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劇的なる抒情詩集 Dramatic Lyrics  作者: ロバート・ブローニング Robert Browning(翻訳:萩原 學)
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スペイン廻廊での独白 Soliloquy of the Spanish Cloister

1842年の初出では、Camp and Cloister と題した2篇のうち Cloister(Spanish)であった。Cloisterとは、聖堂の庭を囲む廻廊を指す。ヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』第2幕は、スペイン『サン・ジュスト修道院』から始まるので、そちらのイメージがあるかもしれない。そんな所に出入りして呟くのは、修道士その他宗教関係者な訳で、厳粛に清らかな言動が期待される。

I

ガルルル ─それ行け、是なる心は最早我慢がならぬ!

貴様のクソッタレな植木鉢には水をやっておけ!

ローレンス兄弟よ、憎しみが人を殺すのならば、

俺ではなく神の血が、お前を殺すであろう!

何?ギンバイカの植え込みを刈り込まねば?

いや、あの薔薇は前に求めがあっただろう…

そいつの(にび)色な花瓶は溢れさせたいのか?

貴様乾かしやがれ、それに火つけてでも!


GR-R-R—there go, my heart's abhorrence!

Water your damned flower-pots, do!

If hate killed men, Brother Lawrence,

God's blood, would not mine kill you!

What? your myrtle-bush wants trimming?

Oh, that rose has prior claims—

Needs its leaden vase filled brimming?

Hell dry you up with its flames!


II

ご飯は一緒に座らねば。

サルヴ・ティビ!是非とも聞こう

賢くも天気の類を語られば、

季節の並び、一年の気候。

コルク樫の実は豊富ではない、殆どは。

没食子(もっしょくし)を我等は望むが、どうだろうか。

何といったか、「パセリ」のラテン名は?

何といったか、ギリシア名で「豚の餌」?


At the meal we sit together:

_Salve tibi_! I must hear

Wise talk of the kind of weather,

Sort of season, time of year:

Not a plenteous cork-crop: scarcely

Dare we hope oak-galls, I doubt:

What's the Latin name for "parsley"?

What's the Greek name for Swine's Snout?


III

ふう!大皿はぴかぴかに磨くべし、

よく注意して覆いをかけて!

備え付けの匙も真新しくし、

自分には一つ聖杯もつく、

何かの犠牲のように濯がれた

我等の口元ぴったりくる前に──

我等が略号 L. まで記された!

(ひひっ!奴に鈴蘭でも切ってやる!)


Whew! We'll have our platter burnished,

Laid with care on our own sheld!

With a fire-new spoon we're furnished,

And a goblet for oneself,

Rinsed like something sacrificial

Ere 'tis fit to touch our chaps—

Marked with L. for our initial!

(He-he! There his lily snaps!)


IV

聖なるかな、まことに!茶色いドロレス

院外の土手に座り込むなり

サンキチャと共に、話をしていて、

髪房少々水槽に浸かるは、

青黒く、つやつやと、馬の毛のように厚く、

──見えていないか、奴の死んだ目が見開かれ、

バーバリー海賊さながらに輝くのが?

(つまり、奴がそうして見せているのなら!)


Saint, forsooth! While brown Dolores

Squats outside the Convent bank

With Sanchicha, telling stories,

Steeping tresses in the tank,

Blue-black, lustrous, thick like horsehairs,

—Can't I see his dead eye glow,

Bright as 'twere a Barbary corsair's?

(That is, if he'd let it show!)


V

奴が軽い食事を終えたところで、

ナイフとフォークを置いたりせぬのは

我が記憶に交差するところ、

我が行いに同じく、イエスの賛美。

三位一体の体現たる我は、

オレンジの絞り汁を飲むにも

三口に分ける、かのアリウス派も苛つくように。

対して奴は自分のを一飲みにしおって。


When he finishes refection,

Knife and fork he never lays

Cross-wise to my recollection,

As do I, in Jesu's praise.

I the Trinity illustrate,

Drinking watered orange-pulp—

In three sips the Arian frustrate;

While he drains his at one gulp.


VI

おや、あれなるメロンは?できたら

皆でご馳走になろうかと。やったね!

一つは院長の食卓に取っておき、

全員に一切れずつ、回ったね?

おまえの花はどんな感じに?二つとない?

果実一種類ではないとおまえに探れた?

怪しい!俺も見とくが、そんな問題なら

そいつはこっそり毟って隠しとけ!


Oh, those melons? If he's able

We're to have a feast! so nice!

One goes to the Abbot's table,

All of us get each a slice.

How go on your flowers? None double?

Not one fruit-sort can you spy?

Strange!—And I, too, at such trouble,

Keep them close-nipped on the sly!


VII

ガラテア人には凄い本があるのだけど

行こうものなら、待っているのは

29にも分かたれた地獄の責め苦だ、

一つ抜けても次のに落ちるだけの

死にかけた奴を旅立たせるなら

これ以上は有り得ない天国に違いない

奴を跳ね飛ばして宙から放り込むなら

マニ教徒なる地獄へ真っ逆さま。


There's a great text in Galatians,

Once you trip on it, entails

Twenty-nine distinct damnations,

One sure, if another fails:

If I trip him just a-dying,

Sure of heaven as sure can be,

Spin him round and send him flying

Off to hell, a Manichee?


VIII

あるいは我が頽廃的フランス小説

ザラ紙に鈍く打たれた!

単に一瞥するだけで、貴様は土下座し

手足はベリアルの支配下だ。

そのページに倍賭けするなら

ガタガタの第16版であっても、

奴が西洋スモモを集めたときに、

その籠開けて滑り込ますか?


Or my scrofulous French novel

On gray paper with blunt type!

Simply glance at it, you grovel

Hand and foot in Belial's gripe:

If I double down its pages

At the woeful sixteenth print,

When he gathers his greengages,

Ope a sieve and slip it in't?


IX

あるいは、そこに魔王が!一つ冒険するか

誰かの魂を奴に誓約しながら、未だ除かぬ

その証文にある相当な欠陥を

奴は見逃したままゆえ、過去を取り戻す、

忌々しくも乗せてやる、あのバラアカシアを

我等はいたく誇りに思うぞ!キン、コン、カーン。

すわ、晩課になったか!プレナ・グラツィア

アヴェ・ヴィルゴ!グルルル──こンの豚があ!


Or, there's Satan!—one might venture

Pledge one's soul to him, yet leave

Such a flaw in the indenture

As he'd miss till, past retrieve,

Blasted lay that rose-acacia

We're so proud of! Hy, Zy, Hine.

'St, there's Vespers! Plena gratiâ

Ave, Virgo! Gr-r-r—you swine!

myrtle:マートルまたはミルトとも呼ばれる銀梅花は、殺菌作用のある強い芳香を放つフトモモ科の低木で、その花は薔薇と共に『愛』を象徴する。古くはシュメールの女神イナンナの聖花、ギリシャ神話では地母神デーメーテールやアプロディーテー(ローマ神話ではウェヌス)に捧げる花。近くはヴィクトリア女王が長女の結婚式に贈って以来、花嫁のブーケに使われる。

Salve tibi:ラテン語による挨拶。「御機嫌よう」程度の意味合い。

cork-crop:コルク樫に実る巨大なドングリは、イベリコ豚の餌になる。

oak-galls:樹の瘤から採れるタンニンは千年ほど、つけペンに使うインクの材料になっていた。

Swine's Snout:蒲公英をいう。目の前の人物(Brother Lawrence)を当て擦った言い方。「豚に真珠」も英語では "pearls before swine" というので、詩人は意図的に swine を用い、修道僧が悪態をつく様を見せている。

lily:一般的には百合を指すが、どうもここでは毒を持つ種類を言うようだ。

sheld:「盾」ではない。押韻のために選ばれただけで、大皿の埃よけに被せるカバーの事らしい。

the Arian:アリウス派。救い主イエスを被造物と見て、ニカイア公会議の三位一体説に反対し、異端とされた。

scrofulous French novel:うすい本などではなく、ラブレー『ガルガンチュワ物語』『パンタグリュエル物語』の事らしい。教会の諷刺を含むため禁書とされた。

greengage:プラムの1種らしく、訳者は見たことがない。

"Hy, Zy, Hine.":詩人が残した謎の一つ。晩鐘(晩課を告げる鐘)の音写とする説を採り、このように訳してみる。「シチリアの晩鐘」事件にジュゼッペ・ヴェルディが作曲して以来、晩鐘には虐殺のイメージが付きまとう。通説では、本作の話者はローレンス修道士をひたすら憎み、あれこれ殺害計画を立てるも晩鐘に邪魔され未遂に終わる、というのだが。未遂でいいのか?

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