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第10話『街』

その後、無事森を抜けた俺は街道から少し外れた場所で野宿で朝を迎えていた。さすがに魔族の娘を連れて宿屋に行く訳にはいかなかったからな。

魔王討伐を行うために異世界から勇者を呼び出すくらいだ、魔族と人族の仲はあまりよろしくないと思われる。

だから、あえて野宿で朝を迎えた訳だが·····。


「あの女の子、どこ行ったんだ?」


朝、容赦なく照りつけて来る太陽に起こされてみれば、どうだろう?

この黒い鎧とセットで付いてきた赤ワインのように真っ赤なマントを毛布代わりに掛けてやっていた魔族の少女は隣から消えていた。

トイレか?いや、トイレにマント持っていく馬鹿は居ないか。

てことは───────逃げられたな。

それも真っ赤なマントと一緒に。

いや、別にマントはなくても困らないが助けた礼もなしに居なくなるなんて、礼儀のなってない奴だ。


『それは仕方ありませんよ。あの子は助けてくれた恩人が貴方だと気づいていませんでしたから』


「えっ?マジかよ····」


それはちょっとショックだ····。

つまり、俺は幼い少女の隣に眠る変質者とでも思われていたのか····?ロリコン変態野郎とか思われてたら、結構ショックなんだが···。

根暗陰キャと呼ばれる分には構わないが、ロリコン変態野郎という汚名は頂けない。


『あの子の思考までは分かりませんが、音羽を警戒して逃げたのは確実ですね』


「マジかぁ····何で助けたのが俺って分からなかったんだ?」


『ああ、それはですね····。音羽と大男が戦闘している最中に怖くて気絶してしまったみたいでして···ほら、袋を被せられて視界も奪われていましたし···。あの子が唯一覚えているのは音羽の声だけです』


あぁ、なるほど····確かにその状況じゃ俺の姿を見れないよな。

それで朝目覚めたら、見知らぬ男が居たと···。その見知らぬ男が自分を救ってくれた大恩人だとは思うまい。

仮にその可能性を見出したとしても、そうでなかった可能性を考えて逃げる筈だ。敵かもしれない可能性が捨てきれない以上、あの子は逃げるしかない。

それに····お礼を言われたくて助けた訳じゃないしな。確かにお礼を言われた方がこっちも気分が良いし、『助けて良かった』って思えるけど、感謝されたくて助けた訳じゃない。そこは履き違えちゃ駄目だ。

あれは俺の自己満。自分勝手な正義を貫いた結果、たまたまあの女の子が助かっただけ。

そう──────ただそれだけなんだ。


「よし、今日は適当に買い物して回るか。腹も減ったし」


レベル上げやら何やらで忙しくて、昨日から何も食べてなかったからな。『ぐぅ』と腹の虫が切なげに鳴く。

俺はゆっくりと体を起こすと、『んー!』と大きく伸びをした。

とりあえず、今日は買い物とレベル上げだ。無職の特殊能力の事を考えるなら、引き続きレベル上げはしておいた方が良いだろう。とにかくレベルを上げて、生命力を増やすんだ。そうすれば無職の特殊能力が使える時間も増えるし、活動の幅もぐーんと広がる。


「ビアンカ。とりあえず、うまい飯屋に案内してくれ。あと、服屋と雑貨屋も」


『·····あの、私は道案内専用の天使ではないのですが···』


「そんなのは分かってる。でも、『エンジェルナビ』って言うくらいなんだから、道案内も仕事の内だろ?」


『·····否定はしません』


あっ、本当に仕事の内なのか。

ビアンカは若干不満そうだったが、仕事はきっちりこなすタイプの真面目な天使だったみたいで、最終的には『まず、街道に戻ってください』と指示を出してくれた。

指示された通り、街道目指して足を進める。

道案内くらいで、どうしてそこまで不機嫌になるんだ?たかが道案内だぞ?天界から指示出すだけなのにどこが不満なんだ?


『べ、つ、に!不満ではありませんよ。あと、不機嫌でもありません。勝手な被害妄想はやめた頂きたい』


そういや、こいつ····じゃなくて、ビアンカには俺の思考が筒抜けなんだったな。すっかり忘れてた。


『また『こいつ』呼びですか····好きですねぇ?本当···』


いや、今のは不可抗力だろ!あと、ちゃんと訂正したし!


「セーフだろ」


『アウトです』


きっぱりと言い切られてしまった。

はぁ····悪かったよ。昨日も言ったが、本当に『こいつ』呼びは癖みたいなものなんだ。わざと『こいつ』呼びした訳じゃない。

俺の周りにはどういう訳か、『こいつ』とか『あいつ』呼びする奴が多くて、それが俺に移ってしまったんだ。しかも、俺は移ってる自覚がなかったから、自然とその『こいつ』とか『あいつ』呼びが体に定着してしまい·····もはや、癖になってしまった。

意識してないと、すぐに『こいつ』とか『あいつ』呼びになってしまう為、直すのが難しい。

気をつけてはいるんだがな····。

だが、“癖”と言うものは手強いもので、そう易々と抜けてはくれない。そう考えると、“癖”って末恐ろしいよな。


『はぁ····とりあえず、事情は把握しました。あ、街道に出ましたね。その街道を右にずっと行ったら、街に出る筈ですよ。ご飯屋へのナビゲーションは街に着いてからやりますので、今はただ街道を右に直進して下さい』


「了解」


指示された通り、街道を右に直進する。

ドゥンケルの森と街はそこまで距離が離れていないので、ここからでも街の景色が目視出来た。

昨日はとりあえず、ドゥンケルの森でレベル上げることしか考えてなかったら、街をじっくりと見ることが出来なかったが、これは·····。

さすがは王都だな。とにかく街そのものがデカい。数キロ程度の距離では視界に収まらないほどのデカさだ。


「デカいな」


『王都ですからね。スターリ国は大国の一つですし、王都がこのくらい栄えていないと可笑しいですよ』


ほう····スターリ国は大国の一つなのか。

どの程度の大国なのか分からないが、王都の大きさから察するに前世で言うロシアか、それ以上の大きさの国だろう。まあ、ロシアの首都がどれくらい大きいのか知らんが···。


『当てずっぽうなのが残念ですが、一応合ってますよ。スターリ国は音羽が元居た世界のロシアという国より、少し大きいくらいです』


当てずっぽうなのに合ってるのかよ····。

俺の勘も意外と良いんだな。

と苦笑しながら足早に街道を駆け抜けると、ついにお目当ての場所に到着した。

おお、朝っぱらから賑わってるなぁ。

街中には溢れんばかりの人と馬車が行き交っている。前世のように交通ルールや信号機もないのによく事故らないな。

左右にはレンガ造りのレトロな感じの建物が一定の間隔を開けて立ち並び、煙突からはモクモクと白い煙が立ち上る。その白い煙は風に促されるままユラユラと踊っていた。

想像通りの街の風景に苦笑を漏らした。

ここまで想像通りだと、逆に怖いな。

おもむろに街中へ歩みを進めると、四方八方から様々な視線を感じ取った。

?····何でこんなに見られてるんだ?


『その格好のせいですよ。全身真っ黒じゃ、そりゃあ目立ちます』


あっ···なるほど。

黒髪黒目な上に俺は今、真っ黒な鎧を身に纏っているからな。そりゃあ、目立つわな。こんだけ全身真っ黒だったら、嫌でも目に入る。

やっぱ、鎧はシルバープレートを選んでおけば良かった。

なんて後悔するものの、もう一人の俺が『もう遅い。今更だ』と告げている。

飯より、服の調達の方が先かもしれない····。


『それだと行った道を引き返すことになりますが、それでもよろしいですか?』


つまり、服屋より飯屋の方が手前にあると···?


『はい、そうです。あっち行ったりこっち行ったり、と無駄に歩くことになりますが、それでも良いのなら先に服屋へ案内しますよ』


無駄に歩くのは構わないが、無駄に時間を消費するのは避けたい。レベル上げに当てる時間が減るのだけは勘弁して欲しい。

仕方ない····ここは効率を重視して、飯屋から行こう。

ビアンカ、当初の予定通り飯屋から案内してくれ。


『畏まりました。それでは、ご飯屋の道案内からさせていただきます』


ああ、よろしく頼む。

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