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『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました  作者: 駆威 命(元駆逐ライフ)【書籍化】妹がいじめられて~発売中
第三章 世界を結ぶ、歌がある

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第64話 みんなで気持ちいい事、しよ?

「だからぁ……みんなで気持ちいい事、しよ?」


 私はエマと共にベッドの上に座り、蠱惑的な笑みを浮かべながら目の前で立ち尽くしているグラジオスとハイネを手招きする。


 私達二人の体はお風呂で温められて上気しており、更には香水入りの石鹸で香しい匂いを放っていた。


 グラジオスとハイネはそんな艶やかな私達を前にして思わず生唾を飲み込む。


「ああ、あのっ、雲母さん。ほ、ホントにするんですか?」


「何よぉ、エマだってしたいでしょ? さっきそう言ってたじゃん」


 私は隣に座るエマの腰を抱き寄せると、耳にそっと息を吹きかけた。


「いゃ……んっ」


 エマが官能的な悲鳴を上げた事でハイネが耐え切れなくなったのか、彼は鼻っ柱を抑えて一歩後退る。


 グラジオスも顔を赤くして呆然としていたが、それでも何とか自分を取り戻すと軽く咳ばらいをしてから私達の説得にかかった。


「お、お前たち。自分たちが何を言っているか分かっているのか?」


「なによ~。グラジオスは気持ちいい事されたくないの?」


 私はエマと頬を摺り寄せながら熱のこもった眼差しをグラジオスに向ける。


「よ、酔っているのか? 酔っているんだな! まったく、何をしているんだ。早く寝てしま……」


「やぁだ」


 私はそう言うと、グラジオスの手を掴んで無理やり引っ張った。


 緊張してまともに抵抗できなかったのか、それともするつもりが無かったのか、私がさほど力を入れなくてもグラジオスをベッドの上へと引き込むことが出来た。


 そのままグラジオスの頭を抱きすくめると、無理やり膝の上に誘導する。


 やめろとグラジオスは抵抗するのだが、言うほど力は籠っていない。


 結局、グラジオスは私に膝枕をされてしまう事となった。


「グラジオス……」


 私は膝の上で変な表情を浮かべて狼狽えているグラジオスの顔めがけてふぅっと息を吹きかける。


 私の甘い吐息を胸いっぱいに吸い込んでしまったのか、グラジオスは目を白黒させていた。


「ほら、お酒飲んでないの分かるでしょ?」


 私はグラジオスの額に左手を置いて、空いた右手で頬を優しく撫でる。


 グラジオスはもう何が何だか分からないという感じで狼狽えており、緊張から冷や汗を大量に浮かべ、言葉を紡ぐことを忘れた口を意味もなく開閉させていた。


「じゃあエマ、約束通り半分こね」


「は、はい……」


 雰囲気に飲まれていたグラジオスだったが、いざとなったところで我を取り戻したのか抵抗を始めてしまう。


 とはいえ私が片手で額を抑えるだけで動けなくなってしまうほど弱々しい抵抗だったが。


「ま、待て雲母。こういう事は良くない。き、きちんとお互いの気持ちを確かめ合ってだな。ほ、ほら、エマも雲母を止めるんだ」


「も~、こんな時だけエマのご主人様ぶるなんてずるいぞぉ。いいから……」


 私は頭を下げてそっと唇をグラジオスの顔の前にまでもっていき、


「すっごく、気持ちよくしてあげる」


 甘い声で囁いた。


「大体、抵抗しないってことはさ。グラジオス、したいんでしょ?」


「なっ」


 グラジオスは絶句してはいたが、否定もしなかった。


 私はそれを肯定と見て、更に顔をグラジオスに近づける。


「も~、仕方ないなぁ。……してあげるね?」


 グラジオスと私の唇の隙間は限りなくゼロに近づいていき、二つが触れ合うその直前――。


「み・み・か・き」


「は?」


 私は顔を上げると、グラジオスの額にかかっている前髪をどけてその間抜け面を堪能する。


 ……というか、ダメだ。めっちゃ笑えて来た。


「ぷっ、あはははははっ!! 何その顔~。何すると思ってたの、このスケベ。というか今絶対期待してたでしょ~」


「そ、その……す、すみません殿下。好奇心が押さえられませんでした……」


 エマは精一杯申し訳なさそうにしているのだが、やはりグラジオスが滑稽な表情をしている事が面白かったのか、口元を震わせている。


 グラジオスは最初こそ訳が分からないといった感じの表情で目をぱちくりさせて私とエマの顔を交互に見比べていたのだが、大爆笑している私を見て段々と状況を呑み込めていったのか、やがて不機嫌な表情に変わっていった。


「ったく、俺は帰るぞ」


「っととと、待って待って」


 憮然とした様子で体を起こそうとするグラジオスの頭を、私は膝に押さえつける。


「耳かきしてあげるのは本当なんだから」


「は、はい。こうして準備してますから」


 慌ててエマがポケットから二本の耳かき棒を取り出してグラジオスの目の前にかざして見せる。


 それを見たグラジオスはため息をつくと、


「……分かった。もう好きにしてくれ」


 と、ちょっと諦めたような感じで言ったのだった。


「おっけー。じゃあまずは私がグラジオスの右耳するから、エマはハイネの……」


 言いかけて私はハイネがえらく静かな事に気付く。


 ネタばらしをしたのだから、ハイネが何か言ってもおかしくないのに……と思って顔を上げると……。


「ハイネー! 死んじゃダメーー!!」


 ハイネは鼻と口を自分で押さえつけ、立ったまま白目をむいていたのだった。




「自分、このまま死んでもいいっす!」


「死なないでください」


 ソファに座るエマの膝にハイネは頭を乗せて恍惚としている。


 普段からエマにアプローチを繰り返している(とはいえ決定的な言葉は遠慮して言っていないのだが)ハイネからすると、今の状況はまさに天国だろう。


「じゃあグラジオス。したげるね」


「…………」


 不機嫌そうにムスッとしているグラジオスだったが、なんだかんだ言っても私の膝枕に頭を乗せたまんまで居てくれてるのだから……やっぱりスケベ?


「グラジオス、絶対動かないでね」


「傷付けるなよ」


「大丈夫大丈夫」


 私は金属製の耳かき棒を手にすると、作業を始めた。


 まずは耳たぶを引っ張り、入り口周辺についている粉っぽくなった耳垢を掬ってはハンカチの上に落としていく。


 それが終われば次は耳たぶの溝にたまったカスを取っていく。


「気持ちいい?」


「……悪くはない」


 最近はあまり見なくなったひねくれだったが、不機嫌になると再発するらしい。


 子どもみたいなんて感想を抱きつつ、私は丁寧に掃除をしていった。


「じゃあ耳の中をするから痛かったら言ってね」


 返事は無かったが、私は勝手に肯定と判断して耳かきを続けることにした。


 手始めに先っぽの部分をハンカチで綺麗に拭う。


 ゴミがまったくついていない事を確認してから、そっとグラジオスの耳に耳かきを侵入させる。


 グラジオスは欧米人らしい見た目の通りあめ耳だったが、匙型の耳かきが意味をなさないわけではない。


 私は壁を傷つけないように軽く押し当てる感じで耳垢を掬ってはハンカチでぬぐっていく。


 何度かの往復の後、とりあえず見える位置は綺麗に出来た様に思う。


「どう?」


 聞いてみても相変わらずグラジオスの反応はない。


 文句がないってことは気持ちいいってことかな。今の拗ねた感じだと素直に色々言えないだろうし。


「じゃあもっと奥の方するからね~」


 耳たぶを引っ張って更に奥を覗きこむ。


 ランプの発する頼りない明りでは見えにくかったが、ちょっと大物がある様に見えた。


 大方布で耳を拭いた時、中へと追いやってしまったのだろう。


 私は慎重に耳かき棒を操り、手探りで進んでいく。


 やがてこつんっと何か固いものにあたる手ごたえがした。


 私は色々な方向にグラジオスの頭を転がして正体を探った結果、固まってしまった耳垢だと判断する。


 私は持てる最大限の耳かきテクを駆使してグラジオスを傷つけないように慎重に慎重に大物へのアタックを続けたのだった。


「……ぷぅ」


 何分経ったかは分からないが、ようやく大物を取り出すことに成功した私は、無意識に止めていた息を吐き出した。


「よしっ、と完了」


 私はハンカチの上に耳かき棒を置くと、グラジオスに終わったことを伝えようとして……。


「ありゃ、寝てる」


 グラジオスはいつの間にか夢の世界に旅立ってしまっていた。


 しかも結構深い眠りに入ってしまったのか、ちょっとやそっとでは起きなさそうである。


「殿下は寝てしまわれたのですか?」


 エマがぽつりと呟く。


 グラジオスの耳かきが出来ない事がそれだけ残念なのだろう。


「また明日、だね」


 起こすのも忍びないのでそう判断する。


 部屋を移動させるのも手間だったので、靴を脱がせた後きちんとベッドに寝かせて布団をかけておいた。


 その際、ハイネが持ち上げたというのに起きる気配すらなかったので、よっぽど疲れていたのだろうか。


「おやすみ」


 そう言い残すと私達は部屋を後にしたのだった。





 ちなみに、ハイネはというと……。


「どうだった? エマの膝枕」


「最高だったっす! ありがとうございますっす、姉御。もうホント感謝するっす!」


 興奮して眠れなかったみたいだった。


 まあ、これでハイネへの感謝になった……よね?

読んでくださってありがとうございます

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