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第57話『銃』

勇者パーティー襲来から、数日が経過したある日。

俺はいつものようにベルゼと模擬戦を行おうと闘技場に来た訳だが····。


「何でマモンが居るんだよ!?つーか、ベルゼはどこ行った!?」


現地集合が多いため、何の違和感も抱かずにいつもの時間に闘技場に来たが、そこで待っていたのは黒髪美人ではなく─────────青髪の少年だった。今日も今日とてブカブカの白衣を身に纏う少年はルビーの瞳に俺を映し出す。俺の姿を目視した途端、マモンの目が僅かに見開かれた。

そういやぁ、マモンと会うのは三日ぶりくらいか?朝日との再会以来、顔を合わせてなかったからな。マモンが俺を避けていたのか、互いに忙しかっただけなのか····。まあ、理由なんてどうでもいいか。

それより、今重要なのは──────────何故、ここにマモンが居るのか。そして、何でベルゼが居ないのか、だ。


「マモン、ベルゼを知らないか?それから、何でお前はここに居るんだ?ここって、しばらく俺の訓練のために使われるんだったよな?」


「····ベルゼはルシファーの命令で少し出掛けてる。んで、僕がお兄さんの訓練に付き合うことになったって訳」


「えっ?マモンが俺の訓練に····?」


「そっ。まあ、僕が教えるのは───────剣じゃないけどね」


マモンが俺の訓練相手?それに教えるのは剣じゃない?

お前はベルゼの代理として、ここに居るんだよな?剣以外に教えることなんて·····。

訳が分からず、考え込む俺の前でマモンは懐からグレーの拳銃を取り出した。

銃···?何で銃なんて·····!!

俺の持つ拳銃とよく似た形をするそれはマモンの小さな手に収まっている。トリガーガードに白衣の上から指を差し込み、クルクルと回して遊ぶマモンは拳銃への警戒心や危機感は0だ。


「僕が教えるのは──────────銃の扱いについてだよ」


マモンが俺に教えるのは剣術ではなく銃の扱い方····。

拳銃の扱いに不慣れな俺を気遣って、ルシファーか誰かがマモンにお願いしたのだろう。拳銃の扱いを俺に教えるよう、な····。

マモンは回していた拳銃をピタッと止め、その銃口を俺へと向けた。

え、はっ!?何で俺に銃口向けてんだよ!?危ないだろ!!


「お、おい!いきなり、拳銃をこっちに向け····」


「────────お兄さんはさ、何でこの短期間で覚悟を決められたの?」


俺が朝日を切り捨てる覚悟をしたと見事見抜いたマモンは僅かに眉を顰めた。ルビーの瞳には見えない赤い炎が宿っている。

何でこの短期間で覚悟を決められたのか、ねぇ····。

探るようにこちらをじっと見つめ返してくるマモンからはただならぬオーラと気迫を感じた。

はぁ····んな探ろうとしなくても、答えやるっつーの。別に隠すようなことじゃないしな。


「別に大したことじゃねぇーよ。自分の一番大切なものが何なのか再認識しただけだ」


「一番大切なもの····」


「ああ、そうだ。俺はウリエルを救うためなら、朝日を切り捨てられると判断した。だから、覚悟が決まったまでだ」


そう、俺はただ朝日よりウリエルの方が大切だと判断しただけだ。別に特別な理由でもなんでもない。どっちの方が大切かと己に問うただけのこと。そんな事なら誰でも出来る。

マモンは俺の何の捻りも無い返答に僅かに目を細め、ゆるりと口角を上げた。


「ふ〜ん?なるほど〜?お兄さんがウリエルちゃんのこと大好きなのはよく分かったよ〜」


「だ、大好きって···そんなんじゃねぇーよ!」


「えぇ〜?違うの〜?照れなくても良いじゃんか〜」


青髪の少年は俺を茶化すと、楽しそうにケラケラと笑った。俺に向けていた銃口を下ろし、再びクルクルと拳銃を回し始める。拳銃を玩具としか思っていないマモンの反応と態度に俺の方が焦ってしまう。

俺よりもまず、こいつに拳銃の扱いを教える必要があるんじゃないか!?誤って、引き金を引いたら危ないだろ!!


『大丈夫ですよ。マモンが持っているのは魔力銃です。使用者本人に『撃つ』という明確な意思がなければ魔力銃は引き金を引いても、弾が出ません。なので安全で····』


安全な訳ないだろ!!むしろ、危険しかないだろ!!誤射が無いのは確かに有り難いが、マモンなら本気で俺を撃ちかねない!!


『·····まあ、その可能性は否定しませんが····』


否定しないのかよ!?いつもみたいに長ったらしい説明を混じえて否定してくれるものかと思ってたんだが!?

実はちょっと否定して欲しかったなんて口が裂けても言えないが、ビアンカの返答に俺の不安は煽られる。

マモンは朝日の腕を何の躊躇いもなく、へし折った奴だ。俺を本気で撃とうとしないなんて、言い切れない。そんな保証もない。

身構える俺の前でクルクルと拳銃を回し続けるマモンはふんわり笑う。


「ま、理由がなんであれ捨てる覚悟が出来たのは良い事だよ。お兄さんは僕が思っていた以上に芯の強い人だってことも分かったしね〜。さて────」


どこか嬉しそうに····昔を懐かしむみたいに目元を和らげるマモンはクルクル回していた拳銃を上へと投げた。パチンッと指を鳴らして、サッカーボールほどの大きさがある魔法陣を複数投影する。青白く光るそれが適当な位置に固定された瞬間──────すぐに壊れた。

比喩表現でも何でもない。本当にすぐ壊れたんだ。

パキンッと短い悲鳴を上げて、壊れた魔法陣は幻かのようにすぐに消え失せる。

どういう····ことだ?今、何が起きた?マモンは一体···何をしたんだ?


『マモンは宙に投げた拳銃をキャッチして、先程投影した魔法陣──────(まと)を正確に····そして、素早く破壊しただけです。音羽の想像するような凄いことは何もしていません』


いや、充分凄いだろ!!なんつー速さで魔力銃を····!いや、それだけじゃない。的に銃口を合わせるまでの時間や狙いの正確性、銃に込める魔力量の調整など····全てが的確で、とにかく早かった。

銃の腕は確かみたいだな····。

マモンはポカーンと口を大きく開ける俺を愉快げに見つめ、拳銃を持つ方の手でヒラヒラと手を振ってくる。


「お兄さんの顔凄いことになってるよ〜?大丈夫〜?ていうか、今の見た〜?」


「見えなかった····マモンが拳銃を手にする瞬間すらも、な」


「ははっ!だろうね〜。結構本気でやったから、見えなくて当然だよ〜。むしろ、見えてたらビックリ!」


「お前な····」


俺は素人なんだから、もう少しお手柔らかに頼むぜ···。見えないんじゃ、マモンから何も学べないじゃないか。学問とは見て、聞いて、実際にやって身につけるものだ。技を見て盗むって言葉もあるくらいだから、『見る』という行為は何かを学ぶ上で大切なものと言える。なのに、こいつは····見せる気皆無だったよな!?確実に!!


「はっはっはー!お兄さん、そんな怖い顔しないでよ〜!ちゃ〜んと教えるからさ!」


「本当だろうな····?」


「もっちろーん!僕、これでも教えるの上手だから期待していいよ?」


白衣の裾で隠れた手を胸に当て、ドーンと胸を張るマモンだが····正直不安しかない。期待も何も不安しかないんだが····?いきなり、実践練習とか言って撃ち合いをおっ始めるつもりじゃないよな····?マモンなら有り得そうで怖い····。マモンが先生とか、恐怖でしかないんだが···!?

不安がる俺を前にマモンは自信満々にニッコリ笑う。


「じゃあ、まずは─────────銃撃戦を実際にやってみよう〜!おー!」


グッと右手拳を上に突き上げるマモンはやはり····俺の期待を裏切らなかった。

もうなんか色々勘弁してくれ·····。

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