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第55話『酷い奴が良かった』

なんだ?今のは····。転移系の魔道具か何かか?

勇者パーティーのメンバーの一人が床に小さなボールを叩きつけた途端、眩い光が発生し、朝日達が消えた····。転移系の魔道具の仕業と見て、間違いないだろう。


「っ·····!!取り逃したか····!!」


「説得なんて考えず、すぐに殺しておけば良かったわ!」


説得····?そうか。だから、ベルゼとアスモは勇者パーティーをすぐに殺さなかったのか。このメスゴリラ二人なら、朝日やその仲間たちを殺すことくらい朝飯前だろう。朝日に関しては戦意や敵意すら抱いていなかったからな。殺すのは容易だった筈だ。

職業能力に制限がある俺を使うより、朝日を味方に引き込んだ方が絶対に良い。依代を破壊出来る者が二人居れば作戦にも幅が出るだろうしな。

だから、説得を試みたアスモの判断は間違ってなかった。まあ、正解とも言えないが····。

一番不味いのは勇者パーティー····いや、勇者(朝日)を取り逃がすこと。朝日のレベルや実力が低いとは言え、あの聖剣を扱えるあいつは魔族にとって脅威だ。油断ならない相手である。

それに取り逃がせば、朝日に力を蓄える時間を与えることになる。極論、レベルが低くても剣の腕さえ磨けば朝日はルシファーに勝つ可能性があった。ルシファーの話だと、あの聖剣に首を跳ねられれば高確率で死に至るらしい。マモンなどの不老不死の存在でも死ぬ可能性は0じゃない。なんせ、あの聖剣は女神様が創った最強の剣だ。脅威となりうるのは必然と言える。

全てを切り裂く聖剣、か····本当女神様は恐ろしいものをお創りになる。


「はぁ····過ぎてしまったことをあれこれ言い合ったって仕方ない···。私は魔王様に報告に行く。アスモは魔王軍の指揮を頼む。あと、マモンはきちんとオトハを部屋へ送り届けろ」


「分かったわ」


「はーい!」


一番冷静を失いそうなベルゼが素早く指示を飛ばし、風に乗って消える。アスモのように転移魔法は使わずにその足でルシファーの元へ行くようだ。相変わらず、すげぇスピードだな····。

ベルゼかここを走り去る際、ブォン!と巻き起こった風に黒髪を揺らしながら、俺は苦笑を漏らした。もう背中が見えない····あいつ、時速何キロで走ってんだ?


「精鋭隊と一番隊は魔族領周辺の捜索。もし、民に何か異常があればすぐに連絡してちょうだい。二番隊と三番隊は─────────」


真っ赤なミニドレスに身を包むアスモはマシュマロのように柔らかそうな巨乳を左右へ揺らし、腰に手を当てる。モデル顔負けのポテンシャルの高さと体型だ。立っているだけで絵になる奴なんて本当に居たんだな。

アスモの周りに集結する鎧姿の男達は美女の言葉に懸命に耳を傾ける。時々彼らの目線がアスモの胸に行くが、まあ····健全な男の子なら仕方ないだろう。アスモの格好にも問題があるしな。胸に目が行くのは仕方ない。

むっつりスケベな隊員たちに半笑いを浮かべ、さっきからこちらをじっと見つめるルビーの瞳に視線を移した。


「·····お兄さんって───────────意外と肝が座ってるね。この状況でヘラヘラする人って、そうそう居ないよ」


「·····」


「ま、いいや。部屋まで送るから、ついてきて〜」


どこまでも曖昧に····迷いを残しながら、ヘラヘラする俺に青髪の少年は不快感を露にした──────が、すぐにニコッと無邪気な笑みを浮かべる。ルシファーとはまた違う蝶のようにフワフワした存在に俺は何も言えなかった。

多分、マモンは────────俺を嫌っている。

煮え切らない俺を····優柔不断な俺を····迷いながら進む俺を····こいつは恐らく心底嫌っている筈だ。

どこまでも淡々としているマモンとはある意味正反対の人間だからな、俺は。

俺の本質を既に見極めているマモンは笑顔という仮面を被り、本音(素顔)を隠した。

それがもどかしく感じる反面、安堵してしまった俺は多分──────────凄く嫌な奴なんだと思う。


「ねぇー!お兄さん、早くー!置いてっちゃうよ〜?」


階段を登り切ったマモンがこちらを振り返り、白衣の袖に隠れた両手を左右にブンブン振り回した。子供のように無邪気に振る舞うマモンは俺にニッコリ笑いかける。

赤にも似たマゼンダの瞳には───────もう何の感情も浮かんでいなかった。


「悪い。すぐ行く」


「はーい!」


俺が一歩前に踏み出せば、先を歩くマモンも歩き出す。青髪の少年は俺との距離を保つように決して距離を縮めさせてはくれなかった。これが俺とマモンの距離であり、越えられない壁でもある。

──────────マモンが示した明確な拒絶。

だけど、今の俺に文句を言う権利はない。

朝日を切り捨てられない俺にマモンの拒絶を指摘する権利などなかった。マモンとの距離を縮めたいなら、俺は朝日を切り捨てる覚悟をしなければならない。朝日を敵と認識し、排除する覚悟を固めなければならなかった。

だって、そうじゃなきゃ──────────マモンは俺を受け入れてくれない。

いや、マモンだけじゃない。きっと、ベルゼやアスモも····ルシファーさえも····。

俺は今一度自分の立場をきちんと理解する必要がある。

でも、俺に····俺なんかに·····。


「─────────朝日を切り捨てる覚悟なんて出来るんだろうか····」


一人言のように呟かれた俺の小さな小さな弱音は空気に溶け込んで消えて行く。マモンは俺の弱音に何か言うことはなかった。聞こえないふりをしてくれたんだろう。

この優しい沈黙が心地いいと同時にどこまでも苦しい。

俺はたった一人の女の子の命を救うためにこの世界を救うと決めた筈なのにな·····。

その気持ちに嘘はないし、今も変わらない。でも、朝日を····元クラスメイトを切り捨てられるか?と聞かれると、すぐに『うん』とは言えなかった。

俺と朝日はただのクラスメイトで····大して話したことも無い間柄だ。虐めとかはなかったけど····高校でも孤独なのは変わらなくて·····でも、それは朝日のせいじゃない。孤独なのは俺自身の責任だ。

俺の言いたいことを要約するとしたら····朝日は何の変哲もない俺のクラスメイトなんだ。良くも悪くもあいつはただのクラスメイトで·····憎んでもないし、嫌ってもない。

だから、多分──────────俺は朝日を切り捨てられないんだと思う。

もしも、相手が虐めっ子だったなら、俺はすぐに切り捨てる覚悟をしただろう。俺だって、人間だ。酷いことをしてきた奴に温情をかけてやれるほど、優しくない。


「·····朝日が酷い奴だったら····俺はきっと迷わず切り捨てられたんだろうな····」


でも、あいつは酷い奴なんかじゃなかった。異世界召喚に巻き込んでは来たが、それ以外に何かされた覚えはない。そう····本当に何も無かったんだ。あいつと俺の間には····本当に何も。


「─────────お兄さーん!考え事の最中に悪いけど、部屋に到着したよ〜!僕はこれから、仕事があるからもう行くね〜?」


「あ、あぁ。送ってくれて、ありがとう···」


「いいえ〜!んじゃね〜!ばいばーい!」


ぼーっとしている間に自室に到着していた俺はブンブン手を振って、走り去っていくマモンを見送る。ベルゼほどではないが、かなりの猛スピードで走り去っていくマモンはかなり異常だった。

魔王幹部って、皆ああなのか····?

魔王幹部の異常さに驚きを通り越して、呆れを覚えつつ、ドアノブに手をかける。観音開きの扉を片方開け放つと、目の前には異様な光景が広がっていた。

──────────な、何だこれ!?

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