ハードボイルド★カラスのジョニーの独り言
俺の名はジョニー。
ちんけなカラスをやっている。
俺たちの朝は早い。
日が昇ると同時に、狩りの始まりだ。電線に止まり、狩りの獲物を探す。
とにかく動くものは全て見逃さない。遊びじゃないんだ! 生きるためには必死なのさ。
昨日の朝は、運よくドブネズミを仕留める事が出来たが、今日も同じ場所に奴らが現れる事はないか・・・
奴らもバカじゃねー、仲間がやられた現場には、しばらく近づいてこねーか。正解だ!
場所を変えるか。
電線を離れ、上空をグルグル旋回していると、草むらから道路に向かい、なにやら這い出して来た。
ミミズだ。
「ちっ」小物か・・・。
何も無いよりましって事で、取り合えず前菜としていただいとこう。
公園にやって来た。公園では干からびて動きの悪い人間達が、音楽に合わせて手や足を曲げ伸ばししている、七人いるようだが、全く同じ動きで動いている、意味は解らんが、とても統制の取れた奴らだ。
音楽が止まると、人間どもはちりじりに解散する。
俺は知っている、その中の一人が毎日ベンチに座り鳩に餌をやるのを。
そら始まった。餌を投げるとどこからともなく鳩達が人間の投げた餌に群がった。
なぜ行って一緒に餌を貰わないかって?
俺たちは人間とは仲が悪い。
俺たちはあいつらを嫌いじゃないんだが、奴らは俺たちが嫌いらしい。
先日、仲間のトムが、鳩の餌遣りに混ざって餌をついばんでいたら、人間の奴に、石を投げられたらしい・・・
他にも、似たような話を聞く。だから俺は無暗に人間には近づかないのさ。
慌てるな! もう少し待ってろ。最後に人間は袋の中身全部をばら撒いて立ち去るんだぜ!
ほらな・・・
人間がいなくなったらこっちのもんよ、一直線にえさ場に向かい、鳩達を蹴散らし残りを頂く。
鳩どもは人間に媚をうり、しまいには人間の腕に止まり、餌をねだる。奴らには埃ってもんは無いんだろうか、見ていて哀れに思えて来るね!
今日は、この餌場は終わりだ、もう少し上質な餌を求めて街の上空を回ってみるか・・・
暫くすると、聞き覚えの有る仲間の声が聞こえて来た。ボブとトミー兄弟だ、奴らはいつも一緒につるんでやがる。何をしてるのか、俺は高いビルの上に止まり奴らの行動を観察した。
どうやら定期的に人間がゴミ捨て場にゴミを捨てに来るのを待ってるようだ。思い出した。あの場所に捨てに来る人間のメスは箒を持って現れ、俺たちを激しく威嚇する狂暴な人間だった。
しかし、あの人間のメスが捨てる袋の中身はかなりの確率で極上の肉の食べ残しがあるんだ。ボブ達はそれを知っていやがるんで、気持ちが高ぶっていやがるんだな。
どうやらおいでなすったようだ、人間のメスはゴミ捨て場に袋を置いた。その上に俺たちの邪魔をすべきネットを被せる。
ボブの野郎、動き出しやがった。人間が立ち去る前に袋に近づきついばみ始めやがった。トミーはその少し後ろで(カーカー)と人間を威嚇している。さすが兄弟、息が合ってやがる。
人間も黙って見てやしない。箒を振り上げボブに襲い掛かる。ボブは攻撃をかわして、少し離れて隙を伺う。
そんな攻防を数分はやっていただろうか、人間も疲れたのか、諦めて、その場を離れる。
さて、行くか・・・。
俺は人間のいなくなったゴミ捨て場に舞い降り、ボブとトミーと一緒になってゴミ袋をついばみ、中のお宝を無心に探す。
袋の中身を粗方ぶちまけただろうか・・・。
ゴミ袋の中から一つの袋が出て来た、その袋には、体格の良い老いたオスの人間が眼鏡を掛けてほほ笑む絵が描いてあった。
その袋も口ばしで引きちぎり、中身をぶちまけてやったら、骨付きの鶏肉のかすが、大量に散乱した。
俺はボブとトニーを見やり、歓喜したね! 大量だ。
俺たちは、無心に骨付き鶏肉のかすを堪能した、かなり肉の部分が残っていた、人間っていうのは獲物の食い方がなっちゃいない。次に、いつ獲物にありつけるか解らないのに、こんなに残してどうかしてるぜ!
ま。そのおかげで俺たちは腹を満たす事が出来るんだがな・・・。
最高のご馳走を楽しんだ俺は、ボブとトミーに別れを告げ飛び立った。しかし、あの兄弟も若いな・・・
無駄に人間と争わなくても、もう少し我慢してれば、無人のごみ捨て場でゆっくり食事が出来るものを・・・
さて、腹も満たせたし、どこに行こうか?
そういえば、最近、キャサリンと会っていねーな。この町一番のいかした女。たまには、あの子の顔でも拝みに行くとするか・・・。
キャサリンが良くいる町の北側をぐるぐる飛んでいると、いた、キャサリンだ! すでにキャサリンを中心に三羽の男が彼女に言い寄っている。「ちっ、スケベどもが・・・」しかし、あの子の美貌じゃ仕方ない事かもな。
俺はキャサリンの傍に舞い降りた。先客の男たちはライバルが増えたのが面白くないのか、俺を無視して無言になった。
俺はそんな野郎どもの事は気にせずキャサリンに話しかけた、
「どうだい? 調子は・・・」
キャサリンは、
「お久しぶりね、いつ以来かしら、元気してた?」
屈託のない笑顔で返してくる、そう、彼女の魅力はチャーミングな笑顔以外に、誰にでも分け隔てなく優しさと労りを与える存在なのだ。
そんな女神の様な彼女の周りには、いつも彼女を狙って男達が集まってくる。
いつ以来だろうか、俺は記憶を辿ってみる。
思い出した、
「ケインは元気にしてるか?」
キャサリンは声のトーンを落とし、うつむきながら、
「ケインはもういない・・・」
「そうか・・・」
半月前の話だ、当時俺たちは今の様にキャサリンを中心にバカ話で盛り上がっていた。
あの時は、気の合う仲間たちで、とりわけみんなから愛されていた(おっちょこちょい)のケインをみんなでいじって笑い合っていた。そんな中、突然あいつが現れた。
盛り上がっていた俺たちの背後から忍び寄り、大きな爪でケインを掴んで飛び去って行った、俺達は突然の出来事に訳がわからず、ちりじりに、命からがら全力でその場を離れた。
俺は逃げる際中、後ろを振り返ると、大きな鷹がケインの首根っこと体をがっしりと掴み、身動きできない状態のケインを運び去るのが目に入った。
俺たちの生活の中では決して珍しい事では無い、偶々運悪くケインが狙われただけの話だ。明日は我が身。
その場を離れながら、少しほっとした感じと、ケインが旨く逃げ延びる事が出来れば良いと心の中で願った。
あれ以来か・・・
「すまない、キャサリン。いやな事を思い出させちまったようだな!」
「いいの、あなたが無事でよかったわ」
場の空気が一気に白けてしまった・・・
俺はキャサリンがもしかして、ケインの替りに俺がやられた方が良かったんじゃないか? キャサリンはケインの事が好きだったのでは? そんな事を考え出したらいたたまれなくなった。
「そういえば、用事を思い出した。又来るぜ!」
「そう、じゃあ、又ね」
俺は用事を思い出した振りをしてその場から飛び立った、情けない話だ。彼女の心の中を知るのが怖かったんだ。もし、俺の想像通りの事だったら、どんな顔してその場にいれるんだろうか?
ケインが襲われた日の記憶が蘇って来てから、やけに落ち着かない。周囲に何度も目をやる。
鷹の姿が無い事を確認しながら慎重に飛行ルートを選ぶ。
奴に出会わない事を祈りながら飛ぶ。
俺達カラスは、奴にしてみれば獲物の一つに過ぎない、どう逆立ちしても奴には敵わない、なんといっても奴は空の王者、出会ってしまったら、息を殺してやり過ごすか、全力で逃げる以外方法が無い、情けない話だ、もっと俺たちに力があれば・・・
くだらない考えだな、もうよそう・・・
町の真ん中を流れる、大きな川に掛かる橋の上にやって来た。日の光に反射してキラキラと水面が眩しい。
日が高くなってきたのでやけに喉が渇いてきやがった。
橋から下を覗き込むと数羽の白い水鳥達が気持ちよさそうに水面を泳いでやがる。
俺も小さい頃、奴らのマネをして川で泳ごうとして、溺れかけた事があったっけな。笑える話さ・・・。
河原に降りて水場に近づく・・・
俺は周囲を何度も確認する。
大丈夫だ。川に口ばしを突っ込み、乾いた喉を潤す。
なんでそんなに周りを気にするかって?
単独行動で水を飲む時は、一番狙われやすいからさ!
仲間がいれば、誰かが気付くからそうでもないが、一人の時狙われたら、ターゲットは俺に間違い無いからな。
川の水で喉を潤しついでに、ひとっ風呂浴びるかね・・・
こう見えても、俺たちは、綺麗好きなんだぜ!
河原の浅瀬まで歩いていって身を屈める、羽を広げて体を濡らし、すぐに体を揺らし水気を飛ばす。これを数回繰り返す。
ふー。いい風呂だった・・・
早すぎないかって? そりゃ、カラスの行水って言われる位だからな・・・
むしろ人間の水浴びを見かけた事が有るが、奴ら、水につかったら、長い事動かないんだぜ!
何もしないで水の中で。変な連中だよな・・・。
腹も膨れたし、体も綺麗になったから少し静かな所で休憩でもするか。
街の外れにある小さな森にやって来た。
ここは、俺のお気に入りの隠れ家さ。街を見渡せて景色も良いし、木々の間からは清々しい風が吹き抜けて行き、何より静かだ。
ただ、ここの主に出会わなければ言う事無しなんだが・・・。
主って何かって?
ここの森を縄張りにしてるフクロウさ。奴は夜行性らしく、日の高い間は動かない。
奴も鷹と同様、俺たちを食料と思っていやがる。
今は大丈夫だろうが、出会わないに越した事は無い。
悪いが、少し眠らせてもらうぜ・・・・・・
俺はジョニー
今日も都会のどこかでひっそりと生きている・・・