ギルドに知られたら冒険者資格はく奪じゃ済まないぞ?


「つまり……、罪に問われない自信があるってことだな?」


 ヤツの行為を申告する者がいなければ、ヤツの暴行罪も殺人罪も成立しない。

 この場にいたのはヤツと俺だけ。


 俺が生きてギルドに戻らない限りは、ヤツの犯罪は存在しないということだ。


「ということは……」


 バギンザは、絶対の自信があって俺を置き去りにしたってことだよな?


 所詮しがないサポート職。

 たった一人でダンジョン内をうろつくのは自殺行為だ。スライム三匹に取り囲まれたぐらいから余裕で死ねる。


 バギンザだって、俺を確実に殺すつもりなら入り口近くで置き去りにするような間抜けはすまい。

 そういえば今日は珍しく『深層まで探索しようぜ』などと言っていたが、真の目的はこれだったか……。


 できるだけ深く潜り、俺を置き去りにして、地上へ戻ることなく野垂れ死にさせるように……。


 たしかにダンジョン入口へ戻ろうとするのは自殺行為だな。


 必ずどこかでモンスターと遭遇し、囲み殺されることだろう。


「それなら……!」


 俺は、それまで見ていた方角とは逆を向いた。

 そっちはダンジョンの奥。


 誰も踏み込んだことのない最下層へと続いている。


 行けば生きて帰ってこれぬと言われる魔境。

 しかし今の俺にとって戻るも同じ死だ。


「だったら……!!」


 俺は進みだす、前へ。


 俺はダンジョン最下層へと向かった。

新作です。

よろしければお付き合いください。


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評価は下の『☆☆☆☆☆』からです。


初日は複数話投稿しております。

それではどうかお楽しみに下さい。

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