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第30話『ワープゲート』

それから俺とウリエルはビアンカの案内の元、三キロ程度の道のりを休憩無しのノンストップで押し進み、土手沿いにある川に辿り着くことが出来た。時間にして僅か1時間の道のりだったが、やけに長く感じたな···。まあ、レベル上げのおかげで基礎能力である体力の数値は上がっているため疲れはしなかったが、ふくらはぎと太ももの筋肉が悲鳴を上げている。体力はあれど、筋力はない俺。明日は筋肉痛決定だなぁ···。

キラキラと太陽に反射して輝く川は綺麗で、川底までくっきり見える。それだけで相当綺麗な水であることが分かった。

川辺にあった小さめの岩の上に座り、一方向に流れる川の音に耳を傾ける。あー····なんか、川が流れる音って心が安らぐな。こう、穏やかな気持ちになると言うか···。川に手を突っ込んでキャキャッとはしゃぐウリエルの姿も相まって、かなり癒される。

あー····俺、ずっとこのままで良いかも····。


『休んでいるところ申し訳ありませんが、働いてもらいますよ』


えっ····。まだ川辺に来てから、10分も経ってないぞ!?もう仕事なんて····。ちょっとくらい休ませてくれても····。


『両足パンパンの音羽を休ませてあげたい気持ちはありますが、あまり悠長にもしていられませんよ。後15分もしない内にワープゲートが閉じてしまうので』


うお!?マジかよ!?それは困る!!何のために川のほとりまで来たと思ってんだ!!

そう───────この川辺まで来たのには理由がある。別に休むために来た訳では無い。ここには記念すべき一つ目のワープゲートがあったから、来たのだ。

で、そのワープゲートはどこにあるんだ?


『川の中····いえ、川の表面と言った方が正しいでしょうか?ちょうどウリエルが遊んでいるあたりの川の表面にワープゲートが出来ている筈で····』


「オトハー!ここ冷たくないよー?」


川辺で片手を突っ込んで遊んでいたウリエルがビアンカの声を遮って、声をかけてきた。無論、ウリエルに悪気ない。だって、ウリエルにビアンカの声は聞こえないからな。

ウリエルは片手を川に突っ込んだまま、こちらを振り返り、もう一方の手で手招きしている。

川に冷たくないところがある····?それって、もしかして····ワープゲートが繋がってる場所なんじゃ···。ビアンカも『ちょうどウリエルが遊んでいるあたりの川の表面に』って言ってたし。ウリエルが今触れている冷たくない川の表面部分がワープゲートである可能性は非常に高い。


「今、行く!」


俺は椅子代わりに使っていた岩から慌てて立ち上がると、濡れることも気にせず川辺にペタンと座り込む紫檀色の長髪幼女の元へ駆け寄った。

おお····髪と服がベチャベチャじゃねぇーか。後で体を拭いて着替えるよう言わないとな···。

なんてオカン思考に走りつつ、俺はウリエルの横にしゃがみこむ。さすがにウリエルのようにペタンと座り込む気はない。服が濡れるのは御免だからな。


「今、ウリエルが触ってるところが冷たくない場所か?」


「うん!ここだけ冷たくないの。なんかね、水を触ってる感覚もない!」


水を触っている感覚もない····ますます、ワープゲートである可能性が高まってきた。と言うか、十中八九ワープゲートだろう。

とりあえず、俺も実際に触って確認してみよう。触ってみないことには何も分からないし、始まらない。それにもう15分もしない内にワープゲートが閉じちまうみたいだしな。ここであれこれ考えている暇はない。

俺は身につけていた手甲をガチャガチャと音を立てて外すと、その下に装着していた黒の革手袋も脱いだ。汗でしっとりとした素肌が外気に触れる。その感触がやけに心地いい。炎天下の中、ずっと手甲+革手袋だったからなぁ····。いやぁ、めちゃくちゃ暑かった。

男にしては全くゴツゴツしていない比較的綺麗な手を水面へと伸ばす。引きこもりニート予備軍であった俺の手は白く、か細い。手だけ見れば女性に見えるほど····。そういやぁ、中学の頃同級生の女子に『若林くんって、男のくせに無駄に手綺麗でキモーい』って言われてたな····。これは後から聞いた話だが、その女子はバリバリのテニス部で手にタコやマメがあり、男顔負けのゴツゴツした手をしていたと言う···。恐らくゴツゴツした手がコンプレックスで、男のくせに無駄に手が綺麗な俺を見て嫉妬したんだろう。俺としてはいい迷惑だったがな····。

まあ、その話は置いておこう。今はウリエルが触れている場所がワープゲートであるかどうかを確認するのが先だ。

俺はわざとウリエルの手から離れた位置にある水面に触れる。まずは本物の川がどれくらい冷たいのか確認する必要があったのだ。

おっ?普通に冷たいな。異世界でも川の温度はあんまり変わらないんだなぁ···。

汗で蒸れた肌には気持ちいい、ひんやりとした川の温度が伝わって来た。ひんやりとした温度に頬を緩めながら、俺は川に突っ込んだ手をゆっくりと温度を確かめるように横へスライドさせていく。ウリエルが川に突っ込んだ手と徐々に距離を近づけていき、肌越しに伝わってくる温度と川に触れている感覚をきちんと確かめた。

今のところ、特に変化はない。

この時点で、俺とウリエルの手と手との距離は約30cmだが、まだ変化は訪れない。普通に冷たいし、川が流れていく感覚もある。

もう少し近づかないとダメってことか?

俺は現地点から更に20cmほどウリエルの小さな手との距離を縮めた。


「!?」


このとき、ようやく俺の手に変化が現れる。

冷たくない····!?それに川が流れる感覚がっ····!?

さっきまで確かに感じていた、ひんやりとした温度はなく、水に触れている感触もなかった。特にこれと言って、何かに触れている感覚はなく···強いて言うなら空気に触れている感覚あると言ったところだろう。それに····川に濡れた手の水滴が重力に従って下に落ちていく感覚が確かにある。

恐らく、これがワープゲートで間違いない!

問題はこのワープゲートと繋がっている場所がどうなっているのか。それとワープゲートの大きさだな。きちんと人一人通れる大きさなんだろうか?


『それに関しては問題ありませんよ。きちんと音羽が通れる大きさのワープゲートを選んでいるので。繋がっている場所や環境も問題ありません。多少段差がありますが、まあ····大丈夫でしょう。大した段差では無いので』


具体的な段差の高さを教えて欲しいところではあるが、そんな時間はないな。俺の体内時計がもうすぐ15分経つと言っている。ワープゲートの確認に時間を取られてしまったため、あまり悠長にもしていられなかった。


「ウリエル、説明は後である。だから、今は俺と一緒に川に飛び込んでくれ」


「えっ····?川?飛び込むの····?」


事情を知らない奴が俺の言葉を聞けば『なんだなんだ?心中か?』と疑う場面だが、ウリエルは俺の真剣な表情を見て何か察したらしい。『何で?』『どうして?』と言う言葉を飲み込んで、ただコクンと小さく頷いた。こういう物分りの良い子供は楽で助かる。ウリエルに後で謝る決意を固め、俺は彼女のお腹回りに腕を回した。腕力も大してない俺だが、気合と根性でウリエルを片腕で抱き上げ、脇に抱える。

くっ····!!重い····!!

抱っことはまた違う筋肉が使われるため、先日片腕で抱っこした時よりも重く感じられた。


『子供であっても、女に『重い』は禁句ですよ。それより、もうワープゲートが消滅します!早く飛び込んでください!』


分かった!!すぐ飛び込む!!

ワープゲートがこの川辺のどこからどこまでの大きさなのか分かっていないが、俺はウリエル小脇に抱えたまま川──────ワープゲートへ飛び込んだ。

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